磯崎新の建築談義#09サン・カルロ・アッレ・クァトロ・フォンターネ聖堂

気がついたらもう2年も経っていました。
あの日、あの聖堂の天井を見上げて味わった
包まれるような、吸い込まれるような感覚...。
どんなにたくさんの情報をもって挑んでも
ものすごい期待に胸をふくらませて足を踏み入れても
それらを遥かにしのぐ感動を与えられる瞬間があります。
こういう一瞬が旅の醍醐味だなぁとつくづく思うのです。
サン・カルロ・アッレ・クァトロ・フォンターネ聖堂は
ローマのテルミニ駅周辺のお手頃ホテルエリアから
人気のスペイン階段方面に歩く途中の交差点にあります。
四つ角にそれぞれ噴水があるからクァトロ・フォンターネ。
設計者フランチェスコ・ボロミーニの代表作です。
排気ガスで真っ黒になった外壁の窪んだところから中に入る。
小さな敷地いっぱいに建った聖堂は交通量の多い狭い道路から
たった二三歩で、ため息を誘う神秘的な世界と変貌する。
聖堂には地上レベルでの開口がないから、視線は
光が入ってくる方向を追って自然と天井に向かっていく。
ここでひとまず衝撃を受けて
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ため息をたっぷりと漏らして
気が静まってからゆっくりと下の方のディテールに一つ一つ目をやると
縦に横に平面にそして斜めに覆いかぶさるように
楕円のモチーフが繰り返される。
めまいがしたのです。本当に。
あの時のめまいの理由がこの本を読んでいるとよくわかります。
バロックの始まりと言われるこの時代がすでに
バロックの頂点を極めていたというのもよくわかります。
過剰と感じる一歩手前の、ギリギリの緊張感が
クァトロ・フォンターネの最大の魅力と思うのですが、
ギリギリの線上にある時代を代表する様式がずっといられるわけもなく、
その線を超えちゃって乙女チックなロココへ時代が向かったんですね・・・
興奮さめやらぬままボロミーニのライバル、ベルニーニが設計した
すぐ近くの教会へ行って、肩すかしをされたような感覚も忘れられない
のですがその理由もこの本を読んでよくわかった気がします。
ボロミーニの楕円がアナログな楕円でベルニーニはデジタルな楕円
というのも「ギリギリ」の脆さをよく表している。
コンピュータのソフトにある楕円ツールで書けるのがベルニーニの楕円で
いくつかの円弧を組み合わせないと書けないボロミーニの楕円は
円弧同士のつなぎ目をフリーハンドで解決している節もあるくらい
絶妙なラインなのだそうです。
実測して図面におこすと計測した人によって
違う図に出来上がるというのもとても興味深いエピソードでした。
偶然にもこの間読んだ「住宅論」の中の印象的なことばに
「計測が到達できない地点から先が私たち建築家の本来の仕事である」
とあって、場の雰囲気のことを言っているのだろうと理解したのですが
本当の意味で、計測が到達できない地点があるのかと
あらためてあの旅の体験の貴重さを思い知らせてくれた一冊。
ありがとぅ。
磯崎新の「建築談義」は篠山紀信撮り下ろしの「建築行脚」シリーズの
縮小版ではありますが 五十嵐太郎氏との対話形式の文章が読みやすく
お値段もお手頃なのでお気に入りなのです。
#05ルトロネ修道院もかなりオススメです。