「だれかきた」


息子が窓から外を見て言った。

私が玄関から外を覗くと、おじいさんが一人。

薪用のケヤキの丸太を眺めていた。


「大きなケヤキだな。おとうちゃんいる?」


「今ちょっとでかけてて」


「庭の木邪魔だから切ったんだけどよ、いらないかと思って。後で見にきてよ」


「わ、ありがとうございます」


ご近所さんは、うちが薪ストーブなのを知っているので、こうして木を切ると教えてくれます。


「あとで伺いますね」


「£€$^{%,>^*€!<班長の」


唐突だがここは北関東の農村地帯。地元民ではない私にとって、とくに高齢男性の訛りはあまり聞き取れていないのである。


「すみません、お名前伺っても?」


家を建ててここに住むこと7年。小学生やその親たちは知っていても、自治会のおじさんたちの顔と名前は一切一致しないのである。


「〇崎ひろし(仮名)」


このあたりは⚪︎崎さんがとても多い。

というか多分、この地区はおよそ半分が⚪︎崎家である。

フルネームを教えてくれたのもこういうわけなのだ。


「わかりました。あとで伺いますね」



夫がそのあとすぐに帰ってきたので、その旨を伝えた。

夫は自治会の飲み会(田舎あるある。おじさんだけが出席するイベントの後に行われるアレである)に出ているので、近所のおじさんたちとは面識がある。


だが夫も地元ではないので、特に飲み会の場で訛りが強化されたおじさんの話は半分もわからないらしい。


「ひろしさんってどっち?漢字は?」


漢字など知るはずがない。口頭で聞いただけだ。


「⚪︎崎ひろしさんって2人いるんだよ。広さんと宏さん(※仮名です)」


なんてこった。そんなことあるのか。


というかご近所で下手したら親戚なのに、同じ名前って一体全体どういうこっちゃ。

たぶん年もそう離れてない(6〜70代くらい、私たちの親世代)ずっと地元に住んでるだろうに、なぜ同じ名前にした。


「体型はどんなの?」


どんなのと聞かれてもおじさんの体型としか言いようがないんだが。


「大きいか小さいか」


「それならたぶん、小さいかな」


どっちのおじさんも知らないので比較検討しようがないのだが、なんとなく小柄だったイメージだ。


「じゃあ広さんのほうかな。一緒にきてよ」


えー

私はあまり人の顔を覚えるのが得意ではない。

なので正直、顔見て正解がわかるとは思えない。詰んだ。


でもまぁ、庭で木を切ったと言ってたから、庭見ればわかるだろ。たぶん。


というわけで夫と共に軽トラに乗り、⚪︎崎広さん宅に向かった。すると畑の周りの木が切り倒されている。


1/2の確率、見事的中…!(よかったー)


ていうかこの家、夏祭りの時に来たな。飴玉もらった覚えがあるわ。

全然顔覚えてないけど。


おじさんとその息子らしき人が出てきて、夫に木の説明をしている。


…こんな顔だっけ。

ていうか、さっきと服変わってない?


微妙に自信が持てないものの、軽トラ二杯分の木をもらってきました。ありがたやありがたや。