Ⅰ 人間存在としての救い <個人>
  「はい」と言われている存在
  3・それでも根本的に愛されている

 それまでのサウロ(ヘブライ語の名前)の歩みは、ダマスコの回心、主に出会うまでの条件だった。そして、サウロは宣教者として開花していくのです。
パウロ(ギリシア語の名前)は何によって救われるのか、救済論の問題点がはっきりと見えていたのです。「文字でなく霊に仕える資格」(Ⅱコリ3,6)

 サウロは、ユダヤ教の中で一番厳格な派であるファリサイ派の一員として生活し、熱心さの点では教会の迫害者、律法の義については非の打ちどころのない者でした。(使26,5)(フィリ3,5)
 サウロは人が心の中で求めている渇きを感じ取っていました。真実を追究し、「文字」から真理と思われるものを取り出そうとしたが、迷いに身を置く人に対し、培ってきた論理は不十分、不充足感を感じました。根源的な問いに、客観実証的には十分に答えることができない。論理的な観点のみに立とうとすると、映し出されてくる世界は固定化された静的な物質化された世界であって、ダイナミックな世界ではありません。合理主義の立場では、結果は原因によって十分に解明されると考えられますが、この世界には、無数の問題がのこることになります。というのは、原因の細部までは知らないため、原因をどこまでも限りなく研究する余地がのこされるからです。(24)
 サウロは、現実は強い宗教心に燃えることは出来ても、先人たちの歩みが自分のことのように実感をもって迫ってきたわけではなかった。

  

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 成文化され、掟となり、様々な解釈が加えられ、権威が生じた「文字」も、数々の解決不能に思える難題に対して、主、いと高き神に祈りをもって真摯に問いかけた預言者たちの「霊」だった。
 かつて、預言者たちは叫び、地上のメッセージを遺して散っていった。だが、その預言者たちの叫びが人々の記憶から忘れ去られていくと、また預言者が現れて、記憶を呼び覚ました。
超越的な次元では断絶はなく、連続性がある。永遠性を持つ、構造的持続性、孤独で死んでも埋もれることのない永遠のものがある。遥かなる歴史の流れに埋もれることのない伝承がある。預言者たちは現れては消えて行った。預言者たちの召命は、神を求める切なる願いと厳しい自己との闘いが前提でありました。預言者たちは語り継いだ。

 

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(24)マルセル G.著 峰島旭雄訳「実存主義叢書4 存在の神秘序説」理想社 昭和51年  P15