墨淵の前に司音(白浅)が居なくても、墨淵は彼女の声を聞くことが出来る。

あの時、遥光上神の水牢で司音(白浅)を助けて以来『以心伝心(ホットライン)』が使えるようになった。
画像は、中国ドラマ『永遠の桃花』からお借りしました。


離鏡との恋が『失恋』に終わり、嘆き悲しむ司音は部屋に籠って一人で泣いた。涙が枯れるまで。声が枯れるまで慟哭した。

泣き過ぎて、喉が乾いた司音が求めたのは『崑崙虚のお酒』で、もともと治療に使う『消毒薬』又は『薬』としての効果が強かっただけに、司音が身体を壊さぬかと心配して、修行を切り上げて洞窟を出てきた墨淵である。

酒蔵の一室で、墨淵の膝枕で横になる司音をみていると、弟子に対して持つ感情とは全く別のものが沸き起こってきて、動揺する。

墨淵が此の世に生まれてこのかた、女性を愛したのはたった1度だけで、それも死別している。原因は墨淵が急いたせいで、愛する女性を死なせた。

だから今回、司音に対しては、司音が墨淵を受け入れる準備が整うまでは黙して待つつもりだった。
「司音、崑崙虚を修了して青丘に帰るまで私は待つ。男装を解き、女性に戻ったら晴れて告げよう『愛してる』と。」

離鏡との恋は許されぬもので、弟・夜華君との恋は所詮『政略結婚』である。

墨淵は司音と二人、崑崙虚での静かな暮らしを望んだ。

『四海八荒の主』となり、天界、天族を守るために戦に明け暮れた日々は墨淵の本意ではない。戦に明け暮れていたのは、戦が無くなれば、敵が誰も居なくなれば、そうすれば愛する女性と静かに暮らせると考えたからで、それは間違いだった。

此度の墨淵は、もう引くつもりは無かった。

弟・夜華から白浅を取り返す。必要であれば、『四海八荒の主』になることも厭わない。手段を選ばずに奪う気だった。
「ふっ、帝君もそれが狙いだろうよ。」

夜華は優しく、家族思いだから、実の祖父である天君を手に掛けることは出来ないだろうが、墨淵は出来る。
「白浅を泣かしたこと、百倍にしてやる。」

怒った墨淵ほど怖いものは、四海八荒三界六合にはない。天君はほどなく知ることになった。


続く。