夜華君が最近使っている『湯飲み』ですが、白浅上神が東華帝君に依頼した『特別製(オーダーメイド)』です。特許製品(笑)です。

画像は全て、中国ドラマ『三生三世十里桃花』からお借りしました。



かつて、素錦が夜華君の母后である楽胥娘娘に
「白浅上神は夜華に『媚薬』を盛ったのでは?」
と、告げ口をしたことがあります。

白浅は夜華君に黙って『媚薬』ではなく『滋養の薬』を盛っていたので、状況から事を察した夜華君がお茶を飲み干して『証拠隠滅』をしました。
「この御茶は白浅が私に用意したもので、『折顔上神の薬』が入っています。」と説明。

本来であれば『滋養の薬』と言えど、天族太子である夜華君に内緒で『一服盛る』ことはいけない事なので、大事に至る前に善処したのです。

『私、天族太子夜華は、白浅が私の為に『薬を盛った』ことに同意しており、罪に問うつもりはありません。口も手もを出さないでください。』と、言外に言ったのです。

夜華君えらい。



『無忘海』で60年間眠るはずだった夜華君が、たった『3年』で目覚めたことには無理があったはずです。

夜華君は相当無理をしている。

九重天の天宮に戻り『天族太子』の位を取り戻したのは、『天族太子夜華君の許嫁である白浅上神』という立場を取り返すため、です。

『夜華死亡』と共に『破談確定』になるとは予想しておらず、夜華君が居なくなっても、白浅は『夜華君の許嫁』『阿離の母』として洗梧宮に留まれると夜華君は考えていました。甘かった。

まさか、自分の両親(央錯君と楽胥娘娘)二人が寄って集って『嫁苛め』をするとは、予想していなかった夜華君の手落ちです。

あぶないあぶない

白浅を連れた夜華君が九重天に戻り、天君に帰還の挨拶をした後、夜華君が一番に実行したことは両親の説得でした。
「白浅は私の妻・素素で、308年前に青丘東荒の俊疾山で『四海八荒の神々』を立会人に婚儀を挙げました。白浅はすでに私の妻です。ゆえに、洗梧宮に入宮させます。」

むろん、夜華君の両親は猛反対しますが、夜華君は聞く耳を持ちません。
「青丘の手前、白浅には『正妃の寝殿』である『長昇殿』を与え、洗梧宮の差配も任せます。今後、白浅と洗梧宮には『お手出し無用』に願います。」と。

夜華君の言葉は丁寧でしたが、これらは事実上、両親への『お願い』と称した『太子命令』でした。

『天族太子』を前にして、『皇子』に過ぎない父・央錯君と母・楽胥娘娘に出来ることはありません。天族は身分と地位が全てに優先される社会です。息子に敵いません。



妻・素素を失い、後悔に費やした300年は生き地獄でした。生きながら死んでいた日々、夜華君は二度とごめんです。白浅を得られるのなら、彼女を『皇太子妃(正妃)』に。

二人で『天君』『天后』になる。



天宮帰還後も引き続き療養中の夜華君は、白浅が入れた『折顔上神特製の滋養薬』が入っている『御茶』を飲み続けます。

再び倒れ、敵にも、味方にも、本の僅かな『隙』もみせるわけにはいきません。



白浅に直接文句を言いに行く楽胥娘娘


白浅は、楽胥娘娘に言いました。
「夜華は私、白浅の許嫁(未来の夫)です。…ですが、すでに私、素素の夫なのです。」



怒った楽胥娘娘と央錯君がしたことは、夜華君と白浅の『大婚』の妨害工作です。別名、手続き放置ともいう。花婿側が『正式な結納品』を花嫁側に納めない限り、段取りは進みません。何一つとして。

『結納』という古典的な策を両親に取られてしまい、夜華君も白浅も大婚の段取りが進まないことに苦笑しましたが、『二人の婚儀』なら308年前から『進んでいない』ことにある日気付きました。
「何をいまさら慌てる必要がある?私達はすでに『婚約』したのだから、いずれ夫婦になる。それまで『許嫁』で居れば良い。」
「そうね、308年待ったのだから。あと数年待っても大差ないわ。」

白浅は楽天的です。

夜華君は違います。あと数年とはいえ、夜華君は白浅のためにたくさんの『無理』をしています。


白浅は夜華君のために何か出来ないかと考え、考えあぐねた結果、『夜華君特製の湯飲み』を作る事を考えつきました。


ここは、東華帝君の出番です。




青丘から『陶土』と『釉薬』を取り寄せ、天界一の『陶芸家』を自称する東華帝君に『お願い(挑戦)』したのです。

「天界一の陶芸家なら、私の『お願い』なんて簡単でしょう?」

「白浅、これは何時ぞやの『貸し借り』の清算か?」

「…どうでしょう?」

「まぁ…いいだろう。」


白浅に言葉を返しつつも、胸に手を当てる東華帝君でした。心当たりがありすぎると大変です。


…実は、白浅の言葉がグッサリ刺さっている。





後日、洗梧宮長昇殿に届いた『夜華君特製の湯飲み』は、東華帝君の力作に相応しい品でした。見た目といい、造りといい完璧な出来です。

たとえ洗梧宮に不心得者が居たとしても、割れることが無く、欠けることも無い超頑丈な湯飲みです。

誰が投げても落としても大丈夫。絶対に割れません。
「さすがは東華帝君、『天界一の陶芸家』は自称じゃない。凄いわ。」


『特製湯飲み』の破壊方法を知っているのは二人だけ、東華帝君と白鳳九です。夜華君特製湯飲みの失敗作数点を、泣く泣く処分した二人ですから。

そして、あまりにも超頑丈に創りすぎたため、試験作である数点は自分用に取り置きました。東華帝君の言葉が書かれた『特製湯飲み』を、帝君は妻・白鳳九に与えました。そうしなければ太震宮の湯飲みが1つ残らず、白鳳九に割られてしまいそうな勢いでした。

割れない湯飲みは、東華帝君にも必要だったのです。
「…ふふふ、白浅。良い物をくれたな。」



『特製湯飲み』は366客(1年は365日、閏年の1日を足す)あり、毎日使っても、同じ湯飲みが夜華君の前に出されないようになっていました。

東華帝君、貴方は凄い。

366客の湯飲みは見た目どれも同じ黒い湯飲みでしたが、白浅がお茶を入れ、夜華君が飲み終わる一瞬だけ、赤い湯飲みの底に数文字の『言葉』が現れる『仕掛け』がしてありました。秘密の仕掛けです。

白浅が青丘からお取り寄せした『陶土』と『釉薬』を、東華帝君が絶妙に使って作った力作です。

そうして、白浅と夜華君は『大婚』の段取りが整うまでの223年を二人で乗り越えたのです。

湯飲みの文字は夜華君に、簡単な白浅の言葉(伝言)を伝えていました。
「愛してる」「待ってる」「いつまでも」「あなただけ」等々です。



366客の湯飲みに書かれた『文字』全てを知っているのは夜華君と、東華帝君の二人だけ。

夜華君は白浅に何も言わないし、東華帝君は白浅が訊いても教えてくれません。夜華君のためにリストを作った白浅でさえ、どの言葉を東華帝君が採用したのか知りません。1つを除いて。

『我愛你』と書かれた湯飲みだけは、常に夜華君の傍らに置かれました。『白湯専用』湯飲みとして、夜華君が肌身離さずに使いました。

自分で毎日お白湯を湯飲みに入れて使い、使用後は湯飲みを洗って手巾で包み、上衣の懐に入れていました。

その事を白浅が知っているのは、『我愛你』の湯飲みを偶然使ったことがあるからです。
「夜華、お白湯をちょうだい。」
「白浅、それは薬湯用の…」
「知ってるわ。」

白浅は夜華君が毎日違う『湯飲み』を使っていると思っていたので、文机の上に置かれた湯飲みを無造作につかんでお湯を注ぎました。
「さて、何が出るかな?」
「・・・。」

白浅が湯飲みのお白湯を飲み干した刹那、『我愛你』の文字が浮かびました。
「…ん?『我愛你』は、昨日使った湯飲みじゃないの?」
「…確かに、昨日も使った。」
「昨日使って、今日も使ってるの?私が洗い忘れたのかしら?」
「…そうじゃない。そうじゃないのだ。」

顔を真っ赤にした夜華君が首をふり、白浅の手を取りました。
「これだけは、常にそばへ置いておきたい。」
「ただの湯飲みよ?」
「私にとってはそなたの代わりだ。」
「…良いわ。」

『湯飲み』が白浅の身代りとは、夜華君はどうしたのだろう?白浅は首をかしげました。

白浅には、夜華君の寂しさが解りません。

不思議なもので、二人で洗梧宮に住み始めてからの方が言葉が減りました。会話が減りました。白浅の居所、長昇殿は夜華君の紫辰殿の西隣で、歩けば3分と掛からない距離にあります。路に迷うことはありません。


近いがゆえに、遠い距離と感じている夜華君と

目に見える距離であるがゆえに、寂しさを感じない白浅の心がすれ違います。


男と女

初心者と経験者


会えない時間が寂しいと思う女と

愛の言葉を求める男


その間に転がっている、割れない湯飲みが1つ。



太震宮で東華帝君が洗梧宮の方を眺めながら一言、ポツリと言いました。
「…三生石に名があるなら、いくらでも待つも良かろう。夫婦になったら、好きも嫌いもドンドン言えなくなる。」

東華帝君はいま、恋人白鳳九に手を焼いています。



『夜華君特製の湯飲み』の秘密を、私のアメンバーさんに贈ります。

再編成しました❤️