・・・✤BLを含む完全妄想のお話です✤・・・
翔についての記憶が消されていたのは相葉ちゃんだけではなかった
ニノからは昨日お見舞いに来られなかった事を詫びるメッセージが届いて、その内容は相葉ちゃんと同じで一人暮らしを気に掛けるようなやつ
松潤からは、実際お世話しに来てくれたから自分のおかげだろなんてちょっと偉そうで、お礼はサシ飲みでいいからなんて
検査薬についてはひと言も触れてこないから、やっぱり翔に関することだけが見事に消されてしまっていたようだった
そしてそれは特に親しかったこの三人に限ったことではなく
最近では行列はすっかりなくなっていたけど、翔目当てだと思われるお客さんは一定数いて
でも今日はそういう人たちの姿はなく
いつもの常連さんたちには
“智ちゃん、体大事にするのよ”
昨日臨時休業とした事への心配の言葉はもらったけど、誰ひとりとして翔の事を口にするものはなかった
あまりにも無かったことのようになってるから、ホントは最初から存在してなかったんじゃないかとすら思えたが
『これ、最初に食わせてやった時、すげぇ喜んでたっけ……』
俺だけが忘れずにいるということが間違いなく翔がここにいた証で、そこにちゃんと意味があるんじゃないかと、ハニーパンを並べながらそう思った
その後も接客をしたり追加でパンを焼いたり
その度
「いらっしゃいませ〜」
「焼き立てのパンで〜す」
翔の元気な声が聞こえないのは物足りなかったし
「ハニー、お腹空きました……」
グーグー鳴る腹を押さえながら訴えてくる姿がないのはつまんないし
「パンもいいけど、やっぱりハニーの甘いニオイが一番ですね♡」
厨房でこっそりと抱きついてくるぬくもりがないのは寂しかった
それでも
“やっぱりスマイルパンのあんぱんが一番ね”
お客さんに笑顔をもらえたから、何とか一日の目標数を売り切って店を閉めた
二階に上がると昨日同様部屋の中はしんと静まり返っていて、それが余計寂しさを募らせたけど
体が資本のパン屋、店を休んでしまったことで健康第一が改めて身に沁みて
しっかり食べなきゃと思って作ったご飯は明らかに一人分ではなかった
美味しいと食べてくれる翔の為にたくさん作ることに慣れてしまっていたから
『これ全部食ったら絶対太るなぁ(笑)
そんな俺でも綺麗って言ってくれんのかな?』
綺麗とか可愛いとか
小っ恥ずかしくて仕方なかったし、別に言って欲しかったわけじゃない
でも、あれが翔からの愛情表現だったのなら、やっぱりもう一回聞きたいと思うけど
『ま、今さら太ってもあんま関係ねぇか……』
ビールを片手に翔好みの料理をバクバクと口に運んだ
寝室の布団も無意識に二組敷こうとしていて
『これも片付けなきゃな……』
いつもくっついて寝てたからあんまり使われなかったけど、今度晴れたらちゃんと干してからしまおうと思った
昨日は床で寝てしまったから、布団は柔らかかったけど、やっぱり冷たくて
翔の姿は消えてもニオイや思い出は残ったまま
それが余計つらかった
眠れば朝は必ずやってくる
早起きしてパン作って並べて
常連さんとおしゃべりしたり
休みの日は相葉ちゃんと出掛けたり、ニノや松潤とも飲んだり
商店街の会合にも出て、活性化の為に色んなアイディアを出して話し合ったり
そのどれにも翔が一緒にいないのはおかしいと思うのは俺だけで
それくらい日常は普通に過ぎ去って行った
そうやって毎日を過ごし、季節は過ぎて
気が付けば翔を拾って一年が経とうとしていた