・・・✤BLを含む完全妄想のお話です✤・・・
翔が来てから
「ハニー♡」
俺を呼ぶ声が絶えず聞こえてたこの部屋が、今はしんと静まり返っていた
全てを知っていたという翔
今、俯いたまま何も言わずにいるのは、それを秘密にしていたとか騙していたとか、そういう罪悪感からではなく
「ハニー……」
何とか抗おうとしたけど、どうしようも出来なかった自分への無力さを嘆いているから
肩を震わせ泣く翔を見て、俺はそう思った
このままここに居てもなす術はなく、そしていつかその身は消えてしまう
翔がそんな目に遭うなんて
やっぱり俺には耐えられない
そしてその思いはタツヤも同じ
上司という立場にはなったけど、兄と慕っているんだ
監視とはいうけど、きっと魔界からずっと見守っていたに違い
だからこそ、こうやってこの場にやって来て、翔を止めようとしているんだ
色んな事を考えて、どうするのが一番いい方法なのか
どうやら答えはこれしかなさそうだ
崩れそうな足元を力強く踏み締めながら翔の元へ
手を伸ばせば触れられるくらいの距離
「ハニー、いいニオイします♡」
今までなら間違いなくこのまま抱き締められていただろう
でも、今、その腕はだらんと降ろされたまま
『翔……』
「ハニー……ごめんなさい……」
『何でお前が謝るんだよ』
「私は無力です……」
『んなことねぇよ……立派な悪魔だよ』
「そんな事……」
『だって見事に俺を誘惑したじゃねぇか』
「それは私が……」
『いい、それ以上言うな……
お前のこと、わかってなかった俺の方こそ謝んなきゃいけないんだから』
「ハニーは何も悪くないですっ!」
『そっか……じゃあお前も悪くなんてねぇよ
俺たちの出会いが特殊だっただけで、同じ人間同士だったらきっと……なんて、こんな事言っても意味なんてねぇのにな』
「……グスッ……」
『もう泣くな、顔腫れ上がるぞ?せっかくのイケメンが台無しだ』
ハニーと呼ぶ顔も
ご飯を美味しく食べてくれる顔も
俺が作ったパンを丁寧に並べる顔も
お疲れ様でしたと労ってくれる顔も
ワクワクと期待して夜を迎える顔も
俺の上で見せる色気たっぷりの顔も
全てを注ぎ込んで果てた顔も
満足そうに俺を見つめる顔も
俺が全部大好きな顔なんだから
そして
『最後は笑ってくれ……』
一番好きな顔
優しく俺に笑ってくれる顔
しっかりとこの目に焼き付けておきたいんだ
翔は首をぶんぶんと振った
『何だよ、俺の言うこと聞けねぇのかよ』
「だってだって!最後だなんて!」
『そうするしかねぇだろ……』
「だったら、このままここで最後を迎えても!」
【……ショウ、それはサトシにとって酷なことだぞ】
タツヤの言う通り、どういうカタチになるか分からないけど、目の前で翔が消えていくのをただ見てるだけなんて、俺には無理だ
翔とのこの2ヶ月、決して長くはないし特別な事をしたわけじゃないけど、その思い出は楽しいものばかり
『タツヤ、翔は魔界に帰ったら幸せに暮らしていけるんだろうな?』
「っ!ハニーなしじゃ幸せになどなれるはずがありませんっ!」
『俺はお前が消えずにいてくれることが一番の幸せだよ』
「ハニーっ!」
『お前が元気で暮らしてくれること、それが一番の願いで、俺の幸せだから』
【サトシの願い、しかと聞き入れた】
「……っ!」
最後に笑ってくれって言ったのに
翔の涙は止まりそうになかった
『翔、元気でな……』
白く透き通るような頬に伝う涙をゴシゴシと拭ってやって
赤く綺麗な瞳に溜まる涙をキスするように唇で吸い取ってやって
そして最後にはギュッと抱きしめて、逞しく立派な背中を大きく撫でてやった
「ハニー、私は貴方が……っ!」
堪らず翔の想いが溢れそうになったところで
【サトシ、ありがとう……さらばだ】
その肩に手を置いたタツヤから低い声が聞こえると、部屋の中だというのにつむじ風のようなものが舞い上がった
『あっ……』
そしてパッと目を開いた時には二人の姿は跡形もなく消え去っていた
『これでよかったんだよな……』
ひとり問い掛けた言葉に誰も答えてはくれなかったけど
『翔、愛してる……』
腹に手を当ててそう呟くと
パチン……
泡のようなものが弾けて消えた気がした
なかなかの展開
切ないね(`;ω;´)ブワッ
あたたかく見守ってもらえたらと思います
そして本日は娘たちの修了式
明日から二週間の春休み突入
お察しください……(。-_-。)