・・・✤BLを含む完全妄想のお話です✤・・・
隣との隙間から覗き込むと
「いてて……」
前屈みで背中から腰の方にかけて大きく撫でながら痛がっている男がいて
そうかと思えば
「こんな所に?まさか?!」
急にスクッと立ち上がって首を左右に振って周りをキョロキョロ
……
………
死角になっていて、どうやら俺に気が付いてないようだけど
何だ、コイツは……?
上下黒のスーツ、黒い手袋、黒い靴、そしてツヤツヤの黒髪
全身真っ黒なその姿は
白み出して一日が始まる清々しい朝がやって来ているこの世界に何とも似つかわしくない格好というか
それに
「どういうことでしょう?!」
まぁまぁ大きい声で空に向かって叫んでいるし
俺みたいに起きてる人もいるけど、やっとみんなも動き出すくらいの時間
コイツは常識ってやつがないんか?
この商店街は俺の大好きで大切な場所
みんなに迷惑をかける奴は許せない
得体が知れないけど、とりあえず静かにしてもらって、あとはさっさと立ち去ってもらおう
『おい、アンタ……』
意を決して声を掛けると
「うわっ!!!」
やっと俺の存在に気が付いたのか、5cm程その場で飛び上がり、グルンと体を捻ってこちらに顔を向けた
後ろからみた全身真っ黒な不審なコイツ、振り返ったその顔は真っ白で見事なまでのコントラスト
目を真ん丸にひんむいて口までポカンと開けて
見惚れてたわけじゃねぇけど、俺との間の空気がピンと張り詰めるようで
一瞬、時が止まったようにも思えた
でも次の瞬間には
「貴方がもしや?!」
また大声を出すから心臓が飛び出しそうになった
『おいっ!静かにしろっ!』
口に人差し指を当て、シーッとしてあまり大声にならないように注意すると
「……?これはなんでしょう?」
首を左右に傾げながら俺の真似をしてる
確かに店に来てパンの前で大声で騒ぐガキたちに注意するみたいになっちまったけど、バカにされてる気にもなって
『まだ朝っぱらだ!静かにしろって言ってんだ!』
ちょっと強めに言うと
「ひぇぇぇ〜、怖いですぅ……」
腕を胸の前でクロスさせて震えながら自分の体をギュッとする仕草をした
ふざけてんの?
それとも酔ってんの?
でもコイツから酒臭さは感じなくて
むしろ、なんつーか……
いいニオイすんな……///
そもそも小麦の香りが好きだから、普段から香水類は一切使わない俺
二人の間にフワッと漂う甘いニオイは香水っぽいような香りだけど、嫌な感じはしない
全身真っ黒なスーツはもしかして夜の店関係かも?
でもこの商店街にはホストクラブなんてないし
酔っ払いが間違って辿り着いたとか
いずれにしても!
『おい、アンタ……』
震えは収まったが、未だに怯えたようにしてるから極力小さな、そして優しく諭すように声を掛けた
「はぃ……」
おっ、コイツも小さい声になったぞ?
柔よく剛を制す?!
ちと違うか
そんな事はどうでもよくて
『見ての通りみんなまだ寝てるんだ
どこから来たのか知んねぇけど、もうすぐ始発も出るから、そのまま静かにして帰りな』
暴れたわけじゃないから、交番に連れてく必要もないし
しっかり自分で立ってるから動けるだろうし
何より新年早々、めんどくさいことには関わりたくない
じゃあなと言って背を向けて厨房に戻ろうとすると
「あの〜……」
まだ何か言いたそうにしている
『何?俺忙しいんだけど』
間もなく発酵も終わる、パンを次々焼かなきゃオープンに間に合わない
「お名前を聞いてないんですけど……」
『は?別に何かしてやってわけじゃねぇし、名乗る必要もないだろ?』
お礼されることもない
「いや、でも、これからどうやってお呼びしたらいいかわかんないですから……」
今日、この場限りの出会いにこれからなんてもんはなくて
『だからそんな必要はないだろ?ほら、さっさと帰んな!』
段々とイライラしてきた
こんなのにかまけてる暇はない
『じゃあな、気を付けてな』
会話を強制終了、ここからは完全無視して中に入ってしまおうと思った時
再びコイツが言ったこと
大声だったからビックリしたとか、さっき静かにしろって言ったことわかってねぇなぁ!とか思ったんじゃなくて
「あっ、待ってください、マイハニー!」
なに言われたんだか、ただわかんなかったんだ