・・・✤BLを含む完全妄想のお話です✤・・・








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無情にもタクシーは目的地に到着




支払いでもたついて少しでも時間稼ぎしてやろうと思ったのに、それすら済ませてあるという




待ち構えていたかのように中から迎えに出て来た松潤




チッ……

もう逃れられないようだ






そういえば、ドライバーさん、何か言いかけてたよな?




荷物なんてサイフとスマホだけで忘れるような物はない




一体何を言おうとしてたんだろうか……




俺の嫌々なこの胸の内を分かってくれて引き止めようとしてくれたんかな?




たまたま乗せた客だもんな、そんな事あるはずねぇか……





松潤にグイグイと押されながらも名残惜しく振り返ってみたが




次々とやってくるタクシー、客を下ろした車から順に発進させられて、彼の車はロータリーを回って去って行ってしまった





途端に胸がキュッとなった




寂しいっていうか哀しいっていうか……




何だろな、この気持ちは






柔らかい話し方とか客を気遣う優しい心とか




すげぇイケメンとか




安全運転で安心して乗っていられたし




斜め後ろから盗み見たハンドル捌きもスムーズで




ほんの僅か、たった20分しか乗ってねぇんだけどな






俺、あの人に恋したみたいだ……









「今日はうちの会社と取引のあるとこがきてて、出版社だけじゃなくて他の企業さんも大勢いるからな?
智のイラスト、結構評判いいんだからさ、うまくいけばグッズ制作なんて話にもなるかもしれないぞ!」




俺の心知らずの松潤は興奮気味に話すけど




『別にそんなのに興味なんて……』




今の俺の頭ン中は彼の事でいっぱいだよ




「何言ってんだよ!こんなチャンスないんだからな!」




俺はもう一度あの人に会うチャンスが欲しい






「智の才能に惚れ込んでんだからさ♪俺の目は間違いないよ」




俺はあの人に惚れてんだよ、俺の目も間違いねぇの!




あんな素敵な人、なかなかいねぇんだから




こうしてる間にも、次の客乗せてさ、楽しそうに会話したりして




車内が暑くないか心配してあげて




安全に目的地まで連れてってあげてんだろ?




それを想像するとさすがだなとかも思うけどさ、モヤっともして





ヤキモチってやつだよな




でもヤキモチ妬いたって今さらで




はぁ……
考えれば考える程、ため息しか出てこない






「まぁいいや、俺に任せておけよ
一緒に挨拶回るから愛想よくしとけよ?
お前笑うとかわいいんだから」





かわいいなんて、松潤に言われたらバカにされてる気しかしないけど、あの人に言われたらすげぇ嬉しいんだろうな、なんて考えてはみたものの





「さっ、行くぞ!」




松潤に背中をグイグイと押され、きらびやかな会場へ




あの人のことを考える暇がないくらいあっちこっちへと連れ回されることになった