┅ ✤BLを含む完全妄想のお話です✤┅







僕とタクヤは一年前、BARで出会った



そこは男の同性愛者、いわゆるゲイと呼ばれる人達が集まる場所で



同じような思いを抱えた人達が、悩みを相談したり寂しい心や体を埋める相手を探しにくるところだった




同い年のタクヤの第一印象は明るく好青年、話をするのも聞くのも上手で



お互い一人で訪れていた僕たちは、カウンターで並んで会話をするうちに意気投合



その後も何度かそこで会って話す内にいつの間にかそういう関係になっていた





外で会うより僕の部屋で会うことが増えたから何の躊躇いもなく合鍵も渡して


僕の帰宅を今日みたいに部屋で寛いで待っていてくれるタクヤにどこか安心感があって



居心地の良さを感じさせてくれる、そんな存在だった






ある休日、街にふらっと出掛けた時、偶然タクヤを見掛けた



いつも会うのは平日の仕事終わりだったから、スーツ姿じゃないタクヤに新鮮さと、それでいて違和感みたいなものを覚えて



でも、せっかくなら外で食事でもと思って声を掛けようとした僕より先に、目の前のお店から出てきて彼に近付く人がいた



スレンダーでキレイめな服装に身を包んだ上品そうな女性



そのまま肩を並べて歩き出した2人


彼女の腰に添えたタクヤの左手の薬指には指輪があって、彼女にもまた同じ物が光り輝いていた




僕の目の前を通り過ぎようとしたので慌てて顔を隠すようにそっぽ向いて



振り返った時には彼らの姿はもう見えなくなっていた





僕は何を見たんだろう……


頭の中が真っ白になって




あれは本当にタクヤだったのかな?

隣にいた女性は?

そしてお揃いの指輪は?




一生懸命考えなくたってその意味はすぐにわかった





騙されてたなんては思わなかった





好きだとか付き合おうとか


そんな言葉が必要な程子供ではなかった僕たちは、お互いのことを詳しく聞く事も、そして自分の事を話す事もしなかったんだから







数日後、仕事終わりにいつもと変わらない様子でやってきたタクヤに先日見掛けたことを話すと



【あ、バレちゃったんだ……】



そう言った時の顔は今でも覚えている



悪びれる様子もなく、申し訳なさそうにするわけでもなく平然として



ごくごく普通の顔



この部屋のソファでビールを飲みながら、おかえりと言って僕を迎えてくれる時と同じ顔だった





そしてタクヤは自分の事を淡々と話し始めた





タクヤのお父さんは勤め先で重役に就いていて、昔から厳格であったから自分がゲイだとはカミングアウト出来ずにいた


ご両親の勧めでお見合いをして
その結婚生活は既に2年にも及んでいた



奥さんには申し訳ないと思っているけど、愛情はどうしても持てなかったこと



またそんな奥さんにも自分の事は内緒にしていること




そして


【俺が好きなのは智だけだよ】



初めての愛の言葉はえらく薄っぺらく聞こえた



そして


【これからも上手くやっていきたい】



きっと心から彼を愛していたなら、僕はそれを受け入れなかったと思う



愛する人にはこれ以上堕ちて行って欲しくはなかったから



でも



『悪いオトコだね……』



そう言って彼を受け入れた僕もまた悪いヤツなんだと思う





30歳にもなって今更燃えるような恋なんて有り得ないと思っていたし、事実、タクヤとの日常には安らぎを感じていたから



僕自身このままでいることを望んでいたのかもしれない






タクヤはバレたことで開き直ったのか、今までこの部屋に来る前に外していた指輪もそのままで会いに来るようになって



でも



『僕を抱くならコレは外して……』



そのお願いだけは譲れなかった



どんなにタクヤを悪いオトコだと思い込もうとしたところで、この指輪に監視されているような気がしたから




こうして今までと何ら変わりなくタクヤは部屋にやって来て



【じゃあ、またな】




体を重ね合わせても決して泊まることはなく日付けが変わらないうちに奥さんの待つ家へと帰っていく



こんな事をしていていいのか、時々罪悪感と寂しさを覚えるけれど



【おかえり】



そう言ってこの部屋で迎えてくれるタクヤをまたきっと僕は受け入れてしまうんだと思う