┅ ✤BLを含む完全妄想のお話です✤┅




O  side


キッチンカーを始めて3週目、スタートはやっぱりここ、翔ちゃんと潤くんのいるオフィス街。


ここに来るまでの道中、車の中では


「翔ちゃんはさ〜」


カズが飲み会での話や昨日送っていたらしいLINEの話なんかをしていた。


飲んでいないのに、今日もよく喋る。
どうやら翔ちゃんの事だとよく口が動くようだ。


「なぁなぁ、翔ちゃんはどれ選ぶと思う?」


今日のスープの事を言ってるんだろう。
そりゃ翔ちゃんなら一択じゃねぇの?口には出さずそう思っていたけど


「嫌いな物はあんまりないって言ってたけど、好きな物も教えてはくれなかったんだよなぁ〜。肉はよく食べてたみたいだから、ビーフシチューかな……」


翔ちゃん、カズには教えてないんだ……

聞かれたのに教えなかったのはなんで?
昨日LINEだってしてたんだろ?
普通に話題にしててもおかしくないのに。


俺にだから?なんて考えるのは……さすがに都合がよすぎるか。
俺、何期待してんだよ。



先週より少しだけどお客様が増えてる気がする。多めに準備してきてよかった。
カズも翔ちゃん達が並んでいるのを確認する事が出来ないくらいだった。
やっぱり提供のスピードなんてのも大事だからね。


翔ちゃん達が注文口まで来て初めて気がついて、俺もちゃんと挨拶した。


オーダーはホタテとビーフシチュー


どっちがどっちなんて聞いてないけど、多分、いや間違いなく翔ちゃんはホタテだよ。


俺は少しだけ量を多く入れた。


大丈夫、全て多めに準備して来てるし、なくなった物から完売のPOPを貼っておけばいいんだから。
でも、相葉ちゃんごめん、こっそりと心の中で謝った。


翔ちゃんの好みを知らないカズは直接確認をしていた。


俺はそこに自分だけが知る優越感みたいな物を持ってしまって、やっぱりこれは俺から直接渡してあげたくなったんだ。


もちろん仕事だし、潤くんにだってちゃんと渡すよ、いつものセリフを言うのも忘れずに。
受け取った潤くんの笑顔だって眩しいしカッコイイし可愛いし。


だけど、翔ちゃんとは違う。


翔ちゃんには食べてる姿や飲み会で見たような
「うめー!」って言う顔まで想像しちゃうんだ。


目の前で食べてもらうことはできないけど、せめて想像するくらいはいいよね……


翔ちゃん、LINEごめんな、俺だけが知ってる翔ちゃんの好きな物、ちょっとだけサービスしといたよ


手を握ったくらいじゃ俺の考えなんて伝わるわけなんてないけど、そうせずにはいられなかった。少し驚いたような顔にも見えたけど、翔ちゃんも笑ってくれた。



増えたお客様のおかげか本日のスープは全て完売、店に戻ろうと片付けをしているとカズがあからさまに不機嫌な様子だった。


『どうした?全部売れたのに』


俺は少し浮かれていたのかもしれない。
忘れていたわけじゃなかったけど、カズの事を全く考えていなかったんだ。


「俺が翔ちゃんに渡すって言ってただろう?!」


確かに行きの車の中で言ってた。
俺は潤くんにって、それぞれ渡そうって。
でも別にうんって返事したわけじゃないし……


「なんなの?!智はやっぱり翔ちゃんの事が気になってんの?潤くんかわいそうじゃん!」


『可哀想って……潤くんにもちゃんと渡しただろう?!
それにそんな浮ついた気持ちで仕事なんてしてねぇよ!レジにお客様並んでるんだから、そっちも対応すべきだろうよ!』


言ってて少し罪悪感を持ったけど……


だけどまだ付き合ってもいないカズにそんな事言われる筋合いはないんだから。


「まぁ、そうだけど……」


仕事なんだからと強く言ったせいでカズがしおらしくなるから俺だって胸が痛くなって


『悪い、言いすぎた。カズが渡したかったって、そうだよな……ごめんな……』


俺もなんだか気持ちがゴチャゴチャしてんだよ。よく分かんなくなってんだよ。


「俺こそ、ごめん……」


ますますショボンとするカズの頭をポンと叩いた。


『さっ、帰ろう!相葉ちゃんが結果を待ってるよ!』


「そうだな、帰ろう!きっと喜ぶな!」


ほら、カズはいい奴なんだよ。
口が悪かったりするけど、相葉ちゃんの事もちゃんと尊敬してるし。


そんなカズの事、俺も友達として大好きだから……


カズが機嫌を戻して帰りのキッチンカーで


「なぁ、今度さ、俺と翔ちゃん、智と潤くんでダブルデートしない?」


そんな風に言ってきたら


『あぁ、そうだな。それもいいかもな……』


って答えるしかないだろう?


「よっしゃ!決まりね♪あとでLINEしちゃおっと♪」


どうやら俺からのLINEは送れそうになかった。
スープの感想、翔ちゃんに聞いてみたかったんだけどな……