Chap.1 都会の孤独(1) | michikoのひとりごと

Chap.1 都会の孤独(1)

第一章のはじめは→(^^♪

「ねえマスター、ちょっと見てくれる」
「歩美の書き置き」

 ジャニスが、最後の『UU--URH……』を歌い終えるのを聞いてから、由貴がゆっくりと、ためらう様な口調で話しかけた。

「これ……。」
由貴が手渡したのは、8つに折りたたんだレポート用紙一枚。そこに、歩美の字で、ちんまりと『書き置き』が書かれていた。

「書き置きなんて、いやに大げさだな」
ちょっと眉をしかめる様にして、マスターは紙を広げ、ざっと目を通していった。

 Dear 由貴
  取りあえず、5日間、留守にします。旅行です。福岡まで足を伸ばし
  ます。その間の予定は未定。わたしは九州説だから、少なくとも奈良、
  京都に寄るつもりはありません。邪馬壹国、邪馬臺国の空気をたっぷり
  呼吸して来るつもり。本当は、思い付いたらすぐに出かけるというよう
  な旅行なんだよ。でも、由貴が心配症だから、「書き置き」をして行く。
  5日経ったら帰ります。だから、心配しないで下さい。5日後の15日、
  午後4時に新宿のカウチで待っています。15日、午後4時。忘れるなよ。
  じゃあネ、See You Then,    AYUMI

「で?」
「まだ帰って来ないっていうわけ。」
「うー、……歩美ちゃん、脳天気なところもあるけど、自分からした約束を破るような子じゃないと思うよ。」
「わたしもそう思うわ。けど……。」
「けど、心配か?ふっ、由貴ちゃんらしいけどね。やっぱりゆるくないな。」
「ゆるくない。……。」

 結局話してみても結論は同じ。歩美のすっぽかしがない以上、何か事情があって、帰って来れないのに決まっている。けど……、その「事情」というやつが、どうにも気になってたまらない由貴ではあった。

 来る時には漠然とした不安だったものが、帰りには具体的な形を備えて由貴の胸を締めつけていた。考えても、悩んでもどうなるというわけではない。今はただ、待っていることしかできない。理屈では分かるのだが、理不尽な焦りに、身も焦がれるようで、いつもよりさらに足早やになっていた。顔も少しひきつっていたのかもしれない。ただでさえ目立つ170センチの長身が、行き交わす通行人のほとんどを振り返らせていた。
  (2)につづく