
最近、日増しに寒さが実感出来る季節になって来た。
その日も、今の時期の様に、ほんのり暖かい秋の日だった。
だが、さすがに、朝晩は涼しくなってくるのが、肌からも伝わってきた。
僕はその時、高校生活の終わりを迎える時期に差し掛かっていた。
田舎の電車(正確にはディーゼル機関車)は、客車が二人掛けの椅子になっている。
来年始めの試験に向けて、受験勉強をしていないといけない僕だったが、
いつもの様に一番入口の席に座って、漫画の単行本を開きながら、へらへらしていた。
「勉強しなくていいの?」聞き覚えのある声がする。
ふっと顔を上げるとセーラー服姿の女子高生が立っていた。
「煩せえな、別にいいんだよ、図書館でやって来たんだから」
先程まで、ただ、自分の学校や丘の上の学校とかの知り合いと、
他の閲覧者に迷惑がられながら、意味のない会話をして、
勉強らしい事は、ほとんどしていない僕は、その子を前に強がって見せた。
「なんだよ狭めーだろ」彼女は何も言わずに隣に座って来た。
「ハンバーガー食べる、いつものなんだけど」
黄色いMの字の袋から、ハンバーガーとシェークを出して、僕の顔を見る。
「ありがとう、悪りーな、いつも」
それが、さも当たり前の様に、僕は出された物を頬張り、飲みこんだ。
彼女と僕は、学校が違う。その子の高校はバイトも許されていて、
図書館帰りの僕と帰りが一緒になる事が多かった。
その子は、幼稚園からの幼馴染で、Mちゃん。
いつも、なんだか側にいて、お姉ちゃん面をしてくる。
「はなが出てるじゃない、ちゃんとチンしなさい」とか言ってお節介に鼻をかんでくれたりする昔から。
中学の時、疲れ切った部活の終わった後、水道の水を被って、初めてタオルのない事に気付く。
僕は、迷わずユニフォームで拭くいつも。
そんな時、たまに、濡れた手を振るって、さあ服で拭こうとした時、
肩に、ポンと乗せられたタオル、「おっ!サンキュー」って拭いた瞬間、匂いに覚えのある柔軟剤の香りに顔が曇る。
後輩に見られていたら、間違いなく鼻をかむポーズはするであろう瞬間も、幸いな事にその時は、二人でホッとする。
「何してんだよ、かっこ悪りいじゃん!」怒ってみても、笑ってる女。
知らない内に側にいて、空気みたいなやつ。
高校生になって、私服で買い物に付き合った時に、デパートの女性店員に「いいわね、お姉さんとお買い物?」
同じ年なのに(誕生日は僕の方が遅いんだけどw)毎度、その度に、同じセリフで対応されて来た僕達。
いつも大人びているが故に、OLによく間違えられることも多かった。
普通にしゃべって、伝わらずに、理解するのに時間が掛かって、言葉尽くして話しても、いくら噛み砕いても、
判ったかが判らない。そんな当り前のルーティーンに慣れちゃって、快感にすらなってる自分といて面白がる人。
体育祭、クラスマッチ、バレーの大会、水泳大会、いろいろなスポーツの場面で一番輝いてるスポーツ万能の娘。
そんなMちゃん…不思議な人。
そうこうしている内に、年が明けて、1月の試験も終わり(結果はどうであれ、終わりは終わりw)、
二次試験に向け、私大に向け、切り替えた帰りの電車の中、さすがにこの時期は参考書開いてる自分
「感心じゃない、勉強してるのね、今日は。 ご褒美に、食べ掛けで悪いけど食べて」
隣に座りながらポテトを差し出す。「いつも悪りいね、Mは優しいねぇ、いつも」お腹減り過ぎで、たまらず手を出し、
「今日は、大して荷物ないじゃん!どうした?」と聞いてみる。
「卒業前だから、荷物は少なくていいのよ…」
「へーそっか」
すると突然「この間、お母さんのパート先の着物屋さんで、晴れ着のモデルやったの…写真見せて上げようか!」
「いいよ別に、いつものお前だろう」無頓着に返す僕。
「見たいでしょ、見せて上げるわよ」
強引ね~って笑いながら手渡された写真を見る僕。
「えっ!お前って美人だったのか?(二度見!)」(「これがお前なのか?」と言うつもりで、変な日本語w)
「へっへぇ~!」自慢げに、こっちを見ている。
「化粧したお前初めて見たけど…」言葉にならない。でも、ここで心のスイッチが切り替わっちゃった。
側に座って来た、肩越しから見える大きな胸の膨らみを見て、首を振る度に僕の体に触れる長い髪を感じて、
胸が高鳴った。
その後の会話は、ほとんど覚えていない。ボォーとして電車乗って、ポワぁ~となって別れた。
あいつも地元で就職したみたいだし、夏休み辺りに、免許取って、ドライブで海に行って、それから…フムフム。
そこから、慌ただしく日が過ぎて行く。何度か電車で女になっちゃった(僕の中で)Mちゃんと会った。
だが、一緒にいる胸の高鳴りは、どんどん増すばかりで、一向に収まる気配はなかった。
そういう状況の中だったが、僕は都内の大学に進学することになり、田舎をたった
……夏には会えるんだしね!そう自分に言い聞かせて。
想像以上に都会の新生活は、田舎者の僕にとって、刺激的で面白くて、毎日が瞬く間に過ぎた。
親から「免許は近くの教習所に申し込んどいたから」って連絡が入るまで、夏休みを意識せずに来た毎日だった。
飛行機で帰って来て、ホーバー乗って、在来線のJRに乗り換えて帰る道すがら、女友達に会った。
話の拍子にMの事を聞いてみた(頭膨らんで、強引にそっちに持って行ったw)
「Mどうしてる?」何気を装い聞いてみる。
「あっ、そっか知らなかったんだ。あの子、仕事に馴染めずに、広島の親戚頼って、向こうで新しく就職したみたいよ」
「嘘でしょ?」膨らんだ妄想が一挙に弾け飛んでしまった。免許取って、車でドライブ、サクランボ卒業…。
ひと夏の思い出、ゲットならず…少年の想像した世界は、無残に消し飛んだ。
それから少しずつ、女の人と付き合える様になったのだけど、あれ以来、存在感のあるバストの持ち主には会っていない。
飲み会で、それらしい女の人に出会って付き合って貰っても、「あれ!どこいっちゃったんだろう?」ってのが有ったり、
最初からスレンダーだったりで、大きな胸の膨らんだ人とは出会っていない。
これを僕は、自然の流れと受け止めて来たのだけれども、最近、どこか懐かしい感じのすっぴん写真を見てしまった。
それは全く違うのに、着物姿を自慢げに見せてくれたMの素の姿に似た感じを、もう一度、僕に呼び起こさせた。
そして、人生残こりの時間は、
どこか懐かしく感じさせる、価値観の近いものと共に、過ごせたらって真面目に思わせてくれる様になった。
電車の中で写真を見て、切り替えたはずのスイッチが、一旦は切れちゃったけど、いろいろあっ
た去年の暮ぐらいからまた入って、元に戻れるんじゃないかと最近ずっと感じている。
やっと呪いが解けたんだw
※ちなみにMは、同級会で連絡取った時、息子のお受験で忙しいと言っていた。
同級会開催で、他の人との繋ぎを付けてくれたり必要以上に協力してくれたのだけど、
僕が結婚するまでは会わないでおくらしい。
心配掛けちゃうね~みんなに。