関西原人~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

昨日に続き、近未来の怖いお話です。

 

 

「こちらにいますのが関西原人となります」

 ガイドが我々のいる檻の方を指差して客に説明し始めた。

「関西原人は、長い間、関西地方に生息する普通の人間と考えられておりましたが、最近のミトコンドリアDNAの分析結果により、我々人間ホモ・サピエンスとは異なるホモ・モーカリマッカーナ・ボチボチデンナウスという別種の、まだ人間に進化していない原人だということが証明されました」

 檻の中から、スミ子おばちゃんが外に居る男の子に向かって

「ぼく、飴ちゃん食べるか?」

 と言って、バター飴を差し出した。

 子供が受け取ろうとすると、ガイドが慌ててさえぎり、

「あ、受け取らないでください。このように、関西原人のメスは、高齢になるにつれ近くにいる生き物にキャンディーのようなものを配給するという習性があります」

 檻の後ろの配膳口が開き、大皿に山盛りのたこ焼きが差し入れられた。

 ガイドが続ける。

「エサの時間のようです。

 関西原人は主食として、タコの肉を小麦粉でくるんで焼いたものを好みます。

 かつてヨーロッパに生息しマンモスの肉を食べていたクロマニヨン人は、マンモスの絶滅と共に姿を消したと言われます。関西原人も、明石のタコの減少により、今や絶滅危惧種として保護対象になっています」

 我々関西原人達は奪い合うようにしてたこ焼きを食べる。

 檻の中には十名弱の関西原人がいるのだが、皆原始人らしく毛皮の服を着ている。

 スミ子おばちゃんだけが、何故か豹の毛皮だ。

「みぶのおっちゃん、ちょっと来て!」

 カリンがぼくに声をかける。

 本名は知らないが、かりんとうみたいに色黒なので皆からカリンと呼ばれている女の子だ。

「どうしたんや?」

 彼女に手を引かれ、奥に有る小屋に入った。

「これ見てみ」

 彼女に言われてよく見ると、小屋の窓のアクリル板が外れかけている。

「ここから、外へ出れるんとちゃう?」

「ほんまや、出てみよう」

 ぼくとカリンは、こうして檻から脱出したのだ。

 

 動物園の敷地から出た時、いきなりサイレンが鳴り、放送の声が響き渡った。

「ただいま、動物園から二頭の関西原人が脱走しました。危険ですので、皆さん、出来るだけ外出は控えてください。

  関西原人は帰巣本能により、南へと向かうことが考えられます。

現在、地元猟友会の協力のもと、行方を追っております」

 動物園の方から、悲鳴が上がる。

「おい、猟友会って言うてるぞ」

 ぼくが驚いて言うと、カリンは、

「猟友会ってなんなん?」

 とおっとり答えた。

「とにかく、南へ向かうと人間たちが考えているらしいから、北へ行こう!」

 手を引いて、太陽とは反対方向へと走る。

 商店街に並ぶ店が次々とシャッターを閉めて行くのが目に入った。

 表には出ず、細い裏通りを選んで進んで行く。

 パトカーのサイレンやヘリコプターの音が聞こえて来た。

 北へ進むにつれ、そうした騒音が遠ざかって行く。

「なあ、みぶのおっちゃん、何処まで行くつもり?」

 ことの重大さが判っていないカリンがのんびり尋ねる。

「海のそばに関西原人の保護地区があるらしいんや。そこまでたどり着いたら大丈夫やろ」

 無人の広いアーケードに出た。

 ここには見覚えがあった。動物園に入れられる前に、よく来た所だ。

 さらに北進しようとすると、機動隊が道をふさぐのが目に入った。危ない!

 南に戻ろうとしたが、今度は銃を持った男達が数人、こちらに向かってくる。

猟友会だ。

 両側から、アーケードの間にある橋の上に追い詰められた。

「下の川は海に通じてるはずやから、飛び込もう!」

 ぼくら二人は、阪神優勝以来、久しぶりに戎橋から道頓堀にダイブした。