虫の知らせ~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

動物にはもともと身を守るための不思議な能力が備わっています。

 

 

 

 最初はクワガタだった。

 早朝、駅に向かっている時だ。

 近道をしようと駅前のマンションの側(そば)を歩いていたら、何か黒い塊が目に入った。

 マンションの白い壁を季節外れのオオクワガタがごそごそと昇っているのだ。

 子供が飼っていたやつが逃げ出したのだろうか。

 足を止めて見ていると、いきなりガシャンと大きな音がした。

 目の前に砕け散った植木鉢が落ちている。

「大丈夫ですか」

 上の方から声がした。

 見上げると、4階ベランダから女の人が申し訳なさそうに顔を出している。

「すみません、手が滑っちゃって」

「大丈夫です」

 と答えたものの、もしクワガタに気を取られて立ち止まっていなければ頭を直撃したところだ。

 次はバスを降りてロケ現場に向かっている時。

 ぼくと娘役のアヤちゃんが並んで歩いていると、彼女が足をすくませて悲鳴をあげた。

 ぼくもつられて立ち止まった瞬間、死角から大型トラックが猛スピードで飛び出し目の前を横切って行ったのだ。

「こ、これ、やだ」

 アヤちゃんの足元には一匹の毛虫がいて、もぞもぞ歩いている。

 彼女は毛虫におびえて足を止めたのだが、そうしなければ二人ともトラックにはねられて即死だったところだ。

 一日のうちに二度も虫に命を救われるとは何かの符合だろうか。

 翌日はオフだったので、ぼくは朝から自転車で出かけた。

 

「それは、あなた、虫の知らせというやつよ」

 ぼくの話を聞いたキツネおばさんはけらけら笑った。

 キツネおばさんは霊能力者で、ぼくは心霊番組を通じて知り合い、家も近所なので不思議な経験をする度に意見をうかがいに行くのだ。

「虫の知らせって、本物の虫が知らせるんですか」

「ええ、そういうこともあるわね。元々、道教では人間の体の中にいる3匹の虫が知らせると言われてるけど、実際、全ての生き物には危険を予知する能力があるのよ。人間だけが科学万能主義のせいで危機予知能力が弱くなったわけ。でも、周囲にいる小さな生き物が人の潜在的に持ってる能力に感応して働くことがあるの。虫の知らせって正確にはそういうことよ」

 なるほど、そういうこともあるのか。

 自転車で家に帰る途中、ずっとキツネおばさんの言葉を考えていた。

 家の近くの工事現場を通りかかった時、後のタイヤがパンクしたようだ。

 自転車を止めて調べていると、ドシーンと凄まじい音がして工事現場の重機が目の前の道に倒れて来た。

 パンクに気が付かなければ、ぼくはまともに下敷きになっていたところだ。

 胸を撫でおろし、帰宅してタイヤを調べた。

 チューブには傷ひとつなかったが、虫ゴムが破れていた。

 やはり、これも虫の知らせだった。