猛毒貯蔵庫~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

今日は、世にも奇妙な昔話をお話しいたします。

人類危機一髪の出来事でもありました。

 

 

 

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおりました。

 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 おじいさんが柴をかついで歩いていると、何処からか焦げ臭い匂いが漂ってきます。

「誰かたき火でもしとるんじゃろうか?」

 さらに山を歩いていると、高い木々に囲まれた山腹に大きな丸い船があるのが見えました。

「こりゃ、何じゃろう?」

 おじいさんが恐る恐る近づいて行くと、船の扉が音もなく開きました。

“オジイサン、ヨクイラッシャイマシタ”

 中からの声に誘われるように、おじいさんは不思議な船に入って行ったのです。

 

 その頃、おばあさんが洗濯をしておりますと、川上から大きな桃が流れて来ました。

「まあ、大きな桃だこと。持って帰ってお昼ご飯の後でおじいさんと一緒にいただきましょうかね」

 おばあさんは意外に軽い桃を抱えて家に帰りました。

 土間に大きな桃を転がしたままご飯の支度をしておりますと……

 パカッ!

 音を立てて桃が割れ、中からクリクリ坊主でつり目、全身灰色の子供が出てまいりました。

「おやまあ、桃から生まれた桃太郎だわ」

“オバアサン、ココハドコデスカ?”

「おじいさんとわたしの家だよ」

“デハ、ワタシハ行カネバナリマセン”

「まあまあ、今生まれたばかりじゃないか。ご飯でもお食べ」

 おばあさんが茶碗に炊き立てのご飯をよそって差し出すと、桃太郎はそれをまじまじと見つめ、

“ワタシハ、コレヲイタダクワケニハマイリマセン。スグニ、出発イタシマス”

「もう行くのかい、遠慮せんでもええのに。じゃ、これを持ってお行き!」

 おばあさんは竹の皮に包んだきびだんごを桃太郎に持たせました。

 

 その頃、おじいさんの方はUFOの中の実験室の台の上に横たわり眠っておりました。

 周囲を取り囲んでいるのは白衣を着たグレイタイプの宇宙人たちです。

“コレガ、コノ星ノ生物ダナ”

“ソウ、ソシテ我々ガ作ル食肉牧場ノ家畜第一号ダ”

“デハ、頭脳ヲこんとろーるスル為ノちっぷヲ埋メ込ムコトニシヨウ”

 宇宙人がメスでおじいさんの頭部を切り開こうとした時、

“待テ!”

 声と共に桃太郎が実験室に入って来ました。

“ア、船長! ゴ無事デシタカ? 大気圏ニ突入スル際、船長ガ搭乗シテイタかぷせるガ機体カラ外レテ落下シタ時ハ駄目カト思イマシタ”

“幸イ、コノ星ノ住民ニ助ケラレタ。ソレヨリ、今回ノ牧場計画ハ中止ダ”

“ドウイウコトデス?”

“コレヲ見ロ!”

 船長は竹の皮に包まれたきびだんごを机の上に放り出しました。

“コレハ?”

“我々ニトッテ猛毒デアル炭水化物ヲ、コノ星ノ住民ハえねるぎー源ニシテイルノダ。コノヨウナ生物ヲ食用ニスルノハ危険キワマリナイ”

 ちょうどその時、おじいさんが目を覚まし、辺りを見回して言いました。

「これは顔色の悪いワラシたち、こんな所で何をしておるんじゃ?」

“オジイサン、我々ハ自分ノ星ニ帰リマス。ソコデ、ココマデ飛行シテ来ル出タ廃棄物ヲ置イテ行カセテモライタイノデス。コノ廃棄物ハ我々ニトッテハ猛毒デスガ、オジイサンタチニハ食用ニナルト思ワレマス。コノ船の『猛毒貯蔵庫』ヲソノママ残シテ帰リマスネ”

「『もうどくちょぞうこ』というもんかね。何を置いて行ってもええが、もうじき日が暮れる。子供は早よ帰るがええ」

“ジャ、オジイサン、サヨナラ”

 おじいさんを船外に残し、宇宙人たちは空へと去って行きました。

 その跡には、宇宙人たちが『もうどくちょぞうこ』と呼んだ大きな蔵が残っています。

 蔵の中には白いマリのようなものがぎっしり詰まっており、それを焼いて食べるととても美味しかったので、おじいさんとおばあさんは村中の人に配りました。

 噂が噂を呼び、近郷近在からも取りに来る人が後を絶たず、とうとう『もうどくちょぞうこ』の白い食べ物は日本中に広まったのです。

 この食べ物は、当初宇宙人の言った『もうどくちょぞうこ』と呼ばれていましたが、長すぎて呼びにくいので『もうちょこ』と省略され、さらに“もうちょこっと短くしよう”ということで『もち』と呼ばれるようになったそうです。