まぜるな危犬~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

ウナギに梅干、スイカに天ぷら……

それぞれは栄養があるのに、食べ合わせが悪いとお腹を壊すといわれるものがありますね。

こういうのは、もっと困ります。

 

 

 

「みぶさん、これ食べません?」

 撮影現場で休憩時間に声をかけてきたのは助監督の内田くんだった。

「何?」

 振り返ると、コーンフレークの袋のようなものを差し出す。

「外国製のお菓子なんですよ」

「どこの国の?」

「わからないんです。英語圏じゃないみたいで」

 袋にはアルファベットの文字のようなものが並んでいるが、英語やフランス語ではないみたいだ。

「これ、どうしたんだ?」

「ディスカウントショップでまとめて買ったんです。安かったんですよ。一つどうです?」

 薦められるままに一つ取り出す。

 一センチ角のサイコロ型をしたクッキーみたいだ。

 食べてみると、ちょっと硬くて薄味。

「うーん、まずくはないけど……」

「薄味でしょう?これにヨーグルトをかけると美味しいんです。いつも夜食に食べてます」

「そうなんだ」

「また、ご馳走しますね」

 そこで休憩が終わり、次のシーンの準備にかかる。

 少年が飼ってたウサギを野に放すシーンだ。

 ぼくはそれを眺める叔父さん役なのだが、段ボール箱の中のウサギがおびえて飛び出そうとしない。

 しばらく様子を見たが埒があかないので、監督がイライラして日があるうちに別シーンを撮ることになった。

 動物や赤ちゃんが出るシーンはこういうことがよくある。

 結局、その後、少年とぼくが段ボールを抱えて歩くところを撮って野外シーンは終わりになった。

 

 翌朝、現場に行くとスタッフが騒然としている。

「何かあったんですか?」

 照明さんに尋ねると、

「ウサギが何物かに食い殺されたんだ」

 見ると、無残なウサギの姿があった。

「この噛み跡は犬かな」

「野犬が出たのか」

 皆が口々に言っている。

「新しいウサギはいつ来る?」

 監督の怒鳴り声が響いた。

「昼一に着くそうです」

「よし、じゃ、シーン86を先に撮るぞ」

 ウサギの出ないシーンに取り掛かっていると、

「おはようございます」

 と、作家で評論家の西本先生が現場にやって来た。

 本日、カメオ出演する予定なのだ。

 先生は助監督が片付けでいるウサギを見て、

「これは犬の噛み跡じゃないな。似てるけど違う。監督、新しいウサギが来たら、今夜は近くに罠を仕掛けておいた方がいいですよ」

 博学の西本先生の意見通り、小道具さんが手作りの罠を作ることになった。

 

 その夜のこと。

「みぶさん、起きてください」

 ホテルのドアがノックされて目を覚ました。

 ドアを開くと、

「西本先生、どうしました?」 

「これゴミ箱で見つけたんですが、誰が食べたんです?」

 手には内田くんが自慢していたシリアルの袋があった。

「ああ、内田くんがディスカウントショップで見つけて夜食に食べてるそうですよ」

「これ、ドッグフードですよ」

「え?」

「内田くん、これを食べてなんともなかったんですか?」

「ええ、いつもヨーグルトをかけて夜食にしてるとか……」

「ヨーグルト! それはまずい!」

「いや、美味しいと言ってましたが」

「そうじゃなくて、まずいんです。ここに書いてある、乳製品と一緒に食すると化学変化を起こし狂暴になると」

「犬がですか」

「犬だけじゃなく、人間が食べると人間ではなくなってしまう恐れがあると書かれてるんです」

 その時、ホテルの外から獣の大きな鳴き声が聞こえて来て、ぼくと先生は部屋を飛び出した。

 ウサギの檻の前の罠に大きな犬が掛かっている。

 いや、犬ではない。

 オオカミだ。

 雲が満月を隠すように広がると、オオカミの体毛が抜け落ち、助監督の内田くんの姿に変化していた。