真夜中の侵入者~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

夜中に偶然不思議なアルバイトをしたお話です。

 

 

 怪談であれ、台本であれ、物語を書いていると頭の中が煮詰まってくることがある。 

 そうなってくると必ず体を動かすことにしている。

 脳みそに集まっていた血液が全身に行き渡るとスッキリと新しいアイデアが浮かびやすいのだ。

 その夜もそんな感じだった。

 台本が進まなくなって来たので屋上へ出た。

 そのまま満月の下で空手の型演武を行う。

 二十年ほど前に空手を習っていたことがあるのだが、事情で道場が閉鎖になり型を一つ教わったきりなのだ。

 良い具合に筋肉がほぐれて来た頃、不意に周囲が明るくなった。

 頭の上から光がさしてきたのだ。

 見上げると、七色に輝くUFOが頭上に浮かんでいるのが見えた。

 そいつは次第に高度を下げてくる。

 やがて、マイクロバスほどの大きさの葉巻型UFOが目の前に着陸した。

 本体の脇から階段がせり出して来て、体長百二十センチくらいの小さな宇宙人がそこを降りて来た。

 所謂、グレイと呼ばれるタイプだ。

 グレイはこちらに向かって進むと、

「地球の人よ」

 とテレパシーで呼びかけてくる。

「あなたは力が強そうですね。それを見込んで我々からお願いがあります」

「な、なんですか」

 思わず敬語で答える。

「実は、船内で困ったことが発生したのです。詳しくは中で説明します」

 答えを待たずグレイは階段を昇って行く。

 ぼくの体は、勝手に吸い寄せられるようにその後に続いた。

 UFOの中には数人の彼と同じグレイタイプの宇宙人が乗っている。

「実は操縦装置が故障して故郷の星に帰ることが出来なくなったのです。このボックスの中の線が切れているようなんですが、ネジが外れなくて開かないのです」

 テレパシーでぼくに説明する。

 なるほど、ボックスの扉をとめているネジが錆びついていた。

 非力な宇宙人が無理やり回そうとしたらしく、ネジ山が舐めて潰れていた。

 差し出されたドライバーがしっかりかからない。

「ハンマーはありますか?」

 尋ねたが、重い工具は一切積んでないという。

 しかたないのでネジ山にドライバーを差し込み、空手仕込みの肘打ちを叩き込んだ。

 手ごたえがある。

 プラスドライバーの先がネジとかみ合ったので、力任せに回してみるとボックスが開く。

 覗き込んでいたグレイたちがオーと歓声をあげた。

「この線が断線している」

 エンジニアらしい一人のグレイが感電防止のゴム手袋をはめた長い指で器用に線をつなぐ。

「操作盤が動きました」

 操縦席の宇宙人の声が響いた。

「ありがとうございます。スマホはお持ちですか?」

 グレイに言われるままスマホを差し出すと、

「ほんのお礼です」

 と言ってピストルのような機械から光線を発射する。

 画面が一瞬輝いた。

 UFOが去った後、スマホを調べてみるとPAYPAYの残高が1万円増えていた。