袴田くんと妖怪~世にもケッタイな物語 | みぶ真也 の 職業:怪談俳優

みぶ真也 の 職業:怪談俳優

浪速のユル・ブリンナー

おはようございます、大阪の俳優みぶ真也です。

ぼくには実に口の上手い知り合いがいます。

まあ、皆を明るくしてはいますが……

 

 

 うちの近所に住んでる袴田くんは気のいい奴だ。

 そして、実に口がうまい。火曜日にバッタリ会ったりすると、

「みぶ兄さん、昨夜のラジオ、面白かったですよ。最高傑作じゃないですか」   なんて言う。

 近所のおばさんとすれ違ったりしても、

「石川さん、今日もお綺麗ですね」

「いやあね、こんなおばさんをからかったりして」

「おばさんだなんて、お嬢さんにしか見えませんよ」

と歯の浮くようなことを言い、石川さんの方もまんざらでもない顔をしてる。

 世の中を明るくするサービス精神に溢れてるんだろうか。

 そんな袴田くんが、ある日、ちょっと真面目な顔で、

「実は、兄さんの怪談にぴったりな話があるんです」

 なんでも、先週の土曜日の夜、袴田くんがコンビニの帰りに並木道を歩いていた時のことだそうだ。

 正面から一人の女性が歩いてくる。

 夜目にもその美しさに釘付けになった。

 このご時世でマスクをしてはいるが、その美貌に思わず袴田くんは本心から、

「お綺麗ですね!」

と声をかけてしまった。

 女性は彼に向かい、

「私、綺麗?」

「ええ、とっても」

「これでも綺麗?」

とマスクを外すと、その口が耳まで避けた化物だった。

 普通の人間なら腰を抜かすところだが、そこはサービス精神旺盛な袴田くん、

「ぼくお姉さんのように口の大きい女性がタイプなんです。新垣結衣とか眞鍋かをりとか今井美樹も好きだったなあ」

「あきれた、口裂け女を見てそんなこと言った人は初めてだわ」

「口裂け女くらい平気ですよ。何しろ、ぼくはこの界隈では口先男と呼ばれてるんですから」