「わたしね やっと自分のことが好きになれたんだ」


サヨナラの温度
中嶋ゆか・ちゃおコミックス
(ちゃお掲載)


☆あらすじ☆
元々引っ込み思案な野上瞳子は父親の都合で転校することに。最初の挨拶で失敗したかも‥と思ったら、山下灯(あかし)という男の子が声をかけてくれた。
大好きな映画で盛り上がり、聖地巡礼しようと言われる。
これはデートかな、と思った矢先、灯は目の前で倒れ込んだ‥

「少女漫画」の名手中嶋さんの本気が再び!!


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中嶋ゆかさんはちゃおのお姉さん雑誌ちゅちゅでデビューしましたがちゅちゅが廃刊になったためちゃおに移籍した作家さんです。今までもたくさんの素晴らしい作品を描いてきました。
しかし現在は増刊で女の子がアイドルと同居する「COLORS!」という連載をしています。好評でまだまだ続くと思われますが、私はこの作品の慌ただしさと話の進まない感じが中嶋さんらしくないと思っています。増刊なので読み切り形式でなければならないのは重々わかっていますが。

そんな中で突然、本誌に新しい作品が連載されました。編集部的にはおそらく「COLORS」の宣伝も兼ねてるかなあとは思いましたが、それでもとても嬉しかった。


主人公は映画が好きなおとなしい子。急な転校でクラスに溶け込めるか不安で仕方ない。自己紹介で映画の事を話したら「オタクっぽい」と言われてしまいます。失敗した、と思った矢先に灯が「いいじゃん、オレも好きだよ」と言ってくれた。
彼は明るくクラスの人気者。周りには自然と友達が集まる。瞳子は「同じ映画のファン」ということで少しずつ近づいていきますが、彼は先天的な心臓病で、手術もできない状態。「もってあと一年」だったのです。

彼を気づかうあまりに友達とのじゃれあいや体育の授業を心配しますが、彼を傷つけてしまいます。灯の姉・夕陽は「あの子は明るく振る舞っているけど夜になると震えてる」と打ち明けます。
そして灯自身も「目の前の今を笑って生きたい」と。
そんな灯を「好きだ」と思う瞳子。

ですが灯の身体はどんどん弱っていく‥ついに学校に行けなくなってしまいます。今まで病気の事を知らなかったクラスメイトたちはその重篤さにおびえ、あきらめの表情すら見せる。
しかし灯は瞳子をクラスになじませてくれ、瞳子は彼の明るさと強さに憧れた。彼のために力になりたい。おとなしいままではいけない。声をふるわせ、みんなに言います。「灯くんに聖地巡礼させて」と。

瞳子と灯の好きな映画はおそらく、「世界の中心で愛を叫ぶ」のような恋愛ものだと思います。あれがヒットしたときファンは撮影地に赴いてその場所を賑わせました。
二人も聖地巡礼しようとしましたが、あと一つ、主演の二人が座ったベンチだけたどり着けなかった。そのベンチを作って病院に置こう、と発案します。
クラスメイトは瞳子の気持ちに動かされ、ワイワイベンチを作り、重い空気はなくなっていきました。


そのあとについてはあえて語りませんが、この物語は恋愛が主題ではありません。
おとなしくて自分を好きになれない瞳子が灯との出会いで自分の殻を破り、成長すること。一生懸命灯を愛したことが彼女を強くしたのです。
あらためて全部読むと、主題は最初から瞳子の中で発生していて、問題を解決し叶えていくという徹底した筋道が立てられています。

少女漫画は恋愛モノと見られてしまいますし実際「好きな人とカレカノになる」話がほとんどです。しかし読者の日常は実は友達と過ごしたりテストに苦しんだり、そこまで恋愛と近いわけではありません。
そして友達とうまくいかなかったり、本音をうまく言えなかったり、そんな自分がいやだなあとしょげたり。
「サヨナラの温度」はそんな読者に寄り添う物語です。
ちいさなことでも、ささいなことでも、勇気をもってやりとげる。
たとえうまくいかなくても、経験は残る。
その大事さを繊細に描いています。


瞳子には欲しいものが二つあった。でも両方は叶わなかった。瞳子は上を向いて歩いていきます。失った思い出を胸に。


あと同時収録されているのが「わがままなツバサ」の読み切り版とシリーズ連作「寄り道のふたり」。両方単行本からこぼれてしまった作品です。
どちらもとてもよい作品です。

 

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