「それが本心なんだ…?

…みんな

みんな同じね…お父さんだって

最後になって私を責めて

まるで私が悪者みたい」

 

 

中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活7巻
佐々木ミノル・ニチブンコミックス
(コミックヘヴン掲載)


★あらすじ★
片桐真実(まこと)、18歳、中卒。父が犯罪者、母は事故死。妹の学費を稼ぐために学校を諦め工場で働いている。
しかし現場で「中卒」をバカにされた真実は妹と一緒に「通信制」の高校へ入ることに。
76歳の老人、シングルマザー、玉石混淆の同級生の中、真実はお嬢様の莉央と出会い、「壮絶な事件」を乗り越えてつきあうことに。

新学期が始まり、真実たちは二年生に。ところが新入生の中から、若葉を呼ぶ声がする。

若葉は焦った。だって彼は、ひなぎくの父親なのだから。

時間がさかのぼる。

通信制を卒業した作者が紡ぎ出す、心にぐいぐい絡み付く青春ストーリー。


☆☆☆

ファンタジーより「無理ゲー」な境遇にいる主人公の、マジな格差恋愛モノです。
毎回コミックスを楽しみにしてますが、雑誌が隔月でもどかしい‥書店で見つけるのも難しい‥でも、最近「この漫画が~」みたいなヤツに取り上げられてきています。


主人公は中卒です。母を亡くし父は犯罪者、親戚に住み処は与えられるも同居は拒まれ、負けるものかと工場で働いてきた。
自己評価が大変に低く、卑屈で手も出やすかった。
しかし妹と一緒に通信制高校へ通いはじめ、少しずつ変わってきています。
お嬢様の莉央と付き合うことになり幸せリア充ヒャッハーか‥、しかし彼の「境遇」は学校の誰にも明かしていません。
 

ただし、この巻の主人公は真実たちのクラスメイト、若葉とひなぎくの父・トミーの話で終始します。若葉はシングルマザー。ひなぎくを育てながらデパートで働いています。

訳アリだろうなとは思っていたけれど…重い。

 

物語はどちらかというとトミー(泰平)の視点です。

若葉はわりと普通の家庭で育っていますが、泰平の家庭は違う。

はっきりとは書かれていませんが、母親は再婚相手、父親の工場が経営難。

弟の優平は成績がいいので、母親が泰平に中学から新聞配達をさせていました。

いづらくなった泰平は高校進学を機に「金を送る」という条件で家を出て、アルバイト漬けの日々です。しかし母親は「これでも足りない」と連絡するだけ。

彼は半ばあきらめて、いつも笑って楽しそうなフリをしています。

 

そして彼には萌という「彼女」がいます。学校でも評判の美少女で、優しくて甲斐甲斐しい。

部屋に上がり込んでは、家事をしていく。

しかし気の合う部分は存在せず、「つくす」ということで愛情を押し付け、なのに彼の言い分を聞かない。

彼女の存在が泰平を追い詰めていきます。

別れよう、と言っても「私のどこが悪いの!言ってくれたら治すから!」としがみつくのです。

なんでこの子こんなに泰平に執着するんだろう…と思いながら、冒頭の抜粋をふと思い出す。

泰平の母のセリフです。こういう人…いるんですよ。

父親が亡くなり、葬儀場で彼女は言うわけですよ。今まで気づいていないふりをして。

泰平を追い詰めておきながら、これですよ。

萌もどこか同じ匂いがします。

意を決して「最初から好きじゃなかった」と言えば、「鬼畜!私は悪くない!なんで報われないの!」。

萌も泰平がもし死んだら、「私が悪かったんですよどーせ、はいはい」って言い出しそう。

 

そこに現れたのが、若葉だったのです。

若葉も息苦しい環境の中にいて、泰平と感性がひかれあった。

泰平からしてみれば、萌も家族も気づきやしない彼の「悲しさ」を「明かせ」という救いの存在でした。

そして…

 

トミーと若葉がしたことは、間違いだったのでしょうか?

勢いづいてしまった、という問題はあるかもしれません。

でも、私たちは「年齢」で身分を分けられる。

ここまではダメ、ここからはOK、という分類をされるわけです。

勝手なもんですよね。本当は。

周囲は二人をじりじりと追い詰めていきます。

 

そして現在に至りますが、さて若葉はいきなりの再会に何を思うのか。

最初はもちろん拒絶でしょう。しかしまちがいなくひなぎくの父親です。

若葉はデパートと高校の両立をしながら、しかし時々行き詰まることがある。

もしトミーと晴れて結ばれたら、彼はそうとう稼いでいるようだし生活は楽になるでしょう。

でも、あの時の「激しい恋」はそのままでしょうか?

若葉は故郷から出たとき、何を決断したのでしょうか。

 

このギリギリする青春群像。もっと広く読まれてほしいです。


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