「簡単にほどけそうに見えるし
ぐちゃぐちゃにこんがらがって
いるようにも見える
ま 一言で言えば
混沌だな」
3月のライオン5巻
羽海野チカ・ジェッツコミックス
(ヤングアニマル掲載)
★あらすじ★
零に手を差し延べ、将棋の道を指し示してくれた島田八段の獅子王挑戦はあっけなく終わった‥。島田の故郷・天童市へついて行った零が見たものは‥。
新学期になり時は進み、今度は宗谷名人と隈倉九段の名人戦に。そこで零は義姉の香子を弄んでいる後藤九段と対峙する。
憎かったはずの後藤。しかし島田をかばった後藤。零の中で迷いが生じていた。そして、後藤にも事情が。
一方、ひなたの心に暗い影を落とす残酷な事件が起こります。
「ハチクロ」でヒットし、大人気作家となった羽海野先生の激流のような将棋と人生の物語。
☆☆☆
島田八段が作った「塩野クラブ」の話で早々と涙腺崩壊してしまった5巻!!たまんねぇ!!さすが羽海野先生です。
さて、5巻の根底をずーっと流れているのは、柳原棋匠の冒頭に挙げた台詞です。
名人戦。不動の宗谷名人と隈倉九段の戦いです。フルで戦う二人の戦いをそのまま示した言葉。棋匠の言うとおり、最終戦が混沌のようでいてあっさりと終局してしまうのです。
しかし難しいようで簡単、というものはこの5巻にたくさん詰まっています。まず、林田先生に「将棋部を作ろう」と言われて悩んでしまう零の話。
それから‥後藤九段。
ぶ厚い男っぷり、島田八段の陰口をしていた棋士にピシリと「リングに上がったことのない奴がヤジを飛ばすのは虫酸が走る」と言い放つ。島田を認めている後藤ですが、零としては逆に困る。単に嫌な人だったらどんなに楽かと思ったでしょう。
後藤は義姉の香子といわゆる不倫関係。しかし香子が後藤にすがらなければならない精神状態なのは零のせいでもあります。ですから零が噛み付いても後藤はどっしり構えている。
ところが香子から化粧品を受け取り、後藤が向かったのは‥病院。
後藤の奥さんは入院中だったのです。今の状態ではよくわかりませんが、ずっと眠ったままかもしれません。
つまり後藤は最愛の奥さんと一緒にいることができないために香子を囲っている。
正直ここを読んで「なあんだ‥」と思ってしまいました。不倫していて家族はどうなってんのかと思っていましたが、後藤も結構単純な感情を持っているのです。
絡まっているようでじつはあっさりしている。後藤もそれが当てはまるのです。
で、香子もたいしたもんだなと思いました。誰からも「ぶ厚い」と言われていて、言動が荒々しくでも正しい彼の「弱さ」をいち早く見抜いていたということです(零に対してはそれをいちいちつまみ上げてネチネチ言ってますが)。
しかも奥さんのために化粧品買ってくるんだもんな‥後藤の前ですっかり猫(いたずら好き)になっている香子が憎めません。
香子の出番は5巻でここだけでしたが、やはり非常にインパクトのあるキャラクターです。
あと隈倉九段も「K1誘われたってきいたぞ」と言われるような容姿で寡黙キャラですが、頭脳を働かせるためケーキをわしづかみでむしゃむしゃ食べたり、負けて旅館の壁を蹴り壊す(笑)などお茶目な一面があります。
隈倉九段スゲー「どストライク」です。壁の件はギャグっぽくなっていましたが、ケーキをむさぼる姿は真面目な描写になっています(宗谷名人もブドウ糖を多量摂取してるし)。
人はいろいろな「要素」でできています。強さ弱さ厳しさ甘さ。変な嗜好も、ふざけた一面も、みんなまとめたモノが人間です。
「3月のライオン」はそういう人間しか出てきません。
ところで宗谷名人が摂取していたブドウ糖とクエン酸ですが、「将科部(将棋部と放課後理科クラブが合併した)」の野口がそれを使ってラムネを作ってしまいます。
零には深い思い出として焼き付いたでしょう。将棋そのものを象徴する宗谷名人の「エネルギー源」は零と部の面々を繋ぐモノになってしまったのです。
5巻は名人戦と同時に、進級して戸惑う零の姿も描かれています。零はある日てんとう虫を見つけ、そこから小学校時代の辛い時期を思い出します。
そして‥ひなたが友達をかばってイジメのターゲットにされるという事件が。ひなたはかばったことを「間違ってない!!」と叫び、零は自分になかった強さをひなたから貰い、彼女を救う決心をします。
香子が不倫するのは零が幸田家を壊したから。しかし零が家を壊すまで将棋にすがりついたのは孤独だったから。
でも、何故零は孤独感を将棋にぶつけるしかなかったのか。零は家族をなくす前から友達がいなかったようだし、実は楽な方向に逃げただけかも‥いや、これは小学生にはきついか。
日本の子供が何人もいじめで自殺します。しかしいじめられて一人だから死ぬしかないという価値観は根本から間違っています。大人は仕事場で「仲良くしたい人はいないなあ」と思いながら働いているのがしばしばですが、それが理由で死にません。
子供もただ集まってクラスに入れられているだけですから、「誰とも仲良く」「みんな仲良く」などという理想は大人のエゴ。そして子供は追い立てられています。
中には「友達になりたい人いないから一人でも平気」でやってる子がいて自分はそんな子がうらやましかった。
零もそんなそぶりをしながら、孤独に勝てなかったわけです。
部活に入って仲間と笑い合う実感を手に入れた零は、ひなたに自分の過去をなぞらせるようなことはしないはずです。
ただ、「物語だなあ」と考えてしまうのです。零がちょうどよく人間的に丸くなってきたタイミングのひなたの事件なのです。
「3月のライオン」は読んでいて惚れ惚れするほど物語があちこちで繋がっている。つながりに気づくと感動する。
しかし現実はそうじゃなくて、いろいろなものがつながらないままブラブラ垂れ下がっているものだったりする。
しかしこれほど「完成した物語」だからこそ、つながらないこの世界を再確認するのかもしれません。
漫画ブログ
- 3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)/羽海野 チカ
- ¥510
- Amazon.co.jp
- 3月のライオン 1-4巻コミックセット (ジェッツコミックス)/羽海野 チカ
- ¥2,021
- Amazon.co.jp

