ジャンク的漫画日記-100811_134531.jpg


「私と全然似てないあのひとに
私は 必要とされたい」


エビスさんとホテイさん
きづきあきら+サトウナンキ
芳文社まんがタイムきららコミックスつぼみシリーズ
(「つぼみ」掲載)


★あらすじ★
ホテイさんは本社から異動してきたエビスさん(通称エビマヨ)が大嫌い。以前自分の無能さを本社で攻撃されたからだ。ホテイさんは営業所の人間に彼女をイジメるよう仕向ける。
同い年なのにエリート、出来すぎるエビスさん。しかし何故本社で総合職だった彼女が一地方の事務職に甘んじ、そして残業せずに帰るのか?本社で何かしたのだろうか?思わず後をつけて行った先で、ホテイさんはエビスさんのとんでもない秘密を知ることに?!
ズキズキギスギスを描かせたら右に出る作家はいない!きづき+サトウ両氏が初めて挑む、「百合」漫画!!


☆☆☆

「まんまんちゃん、あん。」でガッツリ惚れ込み「うそつきパラドクス」など作家買いしている両氏の新作です。大好きです。
ただ、「まんまんちゃん」は坊主モノ。「うそパラ」は成人指定ないけどすさまじい官能漫画。そして今度はなんと、百合モノなのです。ガールズラブなのです。男性が介入しないちょっとしたファンタジーです。

自分はこの本を買うまでかなり悩みました。百合は全く踏み込んだことのない領域でしたから。

ところが読んでみると果てしなく「きづき+サトウ漫画」なのです。いろんなギリギリジャンルを書いていながらも二人の方向性や作風はブレません。

人間が人間を愛することは何者であろうと深いところで同じ。そのブレないメッセージをしっかりと受け取りました。

「百合」だけど百合を超えている。

ぶっちゃけた話引き延ばし気味の「うそパラ」よりスマートで手応えのある作品です。



ホテイさんは実家住まい、いわゆる腰掛けOL。仕事はてんで出来ませんが協調性があり、その協調性で人に甘え自分のできなさを補う狡い女の子です。

そこにホテイさんの人格全て否定するような存在のエビスさんがやってきます。エビスさんの側にいると、自分のダメさ加減が映し出されそうになるのでホテイさんはエビスさんが大嫌い。周りを使いイジメを始めます。

ところがエビスさんが姉の子供を養うために地方の事務職を選んだ事を知ってしまいます。


ホテイさんは完璧なエビスさんのさらなる一面に打ちのめされて「大嫌い」の度合いを深めるのですが、
人に対する感情はスキでもキライでも大きければ同じ。ホテイさんの頭の中はエビスさんでいっぱいになります。


ユリだろうがバラだろうがスミレだろうが、人を愛する理由があります。BでLな漫画では「オレは男が好きなわけじゃない、お前だから好きなんだ」という結論に至ります。人は人をカテゴリではなく個人として愛するんです。

百合も「女だからじゃなくてあなたが好き」になるのでしょうが、両氏は「なぜ女同士なのか、男同士の恋愛と何が違うのか」をはっきり示しました。


プライド、自己実現、陰湿な嫉妬。


別に男性でもこの感情は起こりますが、どちらにしろ漫画でこれを描くと嫌われやすい。人間があまりひけらかしてはいけないものです。
この漫画ではあえてねっとりと女性の情念を混ぜ込んで書いています。
現代女性はみんながみんな結婚したいわけではない。自分を立てるために仕事を拠り所にしている人がいる。それに憧れて失敗し打ちのめされている人もいる。エビスさんとホテイさんは会社で悩む女性の象徴です。


それに拍車をかけるのがエビスさんの姉。妹とは対照的な奔放でだらしない女性。
姉妹はお互いに嫉妬し反発し、姉は妹から全てを奪い(彼氏も盗った)、妹はただ耐える。

お姉さんは優秀なエビスさんの犠牲者です。しかし「自分を落とし込む」ことが妹の苦しみになる、と自覚せずやっている。
これは親に愛されず育った子供が大人になって起こす行動です。「私が不幸なのはお前のせいだ」と自滅していく‥
これは家族に対する「愛してほしい」という気持ちの裏返しなのです。

お姉さんはエビスさんを好きです。そして生みっぱなしほったらかしの娘を守ろうとするエビスさんもお姉さんの自由さに憧れています。


しかし仕事も育児も手を抜かないエビスさん。事務職なのにすぐ上司の目に止まりどんどん仕事が増えていきます。押し潰されそうになっているエビスさんに、「私は何が出来るだろうか」とホテイさんが考えます。
何も出来ず甘えることで世を渡ってきたホテイさん。本当はエビスさんみたいにかっこいい女性になりたかった。でもできないことがわかっているから諦め、出来る女性を憎んだ。
女性誌に躍る「自己実現」という文字は、どれだけ女性を苦しめているのでしょうか?


エビスさんとの出会いはホテイさんを大きく変えます。
憎しみを越えた先に、ホテイさんの「自己実現」が見つかります。それが冒頭のモノローグです。是非イッキに読んでください。自分はゾッとしながらも、その後「目覚めたのか?」と思うくらいドキドキしました。


「百合」で片付けるにはあまりにも深い、女性の辛さを描いた作品です。

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