「傾いた太陽の光をひとり占めにして
俺の大嫌いな坂道を
軽々と駆けおりていく
君には
その坂の先に何が見えているのか
それは 俺が見たことのない景色なのか」
坂道のアポロン1・2巻
小玉ユキ・小学館flowersフラワーコミックスα
(flowers掲載)
★あらすじ★
1966年、音楽といえばレコード。そしてジャズ。そんな時代。親の仕事の都合で横須賀から九州に転校してきた西見薫。優等生だが神経質で、子供の時に教室で嘔吐したのをきっかけに遠巻かれ、転校を繰り返すうち誰とも関わらないようになっていた。
それでも教室の空気は重くて、息詰まった時には屋上に逃げていた。しかしその学校は違った。
階段の途中で寝転んでいる男子が一人。西見が声をかけると、いきなり手をつかまれ、「天から迎えに来てくださったとですか?」
西見と千太郎、二人はここで出会い、友情と恋愛を通過していく。
☆☆☆
書店で2巻の表紙が気になって気になって気になって気になって、ついに手にした漫画です。「このマンガがすごい!2009オンナ編」で見事第一位。だから現在どこ探しても見つからなくて‥オッサンの街でうっかり見つけてびっくりしましたがな。
まず叫ばせていただきますと、もうね!千太郎のパーツがヤバイんですよ。バカでかいしタレ目だし首太いしエエ体してるし(もうユニフォーム着てセカンドしてくださいよ←散れ)‥そして性格がね。おおざっぱな割に照れたり怒ったりがわかりやすくてね。
そこはまあただの「腐った叫び」なので置いといて、
1966年当時では「神経質」「モヤシ」と片付けられてしまうだろう西見が豪放磊落でバンカラな千太郎と出会う事により、ぐるぐると振り回されて気がついたら閉ざされた世界から飛び出していってしまう気持ち良さに、
「男っていいよなあ」と無い物ねだりな憧れを抱いてしまいます。それは千太郎の幼なじみの律子が代弁しているような。
千太郎はケンカが強いし外見がコワイけど、いわゆる「昔の不良」だから曲がったことはしない。出会いが鮮烈だったこともあり、西見に興味を示していじってしまう。
しかも千太郎はジャズが好きでドラム、西見は昔からピアノをやっていた、教室は狭苦しいなど、感覚がシンクロしていく。
全く違うタイプの人間でも心底まで覗くと実は一緒なんてことがある。
そして違いはお互いを埋めます。自分も西見になって千太郎に悩みを笑い飛ばしてもらいたいと思いました。
あと、一緒にジャズセッションしたい‥それから千太郎を叱ってみたい(オイ)
「西見になりたい」‥しっかり者で明るく、でも慎み深い律子もいきなり千太郎に近づいた西見をうらやましいと思っているでしょう。西見は律子が好きだけど、律子は千太郎をずっと見て来ていた。
それは言い出せないまんま、千太郎には新しい出会いが待っていたりする‥
すごくシンプルなすれ違いなのになんでドキドキするんだろう?それは非常にきめの細かいモノローグのせいでもあり、モノローグで掬い出せないものがイキイキしたキャラから滲み出るからなんだと思います。
ホントに丸尾くんから律子のお父さんまでみんなイイからなぁ‥
まだまだキャラに謎がたくさん詰まっていて、続きがうっかり本誌で読みたくなるすごい作品です。
☆☆☆
ところで巻末には読み切りが入っています。一巻の「種男」、二巻の「インターチェンジ」。両方現代の大人の話です。
まだ小玉作品に触れたことがなかった自分はいきなり現代に引き戻されてしまった。
flowersにいたら大人主人公で小洒落たマンガ書きますよね。
とりあえず「羽衣ミシン」と「BeautifulSunset」を買って見たんですけど‥かなり違うものをたくさん書いているんですね。絵があっさりしていて目も淡泊だから二ノ宮知子先生に似た感じ。話はクールでいかにも大人漫画(誤解を招くので後で小玉作品は一つずつ感想します)。
で、何故「坂道‥」を書くにあたって時代が1966年になったのかなあと思ったんです。
自分は‥想像つくと思いますが地味ーな学生時代を送ってきました。今のほうがよっぽど明るく楽しくやってます。そうじゃなきゃ漫画中毒にならなry。
そんでも好きな人はいたし、それなりに告白してみたりみんなで遊んだりもした。
だけど現在の少女マンガ、まず派手な物を書いて読者を引き付けたいと思うわけで。ミニスカートに開いた衿、化粧、キラキラした小物。キス経験は当然で、さらに進まないといけない強迫観念に縛られ主人公が思い悩む漫画が多い。
大人向けも同じで、カッコイイ主人公がバリバリ働いてキレーなマンション住んで「でも結婚したい‥」。いつ職を失うか分かんないご時世、あれはファンタジーです。
自分と別次元だと思いつつも、漫画としては当たり前に受け入れて来た。でも地味な生活は否定されたままだったのかなと思ってもいた。
だからわざと「1966年」なのかなって。律子が募る恋を言い出せなくて影で泣いたり、千太郎がいきなり手ぬぐい持ってたり、別に飾らなくてもみんな普通に地味。
でも本当に66年高校生だった人(うちの母親タメだ)からしたら「ジャズなんか知らない」みたいな感じでズレはあると思います。これも少しファンタジーな世界かもしれません。
世代を問わず地味な奴はどこにでもいる。合唱部吹奏楽部その他文科系のヒトは地味~にやっていたんですよ。だけどクラスには時代の先端を突っ走る子もいて、そっちからは「ダサっ」とか言われちゃう。そんな生活をマンガにしても一般には受けない‥
だから日の目を見ないまま大人になった人にとっては「こういう恋があっていい」というメッセージになっていると思います。非常に自然だけど漫画に対して言えなかった事です。今だとダサいのかもしれないけど、40年前ならあるでしょう、と。それが今逆に新鮮に輝くのです。
「君届」も最近始まった「青空エール」も地味な位置の漫画ですよね。でも魅力的で広く受け入れられています。
「坂道~」は時を越えたけど、「おおきく振りかぶって」もジャンルを越えた同種の漫画だと思います。少女マンガ要素は非常に強い。
振りもシャープさを落としてダサさを見せ、大人読者に「なんとなくな懐かしさ」を与えていると思うんです。少年漫画だったらムキムキズバーンな野球がガキんちょだらけの保育園みたいに見えますからね。
今は「漫画好き」しか漫画を読まない。だけど「漫画好き」の人口は増えている。
「坂道~」は普通の人にも漫画好きにも「新しい視点」を与えた作品だと思います。
俺の大嫌いな坂道を
軽々と駆けおりていく
君には
その坂の先に何が見えているのか
それは 俺が見たことのない景色なのか」
坂道のアポロン1・2巻
小玉ユキ・小学館flowersフラワーコミックスα
(flowers掲載)
★あらすじ★
1966年、音楽といえばレコード。そしてジャズ。そんな時代。親の仕事の都合で横須賀から九州に転校してきた西見薫。優等生だが神経質で、子供の時に教室で嘔吐したのをきっかけに遠巻かれ、転校を繰り返すうち誰とも関わらないようになっていた。
それでも教室の空気は重くて、息詰まった時には屋上に逃げていた。しかしその学校は違った。
階段の途中で寝転んでいる男子が一人。西見が声をかけると、いきなり手をつかまれ、「天から迎えに来てくださったとですか?」
西見と千太郎、二人はここで出会い、友情と恋愛を通過していく。
☆☆☆
書店で2巻の表紙が気になって気になって気になって気になって、ついに手にした漫画です。「このマンガがすごい!2009オンナ編」で見事第一位。だから現在どこ探しても見つからなくて‥オッサンの街でうっかり見つけてびっくりしましたがな。
まず叫ばせていただきますと、もうね!千太郎のパーツがヤバイんですよ。バカでかいしタレ目だし首太いしエエ体してるし(もうユニフォーム着てセカンドしてくださいよ←散れ)‥そして性格がね。おおざっぱな割に照れたり怒ったりがわかりやすくてね。
そこはまあただの「腐った叫び」なので置いといて、
1966年当時では「神経質」「モヤシ」と片付けられてしまうだろう西見が豪放磊落でバンカラな千太郎と出会う事により、ぐるぐると振り回されて気がついたら閉ざされた世界から飛び出していってしまう気持ち良さに、
「男っていいよなあ」と無い物ねだりな憧れを抱いてしまいます。それは千太郎の幼なじみの律子が代弁しているような。
千太郎はケンカが強いし外見がコワイけど、いわゆる「昔の不良」だから曲がったことはしない。出会いが鮮烈だったこともあり、西見に興味を示していじってしまう。
しかも千太郎はジャズが好きでドラム、西見は昔からピアノをやっていた、教室は狭苦しいなど、感覚がシンクロしていく。
全く違うタイプの人間でも心底まで覗くと実は一緒なんてことがある。
そして違いはお互いを埋めます。自分も西見になって千太郎に悩みを笑い飛ばしてもらいたいと思いました。
あと、一緒にジャズセッションしたい‥それから千太郎を叱ってみたい(オイ)
「西見になりたい」‥しっかり者で明るく、でも慎み深い律子もいきなり千太郎に近づいた西見をうらやましいと思っているでしょう。西見は律子が好きだけど、律子は千太郎をずっと見て来ていた。
それは言い出せないまんま、千太郎には新しい出会いが待っていたりする‥
すごくシンプルなすれ違いなのになんでドキドキするんだろう?それは非常にきめの細かいモノローグのせいでもあり、モノローグで掬い出せないものがイキイキしたキャラから滲み出るからなんだと思います。
ホントに丸尾くんから律子のお父さんまでみんなイイからなぁ‥
まだまだキャラに謎がたくさん詰まっていて、続きがうっかり本誌で読みたくなるすごい作品です。
☆☆☆
ところで巻末には読み切りが入っています。一巻の「種男」、二巻の「インターチェンジ」。両方現代の大人の話です。
まだ小玉作品に触れたことがなかった自分はいきなり現代に引き戻されてしまった。
flowersにいたら大人主人公で小洒落たマンガ書きますよね。
とりあえず「羽衣ミシン」と「BeautifulSunset」を買って見たんですけど‥かなり違うものをたくさん書いているんですね。絵があっさりしていて目も淡泊だから二ノ宮知子先生に似た感じ。話はクールでいかにも大人漫画(誤解を招くので後で小玉作品は一つずつ感想します)。
で、何故「坂道‥」を書くにあたって時代が1966年になったのかなあと思ったんです。
自分は‥想像つくと思いますが地味ーな学生時代を送ってきました。今のほうがよっぽど明るく楽しくやってます。そうじゃなきゃ漫画中毒にならなry。
そんでも好きな人はいたし、それなりに告白してみたりみんなで遊んだりもした。
だけど現在の少女マンガ、まず派手な物を書いて読者を引き付けたいと思うわけで。ミニスカートに開いた衿、化粧、キラキラした小物。キス経験は当然で、さらに進まないといけない強迫観念に縛られ主人公が思い悩む漫画が多い。
大人向けも同じで、カッコイイ主人公がバリバリ働いてキレーなマンション住んで「でも結婚したい‥」。いつ職を失うか分かんないご時世、あれはファンタジーです。
自分と別次元だと思いつつも、漫画としては当たり前に受け入れて来た。でも地味な生活は否定されたままだったのかなと思ってもいた。
だからわざと「1966年」なのかなって。律子が募る恋を言い出せなくて影で泣いたり、千太郎がいきなり手ぬぐい持ってたり、別に飾らなくてもみんな普通に地味。
でも本当に66年高校生だった人(うちの母親タメだ)からしたら「ジャズなんか知らない」みたいな感じでズレはあると思います。これも少しファンタジーな世界かもしれません。
世代を問わず地味な奴はどこにでもいる。合唱部吹奏楽部その他文科系のヒトは地味~にやっていたんですよ。だけどクラスには時代の先端を突っ走る子もいて、そっちからは「ダサっ」とか言われちゃう。そんな生活をマンガにしても一般には受けない‥
だから日の目を見ないまま大人になった人にとっては「こういう恋があっていい」というメッセージになっていると思います。非常に自然だけど漫画に対して言えなかった事です。今だとダサいのかもしれないけど、40年前ならあるでしょう、と。それが今逆に新鮮に輝くのです。
「君届」も最近始まった「青空エール」も地味な位置の漫画ですよね。でも魅力的で広く受け入れられています。
「坂道~」は時を越えたけど、「おおきく振りかぶって」もジャンルを越えた同種の漫画だと思います。少女マンガ要素は非常に強い。
振りもシャープさを落としてダサさを見せ、大人読者に「なんとなくな懐かしさ」を与えていると思うんです。少年漫画だったらムキムキズバーンな野球がガキんちょだらけの保育園みたいに見えますからね。
今は「漫画好き」しか漫画を読まない。だけど「漫画好き」の人口は増えている。
「坂道~」は普通の人にも漫画好きにも「新しい視点」を与えた作品だと思います。

