雨 の 台 湾
竹田恒泰氏著「日本は何故、世界で一番人気があるのか?」によると、台湾は「ラブ・ジャパン」の大御所と言われているそうだ。昔の親日家に加え、哈日族(ハーリーズー)と呼ばれる人たちが加わった。日本のポップカルチャー好きの若者達が急増し、台湾の日本贔屓に拍車をかけている。
台湾における対日意識に関する世論調査(二〇〇九年)によると、あなたの最も好きな国は何処ですか? の問いに、一位 日本 三十八%、二位 台湾(自国)三十一%、ちなみに米国 五%、中国 二%であった。自分の国よりも「日本」と答えた人の方が多いのには驚いた。東日本大震災への多額の援助申し入れの素地が、ここにも伺える。
三七会の同級生で、三泊四日の台湾旅行に出かけることになった。台北には数回行ったことがあったが、日月潭や高雄は始めてである。女房も一緒に参加することにした。
幹事長の目論見で、数年前から夫婦同伴の出事を意識的に作ってきたようだ。今回(平成二十三年の秋)も、六組の夫婦と二人の単身者、合計十四名でのツアーとなった。阪急交通社の格安ツアーながら、幹事長の交渉で、我等のパーティのみでの行動となった。大型バスでゆったりと、食事も我々だけで、気兼ねの無い海外旅行を楽しむことが出来た。
初日、機内食での昼食を済ませ、時計を一時間遅らせる作業をして雨の台北についた。残念なことに、この雨は帰える前日まで続くことになる。飛行場からバスに乗り込み、三十一歳の男性ガイドに連れられて台中へ、高速道路をひと走りした。
車中で、一万円を台湾元に交換した。袋には、三千七百五十元入っていた。一台湾元は二・六六円である。十年ほど前は四・五円ほどであったと記憶している。台湾元を三倍して一割引くか、〇・九を賭ければよい、と買い物奉行の女房に説明した。確かに円高だ。ツアー料金も四万五千円と安い。雨の宝覚寺などを見学してホテルに入った。
二日目の朝、ホテルのロビーで、昨日、機中で隣り合わせになった別のグループの旅行者夫妻と出くわした。八十歳と七十一歳の北九州の御夫婦で、元気なうちに旅をせねば・・・と同感を覚え、四人での記念写真をホテル前で撮った。この夫婦とは、この後も各地で出合うことになる。これも旅の楽しみの一つとなった。
一番訪れたかった日月潭は雨に霞んで、その全貌を目に出来なかった。大きな文武廟の上から風光明媚であろう湖の姿を、想像するに留まったのが残念であった。
日本統治時代に、台湾南部にアジア最大級の利水ダムを建設し、当地で「ダムの父」と呼ばれる日本人土木技師が居た。その八田與一氏の功績をたたえる記念公園が、烏山頭ダム(台南市官田区)を中心とした約五万平方メートルに整備されているという。嘉南の農民たちによって八田與一夫妻の墓がその地に建てられ、作業着姿の銅像とともに、いまも農民たちの手で守られているという。命日の五月八日には現地の人々によって追悼式が行われているそうだ。
雨降る高速道のバスの車窓に、台湾で最も愛されている日本人だ、と小学校の教科書にも登場する八田夫妻への思いを馳せながら、高雄に着いた。
三日目の朝、傘を片手に朝食前の散歩に出てみた。昨晩、河口遊覧を強い雨のため中止した愛河のほとりを、美しい夜景を想像しながら、二人で三十分ほどの散歩を楽しんだ。
澄清湖、寿山公園を観光し、高雄から新幹線で台北へと向かう。日本の新幹線と変わらない姿、乗り心地を一時間半ほど満喫したが、外は相変わらずの雨。少しは小降りになってきたようだ。
台北に着いた。忠烈祠での衛兵交代式や国立中正紀念堂の観光は、なんとか雨も上がり、さあ今から九份へ、とバスに乗り込んだら、また降り出した。
狭い坂道をバスの離合に苦労しながら、大雨の九份に着いた。コンビニで買ったビニールの簡易雨合羽に、更に傘を差して、狭い九份の路地を歩く。ネットや観光パンフで見る情緒溢れる雰囲気など味わうどころではない。ただただ雨を避け、転ばぬように足元をしっかり確保するのが精一杯、ひと通り歩いただけ、であった。
帰るバスの中から仰ぎ見た、暗くなった九份の街の灯りは、今度は天気のいい日に、また来てね、と語りかけていた。
四日目、起きると雨がやんでいた。早速、朝食前の散歩にと、下調べの行天宮へと向かった。行天宮(ぎょうてんぐう)は、台湾の台北市中山区に位置する関帝廟。多いときで一日に二万人以上が訪れるという。台北地域でも人気の高い寺院のひとつである。廟の南西側にある地下道は行天宮商場と呼ばれ、二十軒余りの占い師が軒を並べる観光名所になっており、多くの日本人が訪れる場所として知られている。
二人で門を潜ると、待ち構えていたかのように、小柄で品の良い八十歳過ぎのおばあさんが、流暢な日本語で話しかけてきた。「日本から観光ですか?」と。ほぼ毎日早朝お参りに来ては、日本人に声をかけているという。日本統治時代の頃が懐かしいと言って、手に持っていた蜜柑三個を、どうしても受け取ってくれと手渡された。決して綺麗ではなかったその蜜柑は、昼食の時に女性テーブルのデザートになったようだ。ラブ・ジャパンの大事な一人であろう。あの人なつっこさが、今も忘れられない。
昨日まで降り続いた雨が嘘のように、陽が昇りだした。皮肉なことに今日は、故宮博物館の見学である。館内は、多くの観光客で一杯だ。半分近くは中国本土からの客という。甲高い声、チャ・チィ・チュ・チェ・・・としか私の耳には聞き取れない言葉が氾濫している。マナーが悪いこと、この上なし。順路は逆走するし、勝手に割り込む。あっけに取られて、博物館は三度目だ、疲れた、お茶でもゆっくり飲もう、と喫茶室へ向かった。同じ思いの老級生が屯していた。
今回は、雨のおかげで夜遊びすることなく、友達と、女房と、ゆっくりとした時間が持てた。健康的で楽しい旅であった。
幹事長は、次を考えているという。楽しみだ。(平成二十三年十一月)