闇夜の中で亡者が叫ぶ・・・
「ウオォォーーン」
スクリュー回転のモーター音は亡者の嘆きを連想し、作業員の合図と成っている。
スクリューが計量完了値に到達すると、先ほどまで死人同然だった作業員は、獣の様な鋭い目つきへと豹変する。
獅子落としの様な音が工場内を木霊し、スリープレートが開くと、成形品がイジェクトされるのを焦れったそうに睨む。
獲物を奪い取る様に右手で掴み取ると、それを即座に左手に持ち替え作業台に並べる。
そして、瞬く間に空いた右手でランナーを掴むと、自身の脇腹に押し当て、傘を折り畳む様に束ね、後ろのコンテナに投げ込まれる。
その一連の動作は、精密機械を連想させられるが、作業員の表情は再び死人に戻るため、亡者に操られたアンデッドマンと言った方が正しい。
Tはその不気味な光景に見とれ、催眠から覚めた様に我に返ると、再び工場内を巡回する。
途中通路のゴミを見つけては、作業者に掃除の指示を出す。
本工場を1周回り得たところで、ところ狭しと並べられた49台の成形機を見渡し、今回の任務について思い返した。
それは、特定の成形一個部隊に潜入し、直接的な指導を行うことで、反対班と劇的な差をつける事であった。
その目的は、日本人直接指導であっても、結果が現れれば意識改革につながり、直接指示された側は当然ながら、され無かった側は発奮材料となると言うモノである。
結局は、中国赴任者に求められるのは、現地成形従業員の劇的な変化であり、躍進的な管理状態へ持って行くと言った、どの道の根本的な夢物語を意味する事でもあった。
その夢物語を成功させるには、山積みにされた問題が余りにも多く、それは無数に出くわすアンデッドを片っ端からショットガンを打ち込んでいく、いつ終わるとも判らない螺旋地獄の様なモノである。
「ツーファーン!」
ずんぐりとした体つき、首がめり込んで見えないほど大きな顔、のっそりと歩く仕草から、海亀を連想させる。
俺が潜入中の一個部隊の長として仕切っている副職長の阿良である。
職長の中でも、日本人には非常に愛想が良く、初めて対面する日本人にはウケがイイが、その感情は直ぐに消される。
最近になって特に感じるが、日本人の様な力のある人間に媚びて愛想を振る舞う只のご機嫌取りだ。
阿良は、ステンレスの食器に盛った通称猫まんまを自分の机に置き、海亀の様な首を器の高さに下げ、同じくステンレススプーンで書き込むように食事をとっている。
寮へ向かう道中、その光景が脳裏からしばらく離れなかった。
時刻は深夜0:00を回った頃、工場を出て月夜に浮かんだ日本人寮を見上げる。
当然ながら、二階の香港人フロアーを含み明かり一つ無く、駐在員全員の消灯時刻と成っていた。
睡眠の妨げを気遣い、入口扉を慎重に締切る。
三階の日本人フロアーに上りつめると、TV部屋に運んだ即席焼きそばの袋を開け、乾麺をどんぶりに開ける。
中国の必需品、給水器よりお湯を注ぎ電子レンジのダイアルを3分程に回すと、冷蔵庫より缶コーヒーを取り出し、ソファーに腰掛け、胸ポケットから中南海を取り出し、咥えた。
使い捨てライターで火を付け、深く吸い込みゆっくりと吐き出すと、立ち所に白い靄が掛かる。
「ガチャ!」
Tは、突然の入室者に一瞬背筋が凍りついたが、その人物を見て冷静さを取り戻す。
「こんな時間まで起きとったん?」とその人物に問いただす。