「これ…本当にバーチャル空間なんだよね?」
菊地あやかは、森の中、生い茂る木々がちょうどぽっかりと空いた空間に、立っていた。
カサカサッ
試しに自分の近くの茂みに触れてみる。
どう考えても、本物の葉の感触だ。
「あ、そうだそうだ、能力能力っと。」
最先端の技術に驚きながら、菊地は自分の左手首に巻かれた、見知らぬ機械に触れる。
ブワン
文字盤の右、1番上のボタンを押すと、文字盤の上に半透明の板のようなものが浮かび上がった。
「すごーい。未来みたーい。」
見たところ、そこに映し出されたのは地図のようだった。
赤く点滅している箇所がどうやら自分の現在地のようだ。
「ん?あぁ、
エムエーピーって、マップのことか!
えっと、私がいるのがこの森で~
こっちが山で、こっちが海。
ひぇー、草原や砂漠まであるのかー。
ん、こっちは町かー。
ご飯食べる所とかあるかなー。
あっ」
菊地は能力を確かめようとしていたことを思い出した。
地図の確認はそのあとでもいいはずだ。
ブワン
次に文字盤の右の、3つある内の真ん中のボタンを押した。
すると、浮かび上がった画面に表示されたのは、文字だった。
『残り48名』
『アンダーガールズまで、残り27人撃破してください。』
『選抜まで、残り36人撃破してください。』
岩佐美咲 秋元才加 石田晴香
多田愛佳 板野友美 河西智美
…
そこには3つの文と、メンバー全員の名前がチーム別3行で書いてあった。
「うーん、能力は…
ここでもないのか…。」
真ん中のボタンにはSTATEという、「状態」を示す単語が添えられていたのだが、菊地にその意味はわからない。
「じゃあ…これ?」
ブワン
最後に文字盤の右の、1番下のボタンを押した。
そこはABILITY、「能力」を表示するボタンだ。
浮かんだ文章を読み、菊地は頬にえくぼを作る。
「ふふふ、確かにこれは私にぴったりな能力かも。」
菊地は試しがてら能力を発動させ、使用してみる。
自分に近い木が音を立てて倒れていく。
「これなら…もしかして私がセンターに…?」
菊地の頬に、えくぼが先程より一層深く、刻まれた。
シュッシュッ
同じく森の、西端に着いた者、片山陽加は木々の間を進んでいた。
「こりゃいいわ。」
片山は通常では考えられないほどの早さで、移動していた。
能力に起因するのだろう。
「悪いーけど、わたーしは、純情主義ー」
片山は自身の所属するユニットの曲を軽快に口ずさむ。
そんな彼女は、全メンバーで一番最初に他のメンバーと遭遇することになる。
「なーんとなく筋肉系か、これ系かと思ったけど、こっちだったか…。」
複雑な顔をし、才加は呟く。
才加の能力は【漆黒の狂戦士】。
秋元才加と言えば、真っ先に頭に思い浮かぶ、あの動物を召喚し、操る能力だ。
ウホッ
ウホホッ
黒い動物たちが才加を見つめ、まるで指示を待っているかのように取り囲む。
「ハァー」
才加は溜息をついた。
すると、周りの動物たちがあたふたとし始める。
「あぁごめんごめん、
いいよ、わかった。
決心ついた。」
才加は猛る。
叫ぶ。
高らかに。
宣言するかのように。
「よっしゃあ!!
私はこの能力でセンターを獲る!
ボス猿ナメんな、こら!!」
本当はボス猿ではなくボスゴリラなのだが、この際細かい指摘はやめておこう。
野暮な指摘は躊躇されるくらい、才加の目はギラギラと輝いていた。
一方、南端の砂浜に近い、海の浅瀬。
そこには松原夏海がいた。
否、泳いでいた。
能力を試すべく。
「へー、説明にあった通りだ。
これって…ある意味最強?」
松原も微笑む。
経歴を読み取り、この力が付いたと言うのならば、今までの自分が間違っていなかったと言われているようで嬉しかった。
そしてその能力は上位攻略の可能性を秘めていた。
AKB48きってのペテン師は、今日もペテンを考える。
選抜常連組を、引きずり落とすべく。
また一方、市街地のとある民家の中。
部屋のタンスにあったジャージに着替え、ドライヤーを使って髪を乾かす北原がそこにいた。
「なんで田んぼのど真ん中スタートなんだよ…。」
北原は田んぼに転送された。
そして見晴らしがよすぎる田んぼにいては危険だと判断し、移動し始めた。
田んぼの四方を囲むは、用水路。
不運な北原は、その用水路の縁に足を引っ掛けてしまい、大きな水しぶきを発生させる羽目になったのだった。
「皆なーにしてるんだろ…。
髪乾かしてるのは私だけなんだろうな…。」
慣れているかのように、ネガティブな表情を見せる北原。
「いけないいけない!
今回はポジティブに頑張るって決めたんだから!」
北原は気を引き締めた。
そして、髪を乾かす作業に集中し始めた。
砂漠地帯で能力を確かめ終わったとあるメンバーは、ぼやいていた。
「経歴を読み取って能力が決まる…。
それで、私の能力はこれ…。
何だよそれ…。
嫌味かよー!!」
「ううん、
でもこれ、めちゃくちゃ使い勝手いい…と思うし。」
砂漠にいるこの者は、試しに能力を使用しようとした。
しかし、この環境で使用しても、効果はわかりづらい。
「よーし、まずは誰か探すとしますかー。」
かくして、このメンバーは実験台を探すべく、砂漠を歩き始めた。
砂漠の砂に足をとられ、不機嫌そうに一言を呟きながら。
「…チユウ。」