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小説『AKB48バトル選抜β』

『AKB48バトル選抜β』という小説を書かせていただいています。実は同じような小説を書かれている方を拝見し、インスピレーションを刺激されて、この小説が生まれました。「β」を冠しているのは、その方へのリスペクトを込めさせていただきました。


扉を開けてみたはいいものの、暗くて北原は辺りがよく見えない。

数名の、小柄な人影が確認できるだけだ。


すると、いつの間にか北原より前に回り込んでいた指原が、口を開く。

「すみませーん、
スタッフの方ですかー?」

「あぁ、そうだよ。」


変な話し方だな、と思いつつ指原は続ける。


「おはようございます!
チームAの指原莉乃です!

早めに着いちゃったんですけど、どこにいたらいいですかね?」


「適当に待っててくれ」


「え、あ、そうですか、
適当に、ですか…。」


数秒の沈黙。

それを別の人影が我慢できず吹き出すことで、破った。


「ぶっ、
おーい指原、気付けよー。」


「ん?その声…?

優子ちゃん…?」


「だーかーらー、声で気付けよー。

今話してたの、秋元先生だぞ?」


「え…?
あ…、え!?」

よく見るとこちらに背を向けていた人物は周りと比べて身体が大きい。


「別にいいよ、優子。
俺もスタッフの1人には変わりない。」


指原はあわてて謝ろうとする。

何を謝るべきなのか、はよくわからないが、とりあえず謝っておこうと思う。
相手はあの秋元先生だ。


「いやそんな、すみま」
「秋元先生ー、おはようございますー。」

「あぁ、おはよう、小森。」


指原の謝罪にかぶせるように挨拶をする小森。

「ちょ、小森…!
今私が秋元先生と話し」

バチッ

今度は指原の言葉に完全にかぶるタイミングで、点いていなかった電灯に光が点った。

一同の目は一斉に周囲を見渡す形になる。


そして壁ぎわに目をやると、前田敦子が電灯のスイッチから手を離すところだった。


「あぁ前田、ありがとう。」


秋元のお礼に、敦子は言葉は発さずにただ頷くことで応える。


秋元のお礼が耳に入ると同時に、北原たち4人の目に見えてきたもの。

それは、学校の教室2つ分ほどの広さの部屋一面に置かれた、大量の機材であった。

その全てが同じ、卵のような形をしており、上方前面に穴が空いていた。

どうやらそこが乗り込み口になっているらしい。


「まだ機材には触れるなよ。
壁ぎわに椅子を用意しておいたから。そこに座って待っててくれ。

指原たちも、早く来てもらっていた優子たちも、だ。」


「はーい。」
「はーい、わかりましたー。」

小嶋陽菜と高城がほぼ同時に返答をした。

小嶋の声がしたことに気付き、北原が改めて周囲を見渡すと、秋元の周りにいたのは8人。

前田敦子
大島優子
柏木由紀
篠田麻里子
渡辺麻友
小嶋陽菜
高橋みなみ
板野友美

俗に呼ばれていた名称を用いるのであれば、「神7」に柏木を加えた8人だ。

しかしその枠組みは、第3回選抜総選挙で崩れた。

柏木が3位まで食い込んだ今、彼女らを何て呼んだらよいのだろう。
「神8」なのだろうか、と北原は明後日の方向に思考を回していた。


すると、最後尾に立っていた高城の後ろから続々とメンバーが入ってきた。


「うわ、すごいなー、
皆見てみ!」

「本当だ!すげー!!」

「へー。」

「おー、本当だ。
こりゃ燃えるねぇ。」

入ってきたのは増田有華、宮澤佐江、梅田彩佳、秋元才加。
DiVAの面々だ。

事前に打ち合わせでもしてきたのだろうか、4人一緒の登場だ。


さらに、その後ろから別のメンバーが顔を見せる。


「こんな感じなのかー。
うーん、作戦に若干の変更が必要かな…。」

「え、みぃちゃん、作戦なんて立ててるの!?」

「そりゃ立てるでしょー。
こういうのは勝ち上がってこそ、だって。
なっちゃんはどう臨むつもりなのさ。」

「そりゃいつも通り、『頑張りなっちゃーん!』って感じで…。」

「えーと、うん、ごめん。
何でもない。」

「?」


来たのは峯岸みなみ、平嶋夏海。
いずれも黎明期からのメンバーだ。

同じオリジナルメンバーである前田敦子、小嶋陽菜、高橋みなみ、板野友美、といった面々には人気、知名度、共に劣るかも知れない。

だがAKB48がまだ単なる「アキバ系イロモノアイドル」だった頃からAKB48を支え続けた地力は、決して侮れるものではない。

実力者であると言って構わないだろう。


その後も続々とAKB48のメンバーが会場に足を踏み入れ、最後に河西智美が到着したとき。

ついに秋元がマイクで話し始めた。

「皆、おはよう。
朝早くから集まってくれて、ありがとう。

それでは早速、

ルールを説明しようか。」


ここは国内有数の電機都市、秋葉原。

世間がその認識に新たな認識を加え、数年が過ぎた、というのがこの都市への最新の認識として正しいだろう。


新たな認識とは、アニメ、アイドル、いわゆる「オタク文化」の聖地である、ということ。

その新たな認識の象徴たる存在、AKB48。
自身の名に秋葉原という土地名を冠するグループ。


そのメンバーの1人である北原里英は、駅から会場までの道をとぼとぼと歩いていた。

(はぁ…。ついにこの日が来ちゃった…。

まだ実感がわかないなぁ…。皆と戦う、なんて。)

(第一、どう戦ったらいいんだろう。
殴られたりするのかなぁ。痛いのは嫌だなぁ。)

北原はそんなネガティブなことを、やんわりと考えていた。

本来は「やんわりと」だなんて、考えている場合ではないのかも知れない。

真剣に考え抜いて考え抜いて、しかるべきかも知れない。

しかし人間の大多数は、突然な緊急事態にすぐさましっかりと対策をする、だなんて困難だ。

北原はそんな「対策できなかった」大多数の内の1人だった。


そこに、北原とは違う者が現れた。

「りえちゃーん!」

「あ、さっしー。」

「ついにこの日が来ちゃったね…。
どうしようね…どうしよう…
どうしようどうしようどうしよう…」

「さっしー、落ち着いて。」

北原はそんな指原を見て、少し気分が落ち着いたことに気付いた。

「あ、でも指原、対策を考えてきたんだよ!
教えてあげようか!
これさえわかっていれば、大丈夫!!」

「…なに?」

「強そうな人とは戦わない!!弱そうな人とだけ、戦う!!それだけ!!」

北原の嫌な予感が当たった。

彼女は確かに北原とは違う。
違うのだが、「対策しようとはしたのだが、内容がめちゃくちゃ」というパターンだった。


「…さっしー。

前半はわかるよ。優子ちゃんとか、才加ちゃんとか。その辺りと積極的に戦いたいとは、私も思わない。」

「でも、私たちより弱そうな子って誰がいるの?」

「えっと…あれ?
先輩には強そうな人しかいないし…後輩も皆すごい子たちばっかり…
あれ…?
りえちゃん!どうしよう!!」

はぁ、と北原はため息をついた。

この感じ。
いつもと何ら変わりない。まさに指原だった。


すると、ため息を受けて焦ったかのように、指原が話し出した。

いや、本当に焦ったのかも知れない。
指原の気はそんなにも小さい。

「そうだ!小森とか!
あの子、いつもぼーっとしてるから、きっとたいしたことな」

「さっしー。」

「え、あっ!!小森!!」

「聞こえてます。」

「え…えっと…」

「北原さんと合流した辺りから、ずっと後ろにいました。」

「ずっとかよ!!怖いよ!声かけてきてよ!」

「だって後ろから聞いてたら、面白そうだったから。」

「あ、ちなみにさっしーが勝負しかけてきたら私、返り討ちにしますね。」

「…すみませんでした。
勝負しかけたりしないんで、見逃してください。」

「はは、やっぱさっしーは面白いなぁ。」


そんな小森は「別に対策なんてごちゃごちゃ考えなくても、どうにかなると思っている」一人。

これこれこうだから、という理由付けはない。

ただ漠然と、どうにかなると信じる。
あとは努力を重ね、それを現実にすればいい。

それが小森美果の考え方だった。

いや、もしかすると、ただ考えるという行為が苦手なだけかも知れないが。


「皆、おはよー。」

そこに高城亜樹が現われた。

「あ、あきちゃ!おはよう!」

「高城さん、聞いてくださいよー。
さっしーに、小森になら勝てるって、喧嘩売られたんですけどー。」

「うーん、そうしたら小森、さっしーを倒し返しちゃえばいいんじゃない?」

「ちょっとー!
あきちゃまで何てこと言ってるのー!!」

指原は、そこで自分をじっと見つめる小森に気付く。

「小森さん…?
あ…えと、本当にすみませんでした。
勝負しかけたりしないんで…本当に勘弁してください」


「うーん、まいっか。
許してあげます。」

「小森ー!ありがとうー!!
やっぱ小森は最高だよー!!」

そう叫びながら、指原は小森に抱きついた。

許してくれたことに、心の底から感謝しているのだろう。


「そういえば、あきちゃは何か、対策とか考えてるの?」

さっきから余裕すら感じさせる高城の態度に疑問を覚えた北原は、ふと尋ねてみた。

「え、別に考えてないよ。」


固まる北原にかわり、指原が口を挟む。

「え?いやいや、多少は考えるでしょ?作戦とかさ!」

「あきちゃ、そういう難しいこと、よくわかんなーい。」


高城は本能で戦うタイプであった。
対策がどうだとか、「よくわかんなーい」のだ。

(でもこの感じの積み重ねで、総選挙じゃメディア選抜まで上り詰めてるんだよなぁ。
やっぱりあきちゃはすごい…。)



そうこうしている内に一同は会場に着いた。

だいぶ早めに着いてしまったが大丈夫だろうか、と北原は心配を胸に抱きつつ、扉に手をかける。

開いた。

そしてその扉の向こうには、数名の影が見えた。


いよいよ、バトルが始まろうとしていた。


AKB48。

個人の名前は知らないまでも、そのグループの名すら聞いたことがない、という者は、もう日本国内にはいないだろう。
そこまで言わせる勢いが彼女たちにはある。


時はアイドル戦国時代の真っ只中。
そんな中、彼女たちがその頂点にまで上り詰めた理由とは何だろう。

その理由の一つとしては、エンタテインメント性の高さが挙げられる。


同じグループ内にチームを作り、そのチーム同士を切磋琢磨させる。

チームの結束力が高まれば、チームを解体し、新チームを発足させる。

総選挙と銘打つ人気投票を実施し、その順位に基づいたメンバーにのみ、新曲を歌わせる。

はたまた無名のメンバーにチャンスを与えるべくじゃんけん大会を実施し、その結果を新曲を歌う序列に反映させる。


希代の名プロデューサー、秋元康が次に仕掛ける企画はどのようなものだろうか。

とある者はインターネットの掲示板上で名前も知らない誰かと議論を交わし、

とある週刊誌はあれやこれやと予想を紙面に掲載する。


そんなある日のことだ。


「先生、そういえばこの前、AKB48が題材の創作小説のようなものがネットで話題になっているのを見つけまして。
読んだらものすごく面白かったんですよ。」

会議の最中、議論が煮詰まってきたことを見計らうようにして、戸賀崎は秋元に向けて話し出した。


「ほう、どんなものだった。」

「えー、メンバーを仮想空間に飛ばし、与えた能力で戦わせるんです。
仮想空間内で体力が無くなればゲームオーバーになります。」


「それで。」

「そのようにして生き残ったメンバーを、次のシングルの選抜メンバーとするんです。
そこではAKB48、バトル選抜と題されていました。」


戸賀崎は一息で話をした。

秋元は他人がもったいぶった話し方をすることを、あまり好まない。
そのことを知っているからだ。


しばしの沈黙のあと。
戸賀崎は、秋元がどのような反応を示しているのかを目だけで確かめる。


秋元は、一切の体の動きを殺し、沈黙していた。
もの言わぬ銅像のように。


しかし戸賀崎はしまった、とは思わなかったし、慌てる雰囲気も微塵も漂わせない。
秋元の反応を待つ。

戸賀崎は秋元康という男を近くで見てきた。

彼が黙るときは何かを考えているとき。
そして、何か途方もないことを言い出すときだ。


「それ、実現させたら面白いと思うか。」


戸賀崎は一瞬目を見開き、口を開く。
たった一言を、発するために。


「はい。」


秋元はそんな戸賀崎の反応を見て一瞬、誰にもわからない程度、眉を上げた。
そして誰にもわからない程度、口角を上げた。

「ゲーム業界、コンピュータ業界、脳科学の専門家。
手当たり次第にだ。
実現させるために必要な人材を集めてくれ。」

「期限は。いつ実施を目指しますか。」


「秋だ。今年のな。」


今は夏の終わり。
ようやく夏の全国ツアーに幕を降ろそうとしている所だ。
息を飲む戸賀崎に、秋元は尋ねる。


「厳しいか。」


「あなたが秋だと言うのなら、秋に開催する。
そのために私がいるのです。」


かくして、後世に「アイドル史上最高に盛り上がった」と語られることになるイベントは、胎動を始めた。
戦いの火蓋が切られる日は近い。


さぁ、

PARTYが始まるよ。