扉を開けてみたはいいものの、暗くて北原は辺りがよく見えない。
数名の、小柄な人影が確認できるだけだ。
すると、いつの間にか北原より前に回り込んでいた指原が、口を開く。
「すみませーん、
スタッフの方ですかー?」
「あぁ、そうだよ。」
変な話し方だな、と思いつつ指原は続ける。
「おはようございます!
チームAの指原莉乃です!
早めに着いちゃったんですけど、どこにいたらいいですかね?」
「適当に待っててくれ」
「え、あ、そうですか、
適当に、ですか…。」
数秒の沈黙。
それを別の人影が我慢できず吹き出すことで、破った。
「ぶっ、
おーい指原、気付けよー。」
「ん?その声…?
優子ちゃん…?」
「だーかーらー、声で気付けよー。
今話してたの、秋元先生だぞ?」
「え…?
あ…、え!?」
よく見るとこちらに背を向けていた人物は周りと比べて身体が大きい。
「別にいいよ、優子。
俺もスタッフの1人には変わりない。」
指原はあわてて謝ろうとする。
何を謝るべきなのか、はよくわからないが、とりあえず謝っておこうと思う。
相手はあの秋元先生だ。
「いやそんな、すみま」
「秋元先生ー、おはようございますー。」
「あぁ、おはよう、小森。」
指原の謝罪にかぶせるように挨拶をする小森。
「ちょ、小森…!
今私が秋元先生と話し」
バチッ
今度は指原の言葉に完全にかぶるタイミングで、点いていなかった電灯に光が点った。
一同の目は一斉に周囲を見渡す形になる。
そして壁ぎわに目をやると、前田敦子が電灯のスイッチから手を離すところだった。
「あぁ前田、ありがとう。」
秋元のお礼に、敦子は言葉は発さずにただ頷くことで応える。
秋元のお礼が耳に入ると同時に、北原たち4人の目に見えてきたもの。
それは、学校の教室2つ分ほどの広さの部屋一面に置かれた、大量の機材であった。
その全てが同じ、卵のような形をしており、上方前面に穴が空いていた。
どうやらそこが乗り込み口になっているらしい。
「まだ機材には触れるなよ。
壁ぎわに椅子を用意しておいたから。そこに座って待っててくれ。
指原たちも、早く来てもらっていた優子たちも、だ。」
「はーい。」
「はーい、わかりましたー。」
小嶋陽菜と高城がほぼ同時に返答をした。
小嶋の声がしたことに気付き、北原が改めて周囲を見渡すと、秋元の周りにいたのは8人。
前田敦子
大島優子
柏木由紀
篠田麻里子
渡辺麻友
小嶋陽菜
高橋みなみ
板野友美
俗に呼ばれていた名称を用いるのであれば、「神7」に柏木を加えた8人だ。
しかしその枠組みは、第3回選抜総選挙で崩れた。
柏木が3位まで食い込んだ今、彼女らを何て呼んだらよいのだろう。
「神8」なのだろうか、と北原は明後日の方向に思考を回していた。
すると、最後尾に立っていた高城の後ろから続々とメンバーが入ってきた。
「うわ、すごいなー、
皆見てみ!」
「本当だ!すげー!!」
「へー。」
「おー、本当だ。
こりゃ燃えるねぇ。」
入ってきたのは増田有華、宮澤佐江、梅田彩佳、秋元才加。
DiVAの面々だ。
事前に打ち合わせでもしてきたのだろうか、4人一緒の登場だ。
さらに、その後ろから別のメンバーが顔を見せる。
「こんな感じなのかー。
うーん、作戦に若干の変更が必要かな…。」
「え、みぃちゃん、作戦なんて立ててるの!?」
「そりゃ立てるでしょー。
こういうのは勝ち上がってこそ、だって。
なっちゃんはどう臨むつもりなのさ。」
「そりゃいつも通り、『頑張りなっちゃーん!』って感じで…。」
「えーと、うん、ごめん。
何でもない。」
「?」
来たのは峯岸みなみ、平嶋夏海。
いずれも黎明期からのメンバーだ。
同じオリジナルメンバーである前田敦子、小嶋陽菜、高橋みなみ、板野友美、といった面々には人気、知名度、共に劣るかも知れない。
だがAKB48がまだ単なる「アキバ系イロモノアイドル」だった頃からAKB48を支え続けた地力は、決して侮れるものではない。
実力者であると言って構わないだろう。
その後も続々とAKB48のメンバーが会場に足を踏み入れ、最後に河西智美が到着したとき。
ついに秋元がマイクで話し始めた。
「皆、おはよう。
朝早くから集まってくれて、ありがとう。
それでは早速、
ルールを説明しようか。」