車椅子に乗っている理沙を見て全く普通の客と同様に扱う女性、
「えっと～～。はい、ヤブさん。あんた、向かいの方、行っとくれ。」
言われた男性、
「おっ、おぅ～～。」
男性、立ち上がり向かいの席に。
女性、今度は、
「ほれ、あんた。」
将輝に、
「車椅子、こっちに。」
将輝、
「あ、あ～～。はい。」
理沙は、キョトンとして。
女性、椅子をできるだけテーブルの下、
奥に入れて車椅子のスペースを作って将輝に指示する。
そして将輝の両脇を両手で、
「はい、あんたはここ。」
理沙の隣、壁側に。
将輝、
「あっ、あ～～。はい。」
和奏は始終笑顔で。そして、
「おばちゃん、ありがと。」
そんな和奏に女性、右手を招き猫のように、
「何言ってんだい。久しぶりに来たってのに。栞奈ちゃん、元気かい。」
和奏、その声に、
「えぇ、相変わらず。」
「そぅかい。うんうん、空手、やってんだもんねぇ～～。」
「あっ、おばちゃん、私、いつもの…。この子たちも、それで。」
その声に女性、
「あぃよ～～。」
そして厨房に、
「チャーシュー３つ～～。」
理沙、
「チャーシュー…???」
そして理沙、
「お姉ぇの事…???」
理沙に和奏、
「ふふ。」
将輝は始終ポカ～～ンとして。
和奏、腕組みをして、
「まずは、お楽しみに。」
客が、
「ごちそうさま～～。」
そして立ち上がり玄関に。
するとまた次の客が…。工事現場の労働者だろう、作業着を着ている、
「チャーシュー２つねぇ～～。」
女性、
「あいよ～～。」
１０分後、女性が和奏たちのテーブルに、
「は～～い、お待たせ～～。」
どんぶりの中身を見た瞬間、理沙、
「凄～～い、チャーシュー、肉厚～～。」
将輝も、
「凄ぇや、これ。」
和奏、ニッコリと、
「…けど、チャーシューのみに、非ず。さっ、食べてみて。」
白いユニホームと三角巾の女性もニッコリと。
「理沙ちゃん、おっきくなったね～～。」
その声に理沙、
「えっ…???」
女性を見て。そして母親を見て。
和奏、ニッコリと、
「はは、良いから、うん。食べて。」
将輝、
「いただきま～～す。」
理沙も、
「いただきま～～す。」
そして、ふたり共に、一口食べて…。思い切り目を真ん丸に。
そして口を噤んで、お互いに顔を見合わせて。
「うまっ。」
「おいっしぃ～～。」
和奏、
「ふふん。ねね、スープ、飲んでみて。」
その声に将輝、
「あ、はい。」
理沙、
「うん。」
そしてレンゲで一口。理沙、いきなり、
「何これ…???…ラーメンって、こんなに美味しかった…???」
将輝を見て。
将輝、スープを啜りながら、
「いやいや。これ、マジかよ。」
女性、和奏を見ながらニッコリと。
和奏、厨房を見て、
「おじちゃん、子供たち、美味しいってぇ～～。」
厨房から顔を覗かせた男性、
「おぅ。あんがとよ。」
そして男性、
「和奏～～。蒼介。元気かぁ～～。近頃、全然顔見せねぇから…。」
理沙、母親に、
「おかあさん…、ここって…???」
女性、
「まっ、無理もないねぇ～～。理沙ちゃん、こんな、小っちゃかったから。」
和奏、
「理沙が、５歳くらいだったかな～～。何度か、ここに連れてきたけど…。ちょっと家からは、距離的に。…でも、おとうさんとおかあさんの職場からは、近いのよ～～。」
将輝、
「おじさんと、おばさんの…職場…???あっ、検察庁と法律事務所。」
和奏、ニッコリと、
「うん。おとうさんの検察庁がここから近いの。」
そして和奏、傍で立っている女性の腰に腕を回して、
「このおばちゃん、七窪三津葉(ななくぼみつば)さん。」
そして厨房の方を見て、
「そして、ここの店主、中のおじちゃんが、七窪拓郎(ななくぼたくろう)さん。」
その声に三津葉、
「何言ってんだい、もぅ、おばあちゃんだよ～～。何歳になったと思ってんだい。７０半ばだよ～～。かかかか。」
このラーメン屋。確かに、武蔵野市検察庁の近くにある。
僅かに離れてはいるが、和奏の所属している貫地谷(かんじや)法律事務所も周辺に立地している。
そしてこのラーメン屋、実は蒼介が事務官になり立ての頃、
仕事に失敗して落ち込んでいた時に、検事から連れてきてもらったラーメン屋。
一口食べて、一発で気に入り、常連になったのだった。
和奏と付き合い始めて２年目の頃である。
信じて…良かった。 vol.118. そして厨房に、「チャーシュー３つ～～。」
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庄司紗千「おふろ月夜」
※ご本人の承認の下、紹介させて頂いております。
