そんな父親の声に奈都美、思いっきり仏頂面で…。
奈留美、夫を睨みつけて、
「な~~に、火に油注いでんのよ~~。…ったく~~。」
広武、
「いやいやいや。…だって…。」
「大凡、付き合ってる人と…喧嘩か何か…、したんじゃないの。…でなかったら…そうねぇ~~。他にいい人…が、出来たとか…。」
淡々と言う奈留美。
奈都美、箸を持っていた手を止めて。
そして両腕をピンと伸ばして両手を両太ももに。
そしてまた涙が…、
「うっ。うっ。」
広武、
「ナツ…おま…。」
奈留美、
「…図星か…。…翔君…って子…???」
母親のその声に奈都美、体を震わせながら、頭をコクリと…。
広武、口を尖らせて…。
「あらら。マジで、その人に…、誰か…他の…???」
妻の顔を見て広武。
奈留美、目を真ん丸く頭を傾げて…。
広武、腕組んで…、
「まぁ~~~、泣くだけ、泣け。…そんでもって…。なんだ。…うん。泣き明かした後には…、何か…、見つけてんじゃ…ないかぁ…。」
そしてニッコリと。
その話に奈留美、困ったような顔をして、
「とうさん。…やれやれ…。そんな…昔の歌の歌詞のような…。まっ、確かに…昔、バンド…組んでたけど…。…でも、まっ、説得力…、ない訳…じゃあ…ないよね。」
奈都美、涙を流しながら、
「ふたりしてバカにして~~。」
いきなり椅子から立ち上がる。
奈留美、
「ナツ~~。古今東西、恋だの、愛だの、大概、そんなもんよ~~。」
奈都美、ぶすっと、
「何よ。」
「結局は、そのまま、ベッドに行って、そのまま泣きながら…寝ちゃうって…。…で、目が覚めれば、何かしなきゃなんない。思い出す、好きな人の顔…。けど…現実は…。」
奈都美、
「……。」
「元のままに戻りたい。けど…、時と場合によっちゃあ、戻れない場合もある。…でも、万が一にも、戻れる場合もある。…なんだけど~~。そんな時の自分が嫌いか好きか、そこでまた悩む。」
そんな妻の話を聞きながら広武。キョトンとしながら…。
「でも…、かあさん、思うんだけど…。そんな時さ。一番身近で自分を支えてくれた人…。自分で気づくもんだと…思うよ。」
奈都美、
「……。」
「今は…、辛いって…。どうしたって…、辛いんだよ。…仕方ないんだよ。」
広武、
「ふん。」
「だから…、泣きたいだけ。泣いちゃいなって。」
そして、
「あんた、会社の事は…私やとうさんには一切、話さないじゃん。…でも、それはそれで良いと、かあさんもとうさんも思ってる、そして感じてる。…あんたが話してくれない分、剛ちゃんから情報は…入ってくるから…。」
その話に広武、小さな声で、
「はは。」
「奈都美の周りには、いい友達ばかり~~だって。だから、いっつも安心できるんじゃん。」
奈都美、静かに、
「ごちそうさま。」
奈留美、
「うん。ぐっすり休みな。…ニシ…。枕…濡らして…。」
そんな母親に奈都美、
「べぇ~~~。」
そしてゆっくりと2階に…。
広武、2階に向かう奈都美に、
「あいつ…。大丈夫かな~~???」
そんな夫に奈留美、
「な~~に言ってんのよ~~。とうさんと私の娘よ~~。」
以前、27年前に、奈留美と広武にも、今の奈都美と同じような状況があった。
けれども、それを取り成したのが、八神剛輔だった。
広武、
「あんときな~~。」
奈留美、
「うん。私、全くとうさんの事、鼻にも掛けてなかったよね~~。」
広武、口をへの字にして、
「んなっ。」
「かっかかかか。剛ちゃんに言われなきゃ、全く気が付かなかったもん。いやいやいや。剛ちゃん、さすがだわ~~。」
広武、
「あぁ…、剛さん…いなきゃ、今の俺たち…ねぇもんなぁ~~。」
奈留美、
「全く。」
奈都美、背中からベッドに。そしてスマホを見て、最初に翔。
…けれども、また潤む目。
そして…自然に…、ひとりの履歴…。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
《PR》
庄司紗千 海をこえて
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。