永遠の途中 -9ページ目

タメイキ

それから2週間以上が経ったけれど、朝、彼の姿を見る事は無かった。


そんな現実に何だか切なくなり

あたしは、曇り空を見上げ

その隙間から 太陽の光を探し求めた。


あの一筋の光は、どこへいってしまったのだろう?





自販機の横のベンチに座りながら

あたしは小さなため息を一つ零した。

それはもう、白く変わることも無く 静かに消えて行き、 

それを見て、季節が廻り回った事を改めて知らされた。

 

これで、もう何回目だろう。いい加減自分でも嫌になる。

・・・だけど、落ち込まずにはいられない。


「いやぁーでも・・・ほら、きっと、人違いかもよ??」

隣では、ナオがあたしを肩をポンポンと叩く。

「・・・だって。絶対あたししかいないもん。絶対あたしのことだもん。」


あたしは俯き、飲み終わったジュースの空き缶をペコペコ潰しながら呟いた。

缶がへこむ度に、自分も一緒にへこんでいくような気分だ。


「えーと、ちょっと冗談のつもりで言ってたとか・・・ね」

「・・・冗談で逃げる?電車変える?」

「・・・しないよね」

「でしょ・・・」


潰したり戻したりを繰り返した空き缶は、何だか表面がボコボコして傷だらけだ。

どうして、元に戻らないんだろう。

あの滑らかな曲線はどこへ消えたのだろう。

ふと、いつも彼が腕にはめていた時計を思い出した。

シルバーの縁取りの、優しい曲線で描かれた、それを。



「ま、実優、気にすることないって。ストーカー呼ばわりされたくらいで、ねぇ」

「・・・そうそう居ないと思うよ、そんな子」

「うん、まぁ確かに」

曖昧にナオが頷き、沈黙が流れる。



――彼に関する、色んな話をクラスメイトから聞き出したのはつい先日の事。

最初は 他愛も無い情報でも、

彼の学校生活を垣間見る(聞く)事ができた、と喜んでいた。


じゃあ本題、なぜ最近電車に乗っていないのか。

電車を1本遅らせれば、遅刻ギリギリの時間になるはずだ。

走ってまで電車を変えた理由とは。


「なんかねー、彼、オカダくん?今変な子に付きまとわれてるみたいよ」

と、結託無く教えてくれたのは

西高に彼氏がいる、というメグミちゃんだった。


「へんなこ・・・?」

「そうそう!ストーカーみたいに。それで時間変えたらしいよ~」

「ストーカー・・・??」

「うん。まぁ聞いた話だけどねー。よくは知らないけど。

なぁに、実優ちゃんそのオカダくんて人と知り合いなの?」

「・・・・・・いや、別に?」

あたしは精一杯の愛想笑いをして見せた。


・・・たぶん。

いや、きっと。それはあたし以外考えられない・・・だろう。

だって、同じ学校の子だったら電車の時間を変えたって意味ないし

彼が、他の女の子と仲良くしているような雰囲気は

あたしが見る限り、無いように思えた。




メグミちゃんが去った後、

すぐ隣で一部始終を聞いていたナオと、連れ立ってこのベンチまでやって来たのだ。


あたしは、彼の気持ちを、考えていなかったのだろうか。

いつも駅で待っていたから?

いつも話しかけたから?

手紙を渡すのに、追いかけたから?


そこまで迷惑な事、だったなんて思わなかった。

ただ、近づきたくて。

ただ、気持ちを伝えたかっただけなのに・・・。




あたしはまた、小さなため息をついた。



理由


「でも、ひどくない?なんで急に?あからさま過ぎじゃない?」


切符点検に回ってきた車掌さんに定期を見せながら、

マイちゃんはぶつぶつ文句を言った。

「つまりは・・・脈なしってコトじゃない・・・」

あたしはどんよりと曇りながら答える。


「だって、駅で会ったら色々話をしましょうって言ってきたのは向こうじゃない。

なのに避けるなんて。言ってることとやってること、違うじゃん」




確かに・・・


彼はあたしに気が付いていた。

だって、一瞬だけどしっかり目が合った。

気がついた上で、逃げるように人込みに紛れていった。

多分 いつもとは違う、人通りの少ない階段を選んだ事だって

絶対、何か関係あるはずだ。



ローカル線が、終点でもある地元の駅に着いた。

心なしか 窓ガラス越しに見える 晴れ渡った青空が、

少し曇って見えた。







次の日も、彼は電車に乗っていなかった。

前まで一緒に通っていた友達は、いつも通りそこに居たのに。


「何かへこむ・・・」

溜め息をつきながら、あたしは机にうつぶせた。


「ね、実優。あの子西高に彼氏がいるんだって」

前の席に座ったナオが、あたしに囁いて来る。

「西高か~いいなぁ・・・」

ぼんやりとあたしは呟いた。

もう西高というだけで、どこか羨ましい気さえした。


「じゃなくてさ、聞いてみたら?あの人のこと」

ナオの言葉に、あたしはハッと、顔を上げた。 




そうだ。



へこんでたってしょうがない。


気になることがあるなら

調べればいいんだ。


彼


いつも利用している駅はホームが短く、

最大4両編成の列車がちょこんと納まり、少しだけ両端が余るくらいの長さだ。

ホームの真ん中辺りに、改札へと続く階段がある。

階段は西と東、どちらからでも上り下りができるようになっている。


いつも、西側の階段からホームに上がると、

その近くのベンチに座ったり、

階段の壁にもたれたりしながら電車を待つのだけれど


その日あたしとマイちゃんは、いつもの西側のベンチではなく

東側の、階段近くにあるベンチに座って電車を待っていた。


というのも、西側はいつも人で溢れていたため、

単に人気の少ない場所に居たいだけだった。

こちら側が人気が少ないのは、電車の昇降口から少し離れているからだろう。



列車到着時刻が近づくにつれ、ホームは人で覆い尽くされていく。


マイちゃんは念入りにヘアスタイルを直している。

あたしは、ケータイを意味もなくスクロールさせていた。


人の気配を感じ、何気なく階段の方に目をやると

ちょうど今、ホームに上ってきたのであろう 

岡田くんの姿が目に入った。



あたしは目を見張った。


ケータイを持っていた手は急に冷たくなり、

握り締めている感覚も分からない。


あの日以来、顔を合わすのは初めてだった。

まさか今日、この場所で会えるなんて思いもしなかった。

ドクドク心臓が騒ぎ出す。

繰り返す呼吸が、ひどく不自然だ。



彼は、少し遅れてあたしに気がつくと、

瞬間、視線を逸らし

踵を返して、人込みへと消えていった。





―――会えないのは、避けられているから、かもしれない。


彼の姿を、朝見なくなってから 何度となく頭を過ぎった事。


それでも、

もしかしたら忙しいのかもしれない。

遅刻しているのかもしれない。

休みなのかもしれない。

そうやって、気がつかない振りをしていた。



だけど実際

彼の態度が、一番現実を語っている様な気がした。



コトコト、と線路が軋む音が響き

小さく 電車が向ってくるのが見えた。