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3年前の自分に会えたら、俺はイキガッテいる俺にあのバーには行くなと
きつく命令するだろう。
あそこに行ったから。そしてあの女の瞳と美脚に釘付けになったから。
メルアドを聞かれていい気になって答えたから。抱けるものなら抱きたいと思ったから。
そして抱いたあの日に、女の抱き心地のよさにのめりこんだから。
思いつく限りの理由に たくさんの言い訳を巻き付けて 海底深く沈めてしまいたいのだ。
俺自身とあの女をだ。
抱いたらどんな風に歓ぶんだろうと思わせる女はたくさんいる。
抱いてみたら服を着てるときより色気ない女もいた。
臭い女 濡れない女 濡れすぎる女。終わった途端 俺の顔の上をまたいだ女。
記憶にも残らない女。 思い出すこともないセ ックス。
そんな女たちのモノクロの抽象画の中を ふわりと浮かぶカラー写真のように
俺の人生の中に浮かび上がる女。 色褪せることなく微笑み続ける女。
ほどよい長さの美しい脚を俺の肩に乗せて 大胆なポーズをするくせに
羞恥で赤らんだ頬のまま俺にしがみつく 可愛さと可憐さと色気を併せ持った女。
結婚とか 生活とか 経済とか 家族とか 親族とか 近所とか 常識とか
そういった人が暮らしていくために大事なものをまるで持ち合わせていない女。
そのくせ 浪費と快楽と堕落のためなら 命さえ惜しまない覚悟を持った女。
欲しい物が見つかったら 欲しいものを与えてくれる人間だけを求める女。
求めるものが見つかったら それ以外のモノを一秒で捨てられる女。
あんな女が 世の中に戸籍を持って存在するとは思わなかったし
俺が出会う運命だとも思わなかった。
俺はレオナに魅せられたおかげで 身体の中心から大事なエキスを吸い取られた挙句
稼いだ金のほとんどを 持っていかれた。
乗っていた外車も株も手放し、200平米のマンションから2Kの中古マンションに落ちぶれた。
誰もがレオナを魔女だと言ったし 言いながらも俺を羨んでいたと自惚れられた。
俺が羨ましいだろう。こんないい女を 抱きたいだろう?
そんな退屈な女しか抱けないお前には 俺の気分はわからんだろう。
24時間そう思いながら生きていた。
レオナを逝かせまくりながら 俺自身が愛情と魂を放出しながら いつだって自惚れていた。
だから 砂時計の砂のごとく零れ落ち続ける金と時間の行方より
レオナの心が 俺に依存して依存して 中毒になってしまえと呪いのような祈りしか
持ち合わせていなかった。
24時間俺だけを見つめていたレオナが 俺の次に面白そうとロックオンしたのは
オーロラだった。
まさか と思った次の瞬間 俺は気付いた。
俺とのセ ックスより 俺との信頼関係より 俺との贅沢より 俺との温もりより
この女は好奇心という手玉に出会うと どこまでもクッションを続けて
転がっていく8ボールなのだという一番大事なことに。
彼女の美しすぎる真っ黒な瞳の透明度は 誰にも媚びない輝きだったのだ。
この3年 俺の時計はレオナが消えた夜のまま 止まっている気がする。
出会わなければ 俺はこの劣等感も苦しみも悲しみも惨めさも知らずに済んだのだ。
優越感も満足感も高揚感も絶頂感も知らずに済んだのだ。
鑑定料が高くて有名な占い師に言われた。
『彼女に感謝できるようになったら また仕事も人生も軌道に乗りますよ』
つまり 俺は一生うだつの上がらぬ人生になるってことだ。
レオナに感謝する時があるとしたら それは死ぬ瞬間だろうと勘のいい俺にはわかっている。
あのバーにふらりと立ち寄った俺を 俺は取り戻したい。
車より 金より 仕事より何より俺は 傷ついたことのないプライドと
女に抱けていた 強すぎる優越感を持った男としての俺を 取り戻したいのだ。
ゴシップニュースを見ながら 想像していた物語
ワタシ的にはとっても興味深いゴシップだったのね 笑