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熱があるんだな と思った。目覚めている数秒間以外は気を失うように寝てしまう。
真っ暗な洞窟の中に潜らされてしまい 地上の記憶も経歴を消される。
そして目覚めが近づくと 瞬間移動でベッドに引き戻されている。
そんな感覚の連続だった。
真っ暗な洞窟の中で 自分の意志でも力でも動かせない湿った身体を持て余す。
皮膚は決して滑らかな一面なんじゃない。
毛穴というミクロの穴の連続なんだと 顕微鏡で見せ付けられてるかのように
自分の皮膚の無数の穴から汗が湧き出る。
その一粒一粒の汗が 昨日からずっと着たままの衣服から染み出している気がする。
吸い取る機能を果たしきれなくなった衣類が 黴ていきやしないかと 不安になる。
衣類の黴が肌の小さくて無数にある穴から 心のあるワタシの大事なブブンを侵す。
せっかく 人を許したり受け入れたり いや誰より自分を許して愛しせるようになった
大事なブブンが台無しになるのではないかと 不安になる。
ここまで来るのは大変だったのに・・・
自分の今日までの全ての時間が今のワタシを作ってくれた。
決していいことばかりじゃなかった。
かといって特別すぎることもなく誰にも起きる程度の出来事だった。
それでも そのすべてがワタシには必要で 起こるべきして起きた運命だったはず。
誰にも手渡しなくない大事な自分の小さくて深い歴史なのに 黴に台無しにされるなんて。
また洞窟の住民にさせられる。意志も力の奪われたワタシは 寝るしかないのだ。
頭だけ南極に移動させれたらしい。冷気が黴を追い払ってくれそうだ。
よかった。 また自分を愛せるんだと嬉しくなる。
自分を好きな気持ちがむくむくと膨らんで 首の周りの汗ばんだベタベタ感に反応する。
気持ち悪いという感触が蘇ってくるほど 皮膚に開いているはずの穴の数が減っている。
髪を梳かれる。 気持ちがいい。
着替えをさせられる。 心地がいい。
喉を潤される。 身体がいい。
ほどよいぬくもりのお粥が染みる。 臓腑がいい。
誰かに手を差し伸べられているらしいという 気付きは言い知れぬ幸せだ。
孤独でない。よかった。 そうだ ワタシには愛があったのか。
熱のせいで そんなことさえ解らなくなっていた。
解らないというのは なんて恐ろしいんだろう。
そっと 手を握り締め返すとそこには 出張に行っていたはずの夫がいた。
『熱が・・・』
『携帯で連絡が取れなくなったから、大急ぎで仕事やっつけて戻ってきた。』
気がつくと まだ着替えてもいないし汗だってかいたままだった。
3分前に帰宅したという夫は 新幹線の駅でご当地弁当を2つ買ってきたと言った。
あ そうだったのか。
お母さんだったんだ。
確信に近い閃きと喜びがワタシの全身にまとわりついて 心地よく馴染んだ。
ベッドを這い出て、ワタシはお仏壇の変わりにしている遺影とお供えを置く場所へ。
そこに手を合わせながらお線香を上げたら、緩やかな風が室内に流れ、煙が消えた。
『お母さん。ありがとう』
そうか。昨日はお母さんのお誕生日だった。
お母さんのお誕生日に熱なんか出して ごめんごめん。
心配かけて ごめんごめん。 愛し続けててくれて ありがとう。
きょとんとしている夫に今から全てを話すわね。 お粥の味 思い出したよ。
ブログのスタイルについて ちょっと考え直しております。
なので 若干 滞ったりさぼったり 卑屈になったり いい加減になったりするかもしれないけど
勝手に決めるので お構いなく 笑
そして ワタシの出した結論が とんでもないものだったとしても お構いなく 笑