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その夜 慎吾と優は遊びすぎたらしく 抱き合うようにして寝てしまった。
泣きすぎて 食べ切れなかったケーキをつまみにしながら 直人と紗江子は
乾杯をした。 紗江子はワインで。 直人は紅茶で。
『苺を先に食べないと すっぱくて食べられなくなるよね。』
紗江子が言うと
『僕は 途中で食べるんだ。甘さとすっぱさを両方味わいたくって。』
『直人さんらしい。両方うまいことやっちゃうところが。』
『ははは そうかな。それにしても今日は緊張した。いや 今更だけど ありがとう。』
直人がワイングラスを持とうとした紗江子の手を そっと掴んだ。
『子供たちがいたから 黙ってたけど・・・飛び上がりたいほど嬉しかった。』
『飛び上がるとこ 見たかった。 私は恥ずかしいわ。泣くなんて。まさか。』
涙が嬉しかった と言いながら直人は掴んだ紗江子の手に そっと口付けた。
その口付けに紗江子は心臓がバクバクし 鼓動が直人に聞かれてやしないかと
目を伏せて深呼吸した。なんとか全身を流れる緊張をやり過ごそうとしたが
上手く行かなかった。
逃そうとすればするほど 緊張の潮が満ちてしまい指先に震えがくる。
処女でもないのに・・・むしろ緊張していることのほうが 恥ずかしい。
直人が震えに気付き そっと背中をさすった。
『大丈夫?震えてる。俺が触ってるから?やなら止めるよ。辞めたくないけど。』
『震えてる・・・ なんで?やだ 私。。。』
『嬉しいからだって 言ってくれたら嬉しい。』
思いを言葉にする直人の素直さに 紗江子はますますクラクラした。
心の傾きや色合いを 言葉にしたりズームしないように心がけて暮らして4年。
言葉にしたところで 耳からマイナスの言葉が潜り込んできて辛くなるだけ。
そう思うことに慣れていた紗江子の心に 直人の素直な言葉はくすぐったかったし
それ以上に 嬉しさと感動を呼び起こした。
『そんな素直に言われると 照れるより前に嬉しすぎて涙が止まらなくなる。
ずっと築き上げきた心の防波堤が 邪魔してるんだ。きっと。』
『俺もだと思う。2人でゆっくりやっていこう。慌てることナイさ。
どんなことも なんでも話して。話さない習慣を変えることから始めようよ。
そのための時間は作るよ。夏休みの間に 4人でどこかに行こう。』
紗江子は頷きながら また溢れてきた涙を拭った。
『本当は 抱きしめたいしキスもしたいし いや 抱きたいくらい興奮してるんだ。
けど 焦りたくないし急いでしまいたくない。抱くことで大事にすることもあるだろうけど
紗江子さんを大事にしたい。いつまでも待つし いつまでも大事にしたいんだ。』
紗江子は その言葉に頷くと 顔を上げて握り締められた直人の手にキスをした。
ありがとう。 かすれた声で搾り出すような声を合図に 2人は抱き合った。
この物語は こちらの続きとなっております
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