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たまには 味噌汁じゃなくて ビーフシチューを食べたいと思う。
どうせ たまに食べるなら 高くてもいいから 格別に美味しいのを 食べたい。
一週間煮込んでるとか トウキョウで一番の老舗ですとか っていう 付加価値も欲しい。
そんなことを考えていたら 味噌汁の代名詞みたいな 妻からメールが来た。
『本日 めしなし。 愛が発熱。 水疱瘡らしい。 やってある?』
具のない 味噌汁を出された気になった。 軽く吐き出す溜息に 哀愁が漂う。
気づき始めた 好きな気持ち。 伝えられないもどかしさと フラレそうな怖さ。
相手の気持ちを想像して 落ち込んだ夜。 心がすれ違って 飲んだやけ酒。
初めての夜の震え。 喜び。 誓いと 涙。
両親に挨拶に行った日の緊張と 感動・・・
結婚式の興奮と 決意と その日からの 全てを 時々 思い出してみる。
そうだった。毎日 味噌汁がある生活に憧れていたのだ。
結婚するまでの全てが 小さいことになるほど 娘の誕生は 大きい出来事だった。
足の形が似ている。 耳の形も似ている。 そんな小さなことが 人生最大の喜びだ。
自分を見て 世界で一番好きと言ってくれる この娘のためなら 全ての誓いを捨てられる。
そんなことを思いながら 会社のパソコンで 水疱瘡について調べてみる。
娘の苦しみを 拭い去ってやれない自分を 非力だと思う。
さっきまで ビーフシチューに いくらでも出せるなんて 思っていた自分を恥じる。
最高級のビーフシチューより 日常の具材が 浮き沈みしている味噌汁を選ぼう。
その味噌汁は 毎日 味も香りも違うのだ。
その 微妙で 絶妙な変化に 気づき続ける自分でありたいのだ。
『飯は ナンか買って帰るよ。 愛は何を欲しがってる?』
どこにでも転がってる 日常と言う風景。 家庭と言う ありきたりの素材。
平均的な人間同士の 美しさもドラマチックさも 贅沢さもない ささやかな時間。
家庭の中で 俺ってこんなもんかと 思う男もいるのだろう。
けど 俺は これを維持するのが 最高の努力だと思えるようになったんだな。
俺は 男である以上に 夫であり 父親になってきたんだと 背中を伸ばした。
いつも 読んでいただきありがとです
さらに 押していただけたら もっと嬉しいもんです 笑
ビーフシチューを食い続けた男が 味噌汁を食べたくなるっていう
『玉の輿』物語ってのを 好きだけど 笑