小説★道 | みみぴちがってみみぴいい

みみぴちがってみみぴいい

どってことない日常を どってことあることにする
ブログ

今日あった「いいこと」 ブログネタ:今日あった「いいこと」 参加中
本文はここから


続きです


真夜中に帰宅して 真っ暗な部屋を歩き回りながら 紗江子は興奮していた。



何かが 始まる予感がする。





2軒目の店で 紗江子が語ったのは 離婚のいきさつや 苦しさではなく


もし これから結婚するとしたら どういう生活がしたいか という夢だった。





人がかかわる大事なことに 型枠を作って そこに人の気持ちも人生も流し込むなんて


ひどい話だと いつも思っている紗江子は 友人にさえ 話したことがなかった。



型枠の中身を冷静に覗いてみても そこにあるのは 愛情と言うエッセンスより


犠牲という薬味が効いてるのは わかっていたから。




慎吾のために 子供はもう産まないこと。


どんなことがあっても 慎吾の結婚式まで 離婚しないこと。


紗江子の両親の最期を 必ず看取ること。




たった3つの条件とはいえ その真意を掴んで その真意の通りに理解して


実践させてくれる相手は いないだろうと 思っていたし 宣言した段階で


拒否されるだろうと 怖くて言えなかったのだった。




酔いに任せて 型枠を言葉にし まるで 直人の反応を試すように 顔を見た。



直人は 頷きながら 奥歯を噛み締めていた。 そして



『僕には 勇気がなくて その条件を言い出せないでいるんだ。


 だけど 僕が今 一番求めていることと 全く同じでね。 驚いているよ。』


と 言ったのだった。




この型枠が どれだけ自分勝手で 相手を尊重していないかまで 分ってるんだ。


その上で 同じだってことなんだ。



紗江子は 喜びと感動を込めて 握手して と言ってしまったほどだ。



2人は テーブルを挟んで 手を握り合い


『同志だね。』 とお互いを讃えあった。





帰り際  紗江子から 優のことを 相談した。


『よかったら 学童から私がつれて帰ろうか? 申請すれば出来るんじゃない?

 夕飯食べさせて 宿題やらせて お迎えに来るの 待っててもいいよ。』




月曜と金曜が どうしても 夜8時を回るので 学童のお迎えを行政のシッターに頼んでいる。


と話を聞いたことで 紗江子は少しでも優の放課後を 賑やかにしたかったのだ。




『優に聞いてみるよ。もし 彼がそれに返事したら そのまま伝えるから。』



子供の言葉通りを伝える というのが いかにも真面目で裏表を嫌う 直人らしいと


紗江子が頷き タクシーに乗り込んだのだった。




直人らしい と思えるほど 直人のナニカ をつかめたような気がすることが 嬉しかった。


同情や 激情や 寂しさから寄り添ってるんじゃなくて 


未来を見つめたいと思う 自分の気持ちも 清々しかった。





真っ暗な 慎吾の部屋に入って 電気をつけた。 誰もいない6畳の部屋が 広々と感じた。 



けれど 紗江子の胸は 寂しさに占領されていなかった。



経験したことのない 新しい人間関係を築けるのだろうか。


母として 女として 軸をぶらすことなく 居続けられるのだろうか。




そんな 期待が 膨らんできて しばらく 部屋の中で 座り込んでいた。




息子と自分の人生と言う地図の 地形が ぐっと広がる気がした。



にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村



これにて 完結です。



子供たちと 話し合いが上手くいくといいなって 思いながら 終わりました。



親でありながら パートナー探す上で どこに軸を持つかって


いっつも考えてる 妄想女なワタシ。