小説★3センチの背伸び | みみぴちがってみみぴいい

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遅刻は何分から遅刻? ブログネタ:遅刻は何分から遅刻? 参加中

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千尋は カバンの中から 携帯を取り出して 眺める。 


ここに来てから 20回は こんなことをしてるな と思いながら。


電話をかけて 『なにやってんの?どこにいるの?』 と言えるほど 親しくないんだ と


自分と直人の関係を考える。





子供が同級生。 お互い ばついち同士。


保護者会の後の飲み会で話をしたら 同郷だった。 再婚の意志はなし。




そんな共通点が嬉しくて 携帯のアドレスを教えあったのが 1ヶ月前。





息子の慎吾と 直人の息子 優が 土日で子ども会のお泊り合宿にいくことになった。


申し込みを済ませたら 直人からメールが入り 


せっかくの土曜日だから 飲みに行きませんか と誘われたのだ。






お酒で気分よくなってから 男を観察するのは 辞めよう。


離婚が成立してから 千尋はそう思っていた。




財布の出し方や メニューの決め方や 好きな酒の種類が 男の魅力だったのは


独身で身軽で 尻軽だったずっとずっと 昔のこと。



運命を信じすぎると 運命にもてあそばれるのだ。


閃きより もっと鋭くえぐってきて


切なさより ずっと優しい気持ちをもたらしてくれる異性の愛だけを 求めるんだ。





『直人さんに 期待してるのかしら?』



普段の通りを装いたくて 学校に行くときと 同じ服装できた自分に 問いかけた。



ノースリーブのチュニックワンピに レースの半そでカーディガン。



黒のレギンスの足元の サンダルだけ ヒールにした。






慎吾の笑顔を思い出したくなって また 携帯を眺める。


待ち受け画面いっぱいに溢れる 静止画の息子の笑顔。


夏休みが始まると 大喜びしていた 先週の慎吾だ。 父親なんて求めていない息子。


母に 女の顔なんて 求めていない 小学3年生の 可愛い息子。


千尋は ヒールの高さの分だけ 息子を裏切ってる気分になった。






待ち合わせの7時を 6分過ぎて 直人が来た。


汗を拭きながら 故郷の言葉で遅刻を詫びる直人の顔は いつもの父親の顔ではなく


女と待ち合わせしている 男の顔だった。





ヒールの分だけ 笑顔から 母親らしさが消える気がした。




いつもより 3センチ背伸びしてるだけで 気持ちの軸が変わる。



蕾んでいる花びらが 綻ぶような心地よさを 千尋は自覚した。



保護すべき相手の不在という 不思議な開放感と 奇妙な孤独感。



その想いを 共有する 共犯者。





2人は 静かに夜の街へと 消えていった。





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