小説★携帯の秘密 | みみぴちがってみみぴいい

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おしゃべりな人が 羨ましい。


誰とでも 話ができる人が 憎らしい。


自分が思っていること 考えていることを 言葉に出来る人が 不思議。




美紀は 28歳になるというのに 異性と交際したことも 親しくなったことも なかった。




短大を卒業し 兄が所属している弁護士事務所の事務員として 仕事には就いたが


電話の応対をする以外 所内で 会話をすることさえ 苦痛だったり 恥ずかしかったりだ。


すぐに 赤らむ頬を隠したくて うつむき加減になってしまう。


所内は 社会人の中でも 論じ合ったり 主張したり 論破することを 生業としている


人間たちの集まりだ。


ちょっとした出来事にも みな 多弁である。 自分の信念を 生き様にしている。


見習いたいと 思う前に 属してる星が違うのかと 時々 不安になる。


一歩 外に出ると ビルの隙間をぬうように歩き回る人々も


口々に なにかを発している。 誰かに ナニカを 発しているのだ。


通りすがる赤ん坊でさえ 泣きながら ナニカを親に伝えようと 必死である。






仕事帰りに ふと目に付いた看板。 そこには 手書きで


『新人役者募集中』。


下のほうに 『知らない自分を見ませんか?』と 小さく書いてあった。


美紀は 生まれて初めて 知らない自分 という言葉を脳内に取り込み そして


身震いした。奇跡を信じて 巡礼する信者の足取りで入り口に吸いこまれていった。





そこは だれのとも分らない タバコの紫煙が立ち上った 空気が淀んだ部屋だった。


それなのに 美紀には 香しいドライアイスの演出のように 映った。


『誰? ってか なに?』


上半身に 小さなスポーツブラだけを纏った 筋肉質の女性が 立ち上がった。


『・・・・・・・・看板』


『ああ。新人さん? ほんとに?? きゃーーー 入って入って!!!』


シルビアよ と名乗った女性が 座りこんでる男女を 立ち上がらせた。


『ここにいるのは 全員男性なのーーー ああ ワタシも 男よ!!』


美紀は 愕然としたが シルビアの睫毛の長さに見とれているうちに 座り込んだ。


『女性大歓迎!! それにしても あんた 地味ねーー 化粧したことある??』


『。。。。。あんまり』


そうよね とシルビアは いかつい身体つきの男性に 『ミニー』と声をかけた。


『あんたさ せっかく天然のオンナなのに 綺麗にならないなんて 馬鹿よ馬鹿』


ミニーと呼ばれたいかつい男性は 美紀の顎を 軽く上に持ち上げた。


『素材はいいわよーーーあんた。眉毛 剃るわよ。 で 目じりにほくろ 入れてあげる』





鏡もない くすんだ部屋の中で しかも初対面の異性ばかりが集う異空間で


美紀は 顔をいじられ始めたが その不可思議な時間は 居心地がよかった。



『あんた 名前は?仕事も教えておいて』


美紀は スラスラと 名前と会社名を話した。 


兄が弁護士であること。 父が去年亡くなったこと。


母がすでに再婚を考えていて それが どれほど自分の気持ちを傷つけているか。


なぜ 兄は母を許しているのか 何も苦情をいえない自分に 腹が立っていること。




化粧している陶酔感が 美紀を饒舌にしているのか 


性の倒錯集団といることが 開放感なのか と思いながらも 美紀は心の中の澱を


言葉にしながら 気付いたら 涙をこぼしていた。





『あんた 絶対にいい女優になるわ。 このシルビアが保証する。』


『そんなこといって この子から 入会金とか ふんだくるんじゃないでしょうね!!』


『ばか!!あれは どう見ても 冷やかしブスだったから 取ってやったのよ!


 いまどき こんな綺麗な心を持った 原石みたいな処女に あったことある?


 どいつもこいつも 生意気ばっかりでさーー。 あんた 処女でしょ?』


美紀は ここに来て 初めて俯いた。


『いいのよ、ワタシ どっちでもいけるし なんだったら あんたを磨くツールになるわよ』


と シルビアが美紀に近づこうとした途端 遠くで靴を履こうとしていた ユリアが


靴を投げつけた。


『そこの不細工!! すっこみな!! 本名が 健之助なんていうダサい奴 ほっときな』


そこにいた 数人の笑い声が あまりに甲高くて 美紀は一緒に笑いだした。




全員が 携帯を取り出し 化粧を終えた美紀と写真を撮った。


ミニーは 本物のメイクアップアーティストだと 名刺を出した。


テレビは断ってるけど TOKYOコレクションで仕事してるのよ といっていた。




洗練されたメイクに包まれた 美紀の顔は 見たこともないほど


眼にも唇にも チカラがみなぎっていた。


『いい これの写真を待受けにしておきな。そしてね 毎週 月 水 金はここ。

 
 土曜は ワタシのマンションで あんたの歓迎会よ。』



『どこにあるんですか? シルビアさんのマンションって』


『シルビアはね 薄汚い顔して 綺麗なとこ棲んでんのよ!!


 土曜の11時に ここにきな。 ワタシが乗っけてってやるから』



時間の動かし方が みんな 男らしくて 快活だな と美紀は笑った。


兄にも 母にも 内緒にしよう。 




この人たちに褒められるなら こんな自分でも いいのかも知れない・・・


美紀は 笑いながら ボールのように飛び交う会話を 聞き取りながら 微笑んだ






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