お礼企画第6弾『Be with You』(薄桜鬼・沖田)後編 | 浅葱色の空の下。

浅葱色の空の下。

薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。





















目を覚ます。


ベッドに寝ていることを自覚してぼんやりとした思考でここが保健室だということを理解した。


するとカーテンの向こう側から静かな声で「葉月さん、入りますよ」と聞こえてきて、
そっと開けられたカーテン越しに白衣を着た山南先生と目があった。



「おや、目が覚めましたか?」


「山南先生…」


「今月もまた酷いようですね」


「…はい」


そっとベッドの脇に立つ先生を見上げる。


「高校生には行き辛い場所かもしれませんが、一度婦人科に診てもらうのをお勧めしますよ」


「はい…」


「ご飯は食べれそうですか?先程お友達がお弁当を届けてくれましたよ。
食べれるようなら少しでも食べて薬を飲んでくださいね」


「わかりました」


私の返事に先生は柔らかく笑った。


「私は少し用があるのでここを出ます。まだ休むなら休んでいて結構です。
でも今日は無理をせず早退してもいいと思いますよ」


「はい」


「そうそう、ここまで連れて来てくれたのは沖田くんですからね。
あとで礼を伝えてもいいでしょう。随分と心配をしていました。
彼もあんな表情をするんですね」


「そう…、ですか」


「では」


「ありがとうございました」



先生の背中を視線で見送って。


先生が出て行く音を聞いて。


また閉ざされたカーテンの中。



サイドテーブルに置かれたお弁当と薬と水が入ったペットボトルに目を移す。



薬飲まなきゃな…。







突然ガラッと開いた引き戸の音に私は驚いて身体を揺らす。


別に悪いことをしてるんじゃないんだけど…、息を潜める。



カーペットタイルに吸収されなかった静かな足音が室内に入ってきて、
白いカーテンで区切られた前で止まる。




足元を見ただけで「総司だ」と思ってしまった。






「葉月、入るよ?」


静かにかけられた声に私は応えることも出来ずにカーテンはそっと開いた。

そして総司と目が会えば、総司は少し驚いた顔をしてすぐさま息を吐いた。



「何だ、起きてたんだ。返事くらいすればいいのに」


「ごめん…」



自然と視線を俯かせてしまう。



「…具合どう?」


「マシ…にはなったかな」


自分に掛けられた薄い布団の真っ白いシーツを見ながら言葉を返す。


「そっか」


何も言わずにベッドの傍のパイプ椅子に腰掛ける総司。

軋む音がやけに大きく聞こえた。



「あの…総司、くんが保健室まで運んでくれたんだよね。ありがとう」


「…何その呼び方」


「…だって」


「早退するんでしょ?送る…」


「彼女」


私は総司の言葉を遮るように口を開いた。


「彼女さん、大事にしてあげなよ。…今日ね、偶然トイレで聞いちゃったんだけど、不安がってるみたいだよ?」


無意識にまっさらなシーツを握る。


「…」


「私、大丈夫だか、ら…」


総司に顔を向ければ総司の表情には冷たさがあって、私は息を飲んで固まってしまった。




「…それって葉月には関係ないことだよね?」


「…っ」


「僕があの子とどうなろうが葉月には関係ないことだよね?」


「…」


「じゃあ僕を心配させないように振るまいなよ。体調なんか崩さないでさ。」


「…ごめん」



総司の言うとおりだ。

二人の関係に私は全く関係ないし、余計な言葉だった。




「もう…、嫌なんだ」


「…」




ショックだった。


総司の言葉に泣いちゃいけないと思うのに、視界が涙でどんどん歪んでいく。



私がそんなに迷惑だった?


すると総司が大きく息を吐いた。




「…僕たちの距離感て、凄く近いのに触れちゃいけないみたいで。
だから他の子と付き合えば葉月のこともただの幼馴染みとして見れると思ってたのに」


「…」


「あの子には悪いけど、離れれば離れるほど葉月のこと考えてる。
きっと葉月が世界の果てにいってしまってもきっと葉月のことを想ってる。
……意味、わかるよね?」




…何を言っているんだろうと思った。

総司の言葉がぐるぐると頭の中を巡っている。



総司が私のことを想ってくれてる…?


零れ落ちる涙はそのままに総司の顔を見ると、総司は困ったように笑った。



「僕は葉月が好きなんだ。…葉月は僕のことどう想ってる?やっぱりただの幼馴染み?」


急に身体中の血液が巡り始めて胸がドキドキと高鳴りだす感覚。


今度は緊張で身体が強張る。




総司は私の言葉を静かに待ってくれていた。


その瞳から目が離せない。




…ずっと押さえ込んでいた想いを、きちんと伝えたいと思った。





「……総司は大事で…、凄く、…好きな人」


「ん」


総司は短く返事をしながら小さく笑って、大きな右手を私の頬に添えて親指で涙をぬぐってくれた。


触れた温もりが心地いい。



「またいつもの僕らに戻ろうか。…あー…、でも葉月の気持ちも聞いちゃったから前の僕たちには戻れないかもね」


「…どういうこと?でも…彼女さん…」


「それは全面的に悪いのは僕だから、僕からちゃんと伝えるよ」


「…」


「じゃあ一先ず帰ろうか。家まで送るよ。
一緒にいてあげたいけど、めんどくさぁい部活とかあるからさ」


総司の言い草に思わず笑えば、総司が目を細める。


「…やっと笑った。帰ったらまた葉月の家に行くから。
どうする?お弁当食べて薬飲んでからにする?帰れそう?」


「帰ろう、かな」


「了解。じゃあ僕、平助に自転車借りてくるよ。今日チャリで来てて隠してる場所も知ってるし」


ちょっと意地の悪い笑みを浮かべながら総司は片手を上げてカーテンに囲まれた空間を出て行った。


引き戸を開けて、総司が出て行ってから、
私は火照る顔を両手で押さえながら大きく息を吐いた。




言っちゃった…。


総司も想ってくれてた…んだよね?




展開が早すぎて思考が追いつかない。

身体は熱し、鼓動は早いし。








とりあえず帰る用意を始めて、お弁当袋を持つと下からクッキーの小袋が現れた。


友達の気遣いに嬉しくなりつつ、それを食べてから薬を飲んだ。


じんわりと身体に広がる甘さに自然と笑みを浮かべた。











目の前にはママチャリに跨る総司。


「鞄。ほら、乗って」


「オネガイシマス…」


総司に鞄を渡して、のそのそと自転車の後ろに横向きに乗る。



「腰に腕回して」


「…うん」


少し緊張しながらもそっと総司の腰に腕を回す。



「じゃあ行くよ」


ゆっくりだったスピードも次第に心地いいスピードへと移る。



そういえば中学の時にも自転車の後ろに乗せて貰ったことあったっけ。

懐かしさがくすぐったくって、少し零れた笑み。



総司がたまに大丈夫?と聞いてくれるくらいで会話は特に何もなかった。


触れたところから伝わる体温が心地よかった。






「送ってくれてありがと、総司」


「また来るから。ちゃんと寝てなよ?」


自転車を下りた私がお礼を言えば、総司に頭にぽんと手を置かれて、私は小さく頷く。


総司は小さく笑って、手を上げて、自転車を漕ぎ出す。


私も笑って手を振って、彼の背中を見送った。















夕方4時過ぎ。



チャイムに起こされた私はインターフォンで確認して玄関に向かった。

玄関前の姿見で手櫛で髪を急いで整えてドアを開ける。



目が合った総司は私を見てくすりと笑う。


「寝てた?」


「ん…」


寝起きの顔を見られるのは恥ずかしくて、思わず苦笑いが込み上げる。


「体調どう?」


「薬も効いてきたみたい。お昼の時よりはいいよ。それにしても部活終わるの早いよね?」


「サボった。…部屋入っていい?」


「…汚い部屋ですけど」


「お邪魔します」



何だか緊張してしまう。


実は総司なら部屋に入ってくるかもと思って帰ってきてから部屋を片付けたのは内緒だ。










部屋に入ってから総司は彼女と別れてきたという報告をした。




「改めて、僕と付き合ってください」


「えっと…、宜しくおねがいします…」


真剣な眼差しの総司と目があって、私は思わず姿勢を正して小さく頭を下げた。


二人とも改まってる様に二人で顔を見合わせて吹き出してしまった。




「じゃあ横になっていいから。まだ気だるいでしょ?」


総司の言葉に甘えてベッドに入って横になると、
総司がかけ布団の端を捲ってベッドに膝を乗せている。


「え?!何してんの?!!」


思わず引っ張った掛け布団が更に引っ張られる。


「温めた方が腰にいいでしょ?添い寝してあげる」


「ちょ、何でそんなこと知って…!?」


「だって姉さんが言ってたし」


「…そ、そっか。でも添い寝は!いいからっ!」


「でもいつか添い寝するしそれ以上のこともするよ?」


「…っ!いっ、今じゃなくて結構です!」


私に覆い被さるような体勢でニヤニヤと笑う総司と恥ずかしさで総司を睨む私。


きっと私の顔は真っ赤だ。


















「じゃあ、手繋がせて」


「…うん」



繋がった温もりが心地よくて、どこかくすぐったくて。






嬉しそうに笑うキミの隣にずっといたいと思ったんだ。






















fin.

























あとがきはまた後で!