雪を降らす灰色の空を見上げては1人呟く。
「傍にいろっていったのに」
吠舞羅が学園島を占拠したことにより、今宗像室長率いる部隊は学園島周辺を包囲している。
「貴方はここにいてください」
部隊が出発する前、告げられた部隊編成に抗議するため、室長室にいた。
「…傍にいて欲しいとおっしゃられた言葉は偽りですか?」
「いえ、本心です」
「でしたら」
「ここにいて、帰って来た私を迎えてほしいのですよ。
あちらでは戦闘状態となるでしょうし、私は赤の王、周防と対峙しなければなりません。
それはつまり…、貴方を守ることが出来ない」
「私だってセプター4の一員です」
「…他の誰かがマドカを傷つけようものなら私は怒りに身を任せてしまうでしょう。
なるべく理性は保っておきたいのですよ」
困ったように眉根を寄せる表情と言葉に自分が浅はかだったと思い、視線を下げた。
「…申し訳ございません」
私の言葉に小さく笑った彼は私へと歩み寄る。
「ここで私を迎えてくれると約束していただけますか?」
「はい…っ」
返事とともに引き寄せられ酸素まで奪われるような貪るようなキス。
崩れ落ちそうな自分の身体を支えたくて、彼の制服をギュッと握れば、
離れていった唇と満足げなその表情。
「お前のその表情を手放すのはまだ惜しい」
「…仕方ない人」
「呆れるか?」
「いいえ、貴方を愛していますから」
「俺もだ…。マドカ」
やりとりを思い出して、そっと指で唇に触れた。
小さく息を吐いて、気分転換にと給湯室へと向かう。
いつもは忙しいこの屯所内も相当な人数が駆り出されているので静まり返っていた。
ポットで蒸らしたダージリンをタンブラーに注げば、鼻にその香りが届いて、一瞬の心地よさを得る。
『赤の王…、周防尊は私の友人なのですよ』
そう漏らした彼を思い出す。
青の王としては赤の王を最悪死に追いやっても止めなければ、
また迦具都クレーターのような巨大なクレーターを生み出すことになってしまうだろう。
宗像礼司としては友人である周防尊を助けたいと願っている。
内に秘めながらもあの人も葛藤し、もがいている。
王である前に1人の人間なのだと彼と共にいるようになってから感じていた。
その宗像が求める相手が自分であることに未だ理解は出来ていないが。
「待っていろと言われれば待つしかないじゃないですか」
席に着きダージリンを一口飲んで、事務処理へと脳内を切り替えた。