薄桜鬼・妄想小説【君の名を呼ぶ】第32話 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。

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第1話はこちらから → 







この話はちょっと表現が苦手な方がいるかもしれません。

不快になった方がいらっしゃいましたら、申し訳ないです。








いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。



かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。

















「動機は殺害した不逞浪士の身籠っていた妻を見て同情したのかと思われます。

夫の殺害現場にたまたま出会わせ遠巻きに見ていたとその妻には言っていたようです。

その妻には『ぜひとも子のためにもこのお金を使ってほしい』とも」

山崎から報告を受けた土方は重く長い溜め息を吐いた。



「おい、総司はまだ戻ってねぇな?」


「局長と共に出かけられています」


「…松原を呼べ」


「承知しました」

山崎が頭を下げ、姿を消す。


土方はもう一度深く重い溜め息を吐き、眉間に深く皺を寄せた。






冴は土方の表情を見て、自分がどの理由で呼ばれたのかが瞬時に分かった。


土方に向かい合って座り、その固く結ばれた口が開くのを待っていた。


冴の視線は土方の座る畳の一点をひたすら見ていた。




山崎に人払いをさせていた土方がその口を開く。


「…松原、てめぇ自分がどんなことやってんのかわかってんのか」

冴を睨みつけながら地を這うような低く、身体に響く声を出す。


「…はい」

土方の問いに淡々と応えた冴。



「そういうのをな、偽善って言うんだよ。人斬りが人斬りの罪から逃げてんじゃねぇよ!」

拳を作った土方が畳を殴る。

衝撃で障子戸がカタカタと揺れた。


「…」


「お前の下についてる隊士たちにも組長がそんなんじゃ示しがつかねぇだろうが!!」


「…」


「おい、人の目を見ろ」


「…」

静かに視線を上げた冴。土方と視線が絡まる。



「…てめぇ、何がしたいんだ?」

眉根を寄せる土方の言葉にようやく冴が口を開く。



「もう一度だけ…あの人に会わせて下さい」


「駄目だ」

冴の言葉を一蹴する土方。


「お願いします!!」

咄嗟に手をつき土下座して懇願する冴。


「駄目って言ってるだろうが!」


「お願いします!きちんと最後だってことを伝えたいんです!」

声を荒げた土方に冴は真っ直ぐに言葉を伝え、再び土下座する。




暫く押し黙った土方が口を開く。


「…お前は組長から外す」


「…はい」

冴は土下座したまま、土方の言葉に応えていく。


「雑用からやらせる」


「…はい」


「俺が直々に性根叩きなおしてやる」


「…はい」



「…山崎」

土方に呼ばれた山崎は静かに部屋に入る。


一瞬、冴を見やるも冴は土下座のまま動かないでいた。




「松原を縛って3日間蔵に閉じ込めておけ。1日間で竹刀叩き千回だ。
昨日入った腕が立つ新人がいただろ。そいつにやらせろ」


「…承知しました」


「くれぐれも他の奴等…、特に総司にはばれるな」


「御意」

土方に応え、山崎は軽く頭を下げた。







夏場でもひやりとした空気が漂う蔵の中。


山崎が持って来た灯りで、冴と山崎はぼんやりと照らされる。


「…失礼します」

冴に声をかけ、山崎は後ろ手に縛り上げていく。


「…山崎くん。優しいね。手が震えてる」


「…話しかけないで下さい」

クスリと笑う冴に山崎が眉根を寄せて苦々しく応えた。


「…ごめん。でも少しだけ。山崎くんが気を病むことはないよ。悪いのは私なんだから」


「…」


「やっぱりさ、厠には行けないんだよねぇ…」


「…無理、ですね」

一つ溜め息を零した冴に山崎は応える。




「蔵ってさ、大事なものが沢山ある場所だからさ。私の匂いがついちゃうとかわいそうだなとか思って」

「…あとで桶でも持ってきます」


「ありがとう」

口元に笑みを浮かべ山崎を見つめる冴。そんな冴を山崎は眉根を寄せて言葉を投げる。


「何故、その様に気丈でいらっしゃるのですか」


「…こんな自分を誰かに咎めてほしかったのかもしれない」

冴はそっと目を伏せ、口角を上げた。


「…目隠しをし、口も塞がせて貰います。大きな声は出さないようにお願いします」

山崎の言葉に静かに頷く冴。



「一日が終わったら様子を見に来ます」


「…土方さんも優しいよね。明らかな隊規違反なんだから私なんてとっとと殺しちゃえばいいのに」


「…そのようなこと言わないでいただけますか」

冴の言葉にきつく眉根を寄せる山崎。


山崎は冴に目隠し、口に轡をかける。


「では呼んできます」




新人隊士を蔵の中に連れ、山崎が説明をする。


「…こいつは隊規を違反したものだ。君は副長から竹刀一日千回叩きを命じられている。今から三日間だ。口外しないでくれ。宜しく頼む。ただ…」

口を噤む山崎は眉根を寄せ、冴の姿を見やった後、言葉を零す。


「…殺さないでくれ」



「もし死んでしまったら?」


「その時は致し方ない。俺は外で見張っている。時間になれば迎えにくる」

隊士の問いに淡々と応える山崎。


山崎は蔵の重い扉を閉めた。








「土方さん、入りますよ」


「どうした、総司」

障子戸を開けた沖田に視線を向けることなく、筆を走らせる土方。


「冴、知りませんか?」


「ああ、松原なら俺が遣いに行かせた」

土方はあくまで淡々と応える。


「へぇ。近い場所ですか?」


「ああ、だが監察も兼ねているからな。しばらくは戻らないぞ」


「…わかりました」

障子戸を閉めた沖田は小さく息を吐いた。


遠くなっていく沖田の足音に土方は少し筆を止め、息を吐き、また筆を走らせた。






1日目が終わり、山崎は蔵の中へと入る。

熱の篭った空気が山崎を包む。

目に映った光景は最初、山崎が見たのと同じ体勢で土下座するような体勢のままの松原だった。


山崎は眉根を寄せる。


「ご苦労だった」

隊士を帰らせ、冴の元に寄る。


轡を外された冴は大きく息を吸い、静かに息を吐いた。


「近づかなくていいよ。臭いし。…生きてるから、大丈夫だよ」


「…はい」

山崎は眉根を寄せ、冴の言葉に小さく応える。


「…総司は気付いてない?」


「…そのようです」


「…よかった」

口元に微かに笑みを浮かべた冴を山崎はじっと見つめていた。







3日目。土方が山崎を従え、蔵に入る。


蔵の中は異臭が鼻につき、眉間に皺が寄る。


ぐったりと倒れている冴に山崎が駆け寄る。


目隠しと轡を外された冴。


「松原さん、山崎です。分かりますか?」


「…」

微かに頷く。




「…反省は出来たのか」

眉間に深く皺を寄せ見下ろす土方に視線だけを絡ませる冴。


「…て、…くださ…」

冴は小さく掠れた声で言葉を零す。


「ああ?」

聞き返した土方に冴は唾を飲み込み、一度大きく深呼吸した。


「会わせて…くだ…さい」


「…総司にか」


「…あの…人に…」

土方は重く長い溜め息を吐く。



「…てめぇもとことん馬鹿だな。…一度だけだぞ。…山崎、今総司は?」


「巡察の時間です」

淡々と応える山崎。


「…風呂でコイツを綺麗にしてやれ。それから…その女のところに連れて行ってやれ」


「承知しました」

軽く頭を下げる山崎。


土方の言葉に冴が口を開く。


「あり…がと…、ござい…ます」


「帰ってきたら俺が直々にまだ絞ってやるからな、覚悟しとけ」


「…は…い」

睨みつける土方に小さく頷いた。


山崎は冴を両手で横抱きし、風呂場へと向かう。


「…ごめん…ね。山…崎…くん」


「…気にしないで下さい」







「松原さん、お水です。ゆっくり飲んでください」

小さく頷いた冴は竹筒の口からゆっくりと流し込まれる水を零しながらも少しずつ飲んでいく。


山崎が竹筒を口元から離せば、冴は口元に少しの笑みを浮かべた。


風呂の踊り場に冴を横たわらせる。



「…失礼します」

冴の着物の帯を緩め、胸襟から開いていく。


「…っ!」

冴のことを思った山崎は思わず目を閉じ、俯いた。


女性らしく細くも整えられた筋肉を持つ冴の身体には全身に痣や出血の後、切り傷、腫れが見られた。


眉根を寄せる山崎に


「ごめんね…」


「…」

山崎は何も応えずに着物を脱がせた。



「…洗っていきますね」

山崎が冴に優しく声をかけ、小さく頷いた冴。


傷が染みるのか、眉間に皺を寄せたり、小さく呻いた。


山崎は労わるように湯をかけ、優しく拭いていく。


弱り果てぐったりとしているその様ですら、山崎は「綺麗だ」と思ってしまった。



全身を洗い、綺麗に拭いていく。


傷には軟膏や薬草を塗り、冴を着替えさせた。


着替えさせた冴を壁にもたれて座らせ、用意していた冷めた粥を口に運んでやる。


「…はぁ。…生き返ったかも…」

冴は嬉しそうに目を細めた。


「ありがと、山崎くん」


「いえ」

視線を合わせ感謝を伝えた冴に山崎は短く応えた。


その後、言葉を交わさないままその場所で身体が落ち着くのを待っていた二人。



一度、大きく息を吐いた冴が口を開く。


「…行かなきゃ…ね、総司が来る前に」


「そうですね。…歩けますか?」


「ごめん、支えてくれる?」

冴は申し訳なさそうに山崎に手を伸ばし、山崎もその手を取って冴を引き上げる。


「…あ、意外と大丈夫そう。伊達に組長やってなかったね」

冴の言葉に山崎は思わず小さく笑みを零した。


「ついて来て…もらえるのかな?」


「…もちろんです」


「ありがとう」

山崎の応えにそっと笑みを浮かべた冴。


他の隊士にも見つからないようそっと屯所を出た。







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次で第1部最終話となります。



よろしくお願いします。






みふゆ