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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
ここ最近の千鶴の顔は浮かなかった。
沖田に想いを伝えたわけではないものの、沖田と冴が恋仲であることを知ってしまった千鶴は、
事あるごとに溜め息を零していた。
土方に呼ばれた千鶴は遣いを頼まれ、静かに頭を下げた。
立ち上がろうとした千鶴に土方が口を開く。
「最近、随分とでっかい溜め息ばかりついてるそうじゃねぇか」
「え?…いえ、そんなことは…」
思いも寄らなかった土方の言葉に目を丸くする千鶴。
土方は千鶴を見据える。
「あいつらのことか?」
「…」
千鶴は息を飲み、咄嗟に視線をずらした。
「あいつらはもうどうしようもねぇんだ。放っておけ」
「…」
土方の言葉に眉根を寄せ、口を真一文字に結ぶ。
その表情を見た土方が大きく溜め息を吐く。
「あいつらの事なんざ考える暇もないくらい、お前に仕事を与えたっていいんだぞ?」
土方の言葉を大きな瞳で捕らえた千鶴。
「…どうする?」
「…はい、お願いします」
千鶴は土方をまっすぐに見つめ、はっきりと応えた。
その様を見た土方は口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「江戸の女ってのは強ぇなぁ。お前はそうやってずっと…俺の傍にいりゃいいんだよ」
「はい!」
気丈に応える千鶴を目を細めて見つめる土方。
「じゃあまずは上手い茶を淹れて来い」
「はい、失礼します!」
笑顔を零し、頭を下げ部屋を出て行く千鶴。
『…あの様子じゃ俺の言葉の意味なんてわかっちゃいねぇな』
障子戸に映る千鶴を見送った後、小さな溜め息を吐いて、喉の奥でクッと笑った。
「総司?体調どう?」
沖田と部屋で朝餉を食べ、所用を済ませたあと、沖田の部屋に戻って来た冴。
「いいよ?今日は…非番だっけ。その本どうしたの?」
冴が持つ本へ視線を移す。
「うん、非番。これは近藤さんが面白いから是非読みなさいって貸してくれたの。
でね、暖かいし、総司も日向ぼっこしないかなと思って」
「いいね」
冴の言葉に思わず笑みを零す沖田。
「ついでに布団も縁側に干しちゃおう。ね」
縁側に布団を敷いて、柱にもたれながら本を読む冴。
敷布団の上で寝転がり、冴の膝枕で寝ている沖田。
「…おい。何してやがるんだ」
廊下を歩いてきた土方が怪訝そうに二人を睨みつける。
「あ、土方さん。ちょっと総司を干そうと思って。たまには日に当ててあげないと」
満面の笑みで応える冴。
「邪魔なんだよ!」
「…ここに隙間作ってますよ?」
土方の怒号に冴は不思議そうに廊下に空けられた空間を指差した。
「うるさいですよ、土方さん。二人の時間を邪魔しないで下さい」
目を開けた沖田が今度は怪訝そうに土方に言葉を投げた。
「邪魔だっつってんだろうが!他の隊士に見られるような場所でいちゃついてんじゃねーよ!」
「僕達公認でしょ?いくら忠司くんが可愛いからってヤキモチ焼かないでくださいよ」
上体を起こした沖田が冴の肩を抱き、引き寄せる。
「…俺は認めた覚えはねぇぞ」
「じゃあ、ここで土方さんに認めてもらえるようなことしようか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよっ!!」
冴の顔を覗き込む沖田に、眉間に深く皺を寄せた土方が吠える。
「忠司!後で部屋に来い!」
「忠司くんじゃなくても一君でいいじゃないですか。今日は忠司くん非番なんですから」
「勝手にしろっ!」
沖田をキッと睨みつけ、言葉を吐く土方。
土方は不機嫌な足音を立て、その場を過ぎていく。
その後姿を見送る二人。
「…総司。土方さんをからかいすぎじゃない?」
「そう?張り合いを与えてあげてるんだけどな」
眉根を寄せる冴に沖田はクスリと笑い、もう一度冴の太腿に頭を乗せた。
人を斬ることに身体は慣れてきたが、沖田から愛され、皆から慕われようとも
その心に開いた暗闇が小さくなることはなく、人を斬るごとにその穴は広がるばかりだった。
そんな自身の心の奥を読み取ることを避けていた冴。
冴は隊務や沖田の世話の合間を見つけて、西本願寺の仏像を祈るわけでもなく毎日眺めていた。
その様を見ていた僧侶が冴に声をかける。
「いつも眺められていますね。念仏など唱えはしないのですか?」
「…人斬りが…念仏を唱えてもいいんでしょうか」
僧侶の顔を見ず、仏像を見上げたまま言葉を呟いた冴。
その言葉に僧侶は軽く眉根を寄せ、目を伏せる。
『出来ればこの方の心の闇を薄めてあげてください』
僧侶は仏像に手を合わせた後、静かにその場を去った。
『人を一人殺めたのなら、誰か一人を救いたい』
隊務をこなす日常で冴の中にこの想いが沸々と湧き上がってきていた。
真夏、夕暮れ迫る中、巡察にて不逞浪士たちと一戦交えた四番組。
辺りには血の匂いが漂い、死体も何体か倒れていた。
「…終わったかな」
辺りを見回す冴が小さく呟く。
「組長、捕縛も終わりました」
「じゃあ捕縛者は連れて、後は監察に任せようか。行こう」
部下の言葉に淡々と応える冴。
その時、辺りに劈(つんざ)くような悲鳴が響く。
「キャーッ!!…貴方!貴方ーっ!」
「…!」
後方からの声に驚き、振り返る冴と隊士たち。
女は駆け寄り、夫であろう男の亡骸を揺する。
『…あの女(ひと)、身籠ってる』
冴は目を細め、眉根を寄せた。
「…あの男の妻のようですね。やりますか」
「…やめよう」
部下の言葉に制止をかけた冴。
刹那、女と目が交わる。
咄嗟に踵を返した冴。
「ですが」
「行くよ」
部下の言葉を遮り、歩みを進めた冴。
『今までも…家族がある人間を斬ってきたんだ…。そして…これからも…。』
眉根をきつく寄せ、口を固く結ぶ。
自身の胸襟をグッと掴み、前方を睨んでいた。
その時から一月経とうとしていた頃。
「…冴。どこ行くの」
冴の後姿を見つけた沖田が声をかける。
「ちょっと市中へ行ってくる」
「…じゃ、暇だし僕も…」
「総司は寝てなさいよ。久々に巡察復帰もしたんだから」
口元に軽く笑みを浮かべ制止した冴。
「…何、浮気?」
「かもね」
クスリと笑いながら目を伏せ、沖田の横を通り過ぎていく。
沖田は冴の後姿を目を細めて見つめていた。
「…松原さん、いつもありがとうございます」
頭を下げながら、小袋を受け取る女。
「…じゃあまた」
冴も頭を下げ、踵を返し屯所へと帰る。
この時物陰から冴をじっと見据える瞳に、冴は気付きもしなかった。
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第31話まで来れました~。
ありがとうございます!!m(_ _ )m
コメント下さる皆さん、ペタ下さる皆さん、拙いお話に触れてくれる全ての皆さん。
本当に感謝しています。
ラストまでもうすぐ。
宜しくお願いします!!!!!
みふゆ