小説設定はこちらをご覧下さい → ★
第1話はこちらから → ★
いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
「土方さん!」
道場に入った藤堂が一際大きな声で呼びかけた。
道場内の者がその声に振り返る。
「何だ、平助」
上座で胡坐をかき、腕を組んでいた土方がその声に応える。
「あ、もう終わる?」
「ああ、今終わったとこだ」
「あ~。じゃあ駄目だな。お前、悪いけど次の機会にまた鍛え直して来いよ」
眉根を寄せながら、冴に手をヒラヒラと振った。
「どうした、平助?」
土方は道場内によく通る声で藤堂に問いかける。
「いや、近藤さんにコイツも道場へ連れて行けって頼まれてさ」
親指で冴を指しながら溜め息混じりに応える。
「…近藤さんが?」
眉間に皺を寄せながら、藤堂の横に佇む冴を睨む土方。
「まあ、でもコイツ見るからに弱そうだし、気合だけじゃここはやっていけないから、今回は帰ってもらって…」
「…仕方ねぇな。てめぇで最後だ。誰か木刀貸してやれ」
土方は藤堂の言葉を遮って、溜め息混じりに言葉を吐いた。
「相手は…そうだな、島田。お前行け」
「承知しました」
島田は頭を下げて立ち上がる。
その様に道場にはどよめきが起こる。
「おいおい、土方さん。いくらなんでもあんなひょろい奴に島田をぶつけるってのは…」
土方の近くにいた永倉が声をかける。
「いいじゃねぇか。それなりの覚悟があってここに来たんだろ?実際敵に島田みたいな奴はゴロゴロいやがる」
口角をあげ、目を細めた。
入り口に荷物を置き、近くにいた隊士から木刀を受け取る。
冴は迷うことなく、島田に向き合うため、足を進めた。
「両者、前へ」
「…始めっ!」
島田が気合のため声をあげるも、それを冴は何とも感じてないようにゆったりと構えていた。
島田が冴の手元を目掛け、最初の一振りをした刹那、
冴の身体はゆらりと動き、冴の木刀は島田の喉元で寸止めされていた。
「…っ!!?」
自分の置かれている状況に目を見開き、息を飲んだ島田。
一瞬で静まり返り、張りつめた空気に包まれる道場内。
「へぇ」
道場の隅に座り込み、壁に持たれていた沖田が嬉しそうに目を細め、口角を上げた。
「勝者…。…敗者、島田」
判定役が戸惑いを加えた声をあげる。
位置に戻り互いは静かに礼をする。
「…おい。次、平助。お前行け」
藤堂に指示を出す土方。
「俺?まぁ、いいけど」
眉を上げるも、口元に笑みを浮かべた藤堂。
指示を聞いた隊士たちが更にどよめく。
「お前、面白いな。出会ったばかりで悪ぃけど、痛い目見たらごめんな?」
藤堂は中央に歩みを進める。口角を上げながら、得意げに冴を見た。
「両者、前へ」
「始め!」
藤堂が声を上げ気合を入れるも、やはり冴は飄々としていた。
藤堂が攻めるも冴はそれを受け流していく。
『こいつ、力の流し方知ってるな』
鍔迫り合いとなれば、力の差で藤堂が押すも、力を流し間合いを素早く取り、体勢を立て直していく。
藤堂が木刀を振るえば、寸でのところで避けていく。
『くっそ!動きが読みにくいな、コイツ』
次第に藤堂の眉間の皺が深くなる。
「おいおい、平助。手加減なんて無用だぞ」
「うるせぇよ!外野は黙ってろ!」
永倉のガヤに藤堂が吠えた。
踏み込む足音。
木刀が強く当たる音。
木刀の空を斬る音。
二人の息遣いまでもが道場を包む。
両者、決め手がないまま時間が過ぎていく。
そんな折、不意によろめいた冴。
そのまま体勢を崩し、床に倒れこんだ。
「もらいっ!!」
藤堂が木刀を冴に振り下ろそうとした刹那。
「止めっ!」
判定役ではなく、土方の声が道場に響き渡る。
咄嗟に動きを止める両者。
冴の身体は藤堂の振り下ろされるであろう刀道を避け、
冴の木刀の矛先は藤堂の足の腱を切ろうとする位置で寸止めされていた。
「な…っ!」
それに気付き、思わず声を上げる藤堂。
それを見た幹部は眉を上げる者、目を見張る者、見据える者、それぞれの反応をしていた。
「…流石、近藤さんが連れてきただけあるね」
沖田はクスクスと笑いながら満足げな表情を浮かべた。
「両者、礼」
軽く頭を下げる二人。
二人とも額からも玉のような汗を流していた。
藤堂が冴に近づく。
「お前、強いんだな。…さっき弱そうに見えるなんて言って悪かったな」
申し訳なさそうに頭を軽くかいた。
「お前、名は?」
「…松原」
土方の問いに冴は短く答えた。
その問いに長く息を吐いた土方。
「幹部は広間に集合してくれ。斉藤、近藤さんを広間に呼んできてくれないか」
「承知しました」
斎藤は軽く頭を下げ、立ち去る。
「松原と言ったな。お前も広間に来い。平助、お前が連れて来てくれ」
「わかった」
土方に頷く藤堂。
「他の者は解散!」
土方の凛とした声が道場内に響き、隊士たちがそれに応えた。
道場を出、広間に向かいながら、山南が土方に言葉を投げる。
「さて。困りましたね」
「ああ…」
土方は短めに溜め息をついて、目を伏せた。
広間に集まった幹部は冴を取り囲むように座っていた。
「皆、待たせてすまないな。おお!松原くん、君もいたのか。松原君はどうだった?」
一際明るい声をかけながら広間に入ってくる近藤。
「島田くんはあっという間に。平助ともいい勝負してましたよ」
沖田は言葉を明るめに近藤に応える。
「おお!そうか!やはり俺の目に狂いはなかったな。どうだ、歳、彼をうちに迎えいれても…」
うんうんと頷きながら土方の横に座り、冴を見て満足げに笑う。
「悪い、近藤さん。その前に確認したいことがある」
横目でちらりと近藤を見やる。
「ん?何だ?」
眉を上げる近藤。
「松原。お前、名は何という」
冴を睨みながら問う土方。
「…松原…冴…です」
その目を反らさずに答える。
「なっ!」
「は?!」
目を丸くする近藤と藤堂。
「君、女だったのか…?」
「…はい」
近藤の問いに小さく頷いた。
「…だろうと思ったぜ。平助、お前も気付いてなかったんだろ?」
原田はニヤリと笑いながら平助を見やる。
「だって、女だなんて頭の片隅にもなかったし…、確かにひょろっこい奴だとは思ったけどさ」
分が悪そうに答える。
「松原。お前、何でここに来た?」
「いや、歳。俺が山中を迷ってる時に稽古してる松原君を見てだな、声をかけたんだ。
見学のつもりで来るといいと言ってな」
冴を睨みつける土方に説明をする近藤。
「見学?隊士募集を見学させたかったのかよ」
横目で近藤を睨む。
「いや、実際松原くんは強いと感じたし、我が隊にも必要な人間だろうと思って」
土方に両手を向けながら弁解をし始めた。
「…あの…申し訳ないんですけど…ここはどこ…なんですか?」
眉根を寄せて土方を見、口を開いた冴。
「壬生浪士組と言います。聞いたことはございませんか?」
近藤の隣に座っていた山南が冴に優しい口調で声をかけた。
「…はい」
申し訳なさそうに小さく頷く。
「そうですか…」
「ああ、山南くん。松原くんは道場などには通っておらず、おじい様から稽古をつけてもらっていたらしい」
山南の嘆きに近藤が答える。
「おい、じいさんの名前は?」
変わらず眉間に皺を寄せ、冴を睨む土方。
「松原忠司…」
「聞いたことはありませんね」
山南は小さく言葉を呟いた。
「お前、身寄りは?」
「…いない…です」
土方の問いに答える冴。
土方の重く長い溜め息が部屋に広がる。
「…近藤さん、悪いが俺は反対だ。腕がいいのは確かだ。
だが女が入隊となれば規律が乱れるのは目に見えている。
隊士として生きて行かせるのは酷じゃねぇか?女には女の幸せが…」
「だが、歳。お前も見たんだろ?松原君の腕をここで見逃すのは惜しいと思わないか?
腕の立つものは易々捕まえられるものではないぞ」
説得しようと身体を向け、土方に訴える近藤。
そんな中、沖田が口を開いた。
「ねえ、君。君はどうしたいの?」
「…よく…わからない…です」
俯きながら答える。
「君さ…、刀は持っているの?」
「家に行けば…祖父が使っていた刀があります…」
沖田の顔を見て、頷く冴。
「そうなんだ」
短い溜め息を吐いて、土方を見やる。
「土方さん、今日はもう遅いし、この子もいきなり連れてきちゃったんでしょ?
見たところ何も持たずに来たようだし。
一日考える猶予くらいあげましょうよ。もう暗くなる時間ですし、僕がこのコの家に行きますから」
「ちょっと待てよ!何で総司が」
声をあげる藤堂。
「じゃあ平助行く?でも今日夜の巡察でしょ?僕だけが不安なら…一君、明日非番だよね?
一緒に行こうよ」
「…副長の命令とあれば」
斎藤は土方に視線を向ける。
「わぁーったよ、許可すりゃいいんだろ。斎藤、くれぐれも総司が変な真似しないよう見張っててくれ」
「承知しました」
目を伏せながら軽く頭を下げる。
「信用ないなぁ」
軽く笑いながら肩をすくめる。
再び冴を見据える土方。
「松原、自分がどうしたいのか考える猶予をやる。お前は女だ。
…無理に男として生きる意味もないと俺は思うがな。
返事は明日伝えてくれ。あと…、いきなりで悪いがこっちの沖田と斎藤を泊まらせてやって欲しい。
屯所に女を泊めるわけにはいかないんでな」
「…はあ」
納得いかないような表情で頷く冴。
「じゃあ早速行こうか。君の家、山の中なんでしょ?」
楽しげな沖田が冴に向かって笑いかけた。