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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
鳥羽伏見の戦いが始まり、
綺月の耳にも新撰組が江戸へ渡ったことも届いてはいた。
綺月は日中には今まで土方から貰っていた文を
読み返すことが多くなっていた。
これから春を迎えようとする頃、江戸の土方から文が届く。
綺月を優しく気遣い、
江戸で体勢を整え、薩長を迎え撃つという力強い文面だった。
大変で忙しい時期であるのに自分の為に時間を割いてくれたと
思わず口元に笑みを浮かべる綺月。
席への準備をしている際にスッと襖が開く。
「綺月…」
「…風間様?」
突然部屋に入ってきた風間に目を丸くする。
「お前、土方に会いたいか」
「…え…」
唐突な言葉に言葉を失う。
その表情に風間は目を細める。
「お前と土方を会わせ、この俺様が直々にお前達を殺す…というのはどうだ」
「どうせ先の短い人生であろう?二人で逝かせてやる」
楽しそうに口角を上げる。
「風間様…。私はあの方に約束をしました。ここで待っていると。
例え残り僅かな時間でも貴方様に断ち切られるのは笑止」
風間を睨みつける。
綺月の言葉を喉で笑う風間。
「なぁに。冗談だ。…俺が本気で言ってないことくらいわかると思っていたが。
綺月、お前も余裕がないな。それほどまで…と言うわけか」
目を伏せる。
「俺は人間に囚われている我妻を迎えに行くだけ。
そうだな…。時間があれば新撰組の最期を我妻と見届けてやってもいい」
火鉢に目をやり、言葉を溢す。
「まだ新撰組が最期を迎えるかどうかはわかりません」
綺月の言葉に風間は軽く溜め息を吐いた。
「…あやつに伝言などあるか。聞いておいてやる」
「…ありません」
「…可愛いげのない女だな。いや、哀れな女と言うべきか」
横目で綺月を捉え、口角を上げながら、部屋を出ていった。
梅雨をが終わろうとし、季節が夏に向かう頃に来た文には
近藤の処刑されたことが記されていた。
『近藤様…』
あのおおらかな笑顔。
席についた時も人を引き付けるものを感じ、
また隊士に慕われいることも十二分に伝わっていた。
綺月に近藤の逸話を話す土方は心底楽しそうにしていた。
胸が傷み、胸に手をあてる。
傷みに顔が歪む。
『歳三さんの心の支えであった方なのに…』
そして文には沖田が千鶴に看取られたことも記されていた。
『沖田様…。千鶴さんに看取られ頂けたんですね。穏やかな最期を迎えられたはず…』
文面を最初から読み直す。
『ああ…。お一人で抱え込んでいらっしゃる…。
お辛いでしょうに…。傍にいてあげたい…』
綺月は文を抱き締め、はらはらと涙を流した。
山中にて夜営をすることとなった旧幕府軍。
陣営を少し離れ、一人佇む土方の姿があった。
視線の先には闇に浮かぶ月。
聞こえてくるのは風が木々を掠める音と、微かな虫の声。
月を見つめ、一つ息を吐いた。
近づく足音に神経を向け鞘を握る。
「…副長」
「…斎藤か。どうした」
構えを解く。
「大鳥さんが副長を探していらっしゃいました」
「わかった。すぐ行く」
「…月を見上げていらっしゃったのですか」
「ああ」
もう一度月を見つめる。
斎藤もつられるように月を見る。
「闇夜を照らしてやるから、己を信じて進めだとよ」
鼻で笑い、斎藤の横を通り過ぎていく。
暗闇に溶けていく土方の後姿を目で追う斎藤。
『微衷を尽くせ…か』
斎藤はもう一度月を見つめた。
戦いは瞬く間に蝦夷の地へと降り立った。
蝦夷から届いた土方の文。
「月を見上げるのももう飽きた」
「お前に会いたくて仕方がない」
「この戦いに勝利して必ず迎えに行く」
綺月の心を両の手で包むかのような言葉ばかりが認められていた。
綺月は眉根を寄せて、静かに息を吐いた。
麗らかな春の日の京。
綺月は家の者たちと共に、身請けする揚羽を見送ろうとしていた。
女将に挨拶をして、綺月の前に立つ揚羽。
「あんたもあんな人のことさっさと忘れて、
とっとと身請けすりゃいいのよ」
揚羽の言葉にくすりと笑う綺月。
「身請けの話なんて私よりも沢山あったはず。
断るなんて勿体ない」
「心配してくれてるの?揚羽」
「別に心配なんかしてないわよ」
照れ隠しか揚羽を目を反らす。
「私は貴女が羨ましいわ、揚羽。私も貴方のようにスッパリと想いを断ち切れたらいいのに」
「あんたの一途さには呆れるわ。精々私の幸せを妬んでいなさいね」
「そうね、そうすることにするわ」
くすくすと笑う綺月。
揚羽も口元に笑みを浮かべる。
「幸せにね」
「言われなくても」
綺月の言葉に揚羽は横目で流して籠に乗り込んだ。
いつまでも籠を見守る綺月。
「そんな顔して」
女将が後ろから声をかける。
「お前もそのうちあの人が迎えに来て身請けされるんでしょ?
こっちにしたら堪ったもんじゃないけどね」
女将がからかう。
女将の言葉に破顔する。
「さ、今日も稼いでおいでね」
肩をポンと叩かれる。
「…はい」
ふと見上げた空。
雲もなく澄み渡る空の下、場所は違えど土方が居る。
小さく深呼吸して空に笑いかけた。
蝦夷の地では二股口の戦いが始まる。
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次の、次で、最終話です。
最後まで見届けていただければ幸いです。
みふゆ