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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
陽も傾き始めた夕刻近くの屯所。
「一くん、何してるの?」
自室から出てきた沖田は縁側に腰かけていた斎藤に声をかける。
「ああ…少しな」
沖田を見上げたかと思えば視線を庭に移す。
その先には男装をした娘が一人…。
紆余曲折あり、新撰組預かりとなった雪村千鶴の姿。
「ああ、千鶴ちゃんね。そんな遠くから監視しなくたって。
もう監視もいらないんじゃない?」
斎藤の少し離れた横に腰を下ろす沖田。
「ああ、まだ一応…な。近くに寄ると雪村が緊張し気を遣わせてしまうからな」
「あれ、一くんもしかして千鶴ちゃんのこと好きになっちゃった?」
口角を上げる沖田。
「馬鹿なことをいうな…」
軽い溜め息と共に言葉を吐く。
「ふーん。…あれ、土方さんまた出掛けたの?」
副長室に人気がないのを感じた沖田が言葉を溢す。
「ああ」
「何かここ最近頻繁じゃない?」
「言われればそうかもしれぬな。今日は局長と共に会合に出席だそうだ。
…外出が多くなったとは言え、左之や新八、平助に比べれば比じゃないだろう」
「贔屓の娘が出来たとか?」
楽しげな表情を見せる。
「副長は昔からおもてになるからな。そうであっても不思議ではない」
「あの子かなぁ~」
手を顎に寄せてクスクスと笑う。
「詮索は不粋だぞ、総司。副長は心労が絶えぬ。少しの気晴らしくらいいいではないか。
そもそもその心労の大半がお前ということを理解しろ。大体あんたは日頃から…」
横目で沖田を見ながら説教を始める。
「あ。千鶴ちゃんがこっちにくるね」
斎藤の言葉を遮り、庭先の千鶴を見ながら斎藤に話しかける。
「総司、俺の話を聞いているのか」
少し荒げた声を出す斎藤。
聞き流している沖田を見て、溜め息を吐く。
「雪村を手伝うならまだしも、からかいに行くなら止めろ」
「何で?今の時間に洗濯物取り入れてるってことは今日は洗濯物が多かったってことでしょ。
一人であれだけの量の洗濯物畳むのは大変だから、誰か話し相手いた方がいいと思うけど?」
飄々とした表情を浮かべる。
『何ゆえ手伝うのではなく、話相手なのだ…』
少し呆れぎみの斎藤。
「…では俺も手伝おう」
「一くんは来なくていいよ」
立ち上がり口元に笑みを浮かべて、手をヒラヒラと振る。
『誰が雪村に惚れてるのか…』
廊下を歩いていく沖田の背中を見る。
『総司がいれば監視も必要ないな』
「…稽古でもするか」
斎藤は道場に足を向けた。
土方は会合も終わり店を出る。
『門限まで数刻あるな』
綺月の元へ足を向ける。
綺月と出会って二月(ふたつき)。
最近の土方は4、5日空けては時間を縫って綺月の元へ通っている。
土方自身、綺月に嵌っている自覚はあった。
4、5日も空ければ自身の身体が疼き、綺月を求めているのがわかる。
牡丹が咲くかのようなふわりとした笑顔。
何処かしら憂いを帯びた瞳。
綺月自身から香るほのかな甘い香。
抱けば抱くほどに欲しくなるしなやかで甘美な身体。
今宵も互いの身体に酔い、滴る雫は互いの身体に溶けた。
土方は仰向けで顔だけ綺月に向け、腕枕されている綺月を見つめていた。
「土方様、少し私の独り言を聞いて頂けませんか?」
目を伏せていた綺月がうっすらと目を開けて、
土方を見ずに話し始めた。
「独り言?」
呟いた土方。
「…私は依然…ある一人の方をお慕いしておりました。
その方も私を好いてくれていたはずだったんですが…。
互いに想いは告げずに…。やがてその方はここには足を運ばなくなり…
風の噂で亡くなられたと聞きました…」
黙って聞いている土方だったが、
空(くう)を見つめる綺月に『戻ってこい』と言わんばかりに、
ゆっくりと綺月の柔らかい髪を撫で始めた。
「あれから数年…。もう誰かをお慕いすることはないと思っておりました。
もしどなたかこの先にお慕いすることがあれば素直に想いを伝えよう、そう思っておりました」
「長ぇ独り言だな?」
土方はクッと喉で笑う。
「土方様、お慕いしております」
恥じらいもなく揺るぎない瞳で土方を見つめる。
その様が綺麗で土方は息を飲んだ。
「…それも独り言なのか?」
「貴方様がそう捉えるなら聞き流して頂いて構いません。
…所詮、独り言、ですから」
艶やかな唇をきゅっと結び、また言葉を紡ぐ。
「あの時のように後悔したくない…私の自己満足に過ぎません」
「…俺が新撰組とわかってて言ってんだよな?」
綺月を見据える強い瞳。
「はい」
「俺が死んだらどうするんだ」
「…人間いつ死ぬかなんてわからないものですから」
目を伏せがちに応える綺月。
「前の旦那より俺を好いてんのか」
「…意地悪な方」
くすりと笑う。
「わかんねぇな?」
口角を上げる土方。
「あの方より好いているからこそ、後悔したくなくて申し上げていますのに…。やきもちですか?」
「…ああ、やきもちだ。悪ぃか」
綺月を強く抱き締める。
「綺月、俺はお前を好いている」
「もし俺が死んでも次の旦那が出来ねぇくらいお前を愛してやる」
土方の言葉に目を見開く綺月。
次々と涙は溢れ、土方の腕と布団を濡らしていく。
細い肩は次第に震え、小さく嗚咽を漏らしていった。
土方はそんな綺月を腕に閉じ込めながら、柔らかな笑みを浮かべていた。
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ここで言う旦那とは心を寄せたご贔屓さんってことです。一応、ね。
みふゆ