私は急いでメラニーのいるオフィスに行くと、

マディソンはどうしたのか、たずねました。


" She left"

(帰ったわ)


" What?! What do you mean she left?"

(え、帰ったって・・・・どういう事ですか?)


" Well......We can't help the person who doesn't wanna be helped"

(あのねぇ・・・・、私達は助かりたくない人は、助けられないの)


メラニーはこういう事はよくある事だから慣れている、という感じで

とてもあっさりしていました。


"Where did she go......you think?"

(どこに行った・・・・と思います?)


"I'm for sure she went back to her husband"

(決まってるじゃない、旦那のとこよ)


ショックでした。


体中にタバコの火を押し付けられても、

それでもやっぱり帰っちゃうんだ・・・・


でも正直ちょっと分かるような気持ちもしました。


不安なんです、とにかく。

この何とも説明し難い、不条理な感覚は

一度ドメスティックバイオレンスにはまったことのある人でないと

分からないかもしれません。


誘拐されて、長い間監禁され続けた人は

逃げるチャンスがあっても、

なかなか自分から逃げ出せなくなるそうです。


☆USA☆ My Days in New Jersey

道理に反しているのは

分かっているけど

ものすごく不安で不安で

どうしようもなくなる感覚。

思い切りがつかない。


自分は価値のない

くだらない人間だから

この状況を乗り切れるわけがないから

やっぱりいつもの場所に戻ろう

私さえ我慢すれば、


すべてがうまくいく

すべて今まで通り

私の世界は壊れない


ずっと虐待され続いてると

そんな気持ちになるんです。




まるでかごの中でずっと飼われていた小鳥が

未知の外界を恐れて

かごのふたを開けても自分から外になかなか出ないのと

似ているかもしれません。


でもこんな考えに囚われてしまうのって、実は罠なわけで・・・・


多分マディソンの旦那さんは、

今夜はマディソンに優しいはずです。


そしてまた少しずつイライラが蓄積していって

バーンと爆発して暴力を振るう、必ず。


それが3日後なのか1週間後なのかは分かりませんが、

タバコの火を押し付ける程、暴力がエスカレートしているなら

そのサイクルは2~3日か、もっと短いでしょう。


一度去った人間は、シェルターは二度と受け入れないので、

私はマディソンの無事をただ祈るほかはありませんでした。


☆USA☆ My Days in New Jersey


















その夜は週に一度のグループカウンセリングがありました。


シェルター入居者には参加が義務付けられていて、

三ヶ月後には、修了証書が与えられることになっています。


このカウンセリングの修了証書は

後に元夫をDVで訴えることになった場合、非常に役に立つので

必ず取得してからシェルターを出るようにと

まりこさんから言われていました。


☆USA☆ My Days in New Jersey

















私は当時あんまり英語が分からなかったので

参加していて意味があるのかどうかよく分かりませんでしたが、

カウンセリングの最中に

みんながかわるがわる泣き出すのを見ていて、

自分と同じような思いをしている女性、

いや、もっとひどい目にあっている女性が

沢山いるんだなぁと思いました。


サンリオでの仕事は

相変わらずきつかったけど、

少しずつ職場の女の子達とも

打ち解けるようになってきました。


特に一番年が近かった中国系アメリカ人のEline(イリーン)とは

結構話すようになったので、

彼女とバイトが一緒の時は嬉しかったのを覚えています。


どうしてイリーンのことがそんなに好きだったかというと、


他のバイトの子達は、

私の英語が通じないときは


はぁ~?って変な顔をしたり、


Never mind (なんでもないわ)

と言って途中で話をやめてしまうのですが、


イリーンだけは

たとえ私の英語が意味不明な時でも

なんとなくGuessして、話を合わせてくれていたのです。


☆USA☆ My Days in New Jersey



















(当時サンリオ店内で取ったスナップ 左がイリーン、右が私)


仕事中ランチは

ひとりずつ交代で20分与えられました。


私は自宅で用意してきた卵サンドを持って、

いつも同じベンチに座っては

あの小鳥を探すのが日課になっていました。


小鳥はたいがい同じ木の枝を跳び回っているか、

フードコートの間をうろちょろしたりして、

人がおとした食べ物のかすなんかを拾っていました。


日本でOLしてた頃なんかは、一人ランチなんか全然平気で、

いやむしろ、好きなぐらいだったのですが、

この頃から、一人でランチを取ることが

非常にむなしい、侘しいと感じるようになりました。


いつかみんなでワイワイランチができるような職場で

働きたいなぁ。


それは、その時の私のささやかな夢というか目標でした。


そんなある日のこと。


メラニーにオフィスに呼ばれ、

Fremont市の開催している

月に一度のグループカウンセリングに

参加してくるようにと言われました。


それはシェルター入居者だけではなく

シェルター以外の場所に住んでいるDV被害女性も来る

もっと大きなカウンセリングだということでした。


そのカウンセリングで私は

ある女性と出会ったのですが、

彼女がこの後、

私の生活を大きく変えるチャンスを与えてくれることになります。


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