今日はショートストーリーを、書こうと思います。タイトルは「クリスマスの約束」です。どうぞ好きな飲み物でも飲みながら、気軽にお楽しみください。
「クリスマスの約束」
桃子は高校生になってから、片道一時間半かけて高校に通っている。桃子の住む所は、右を見ても左を見ても田んぼしかない田舎。だ。友達はみんな保育園からずっと一緒で、小学校も中学校も一クラスしかなかった。
去年のクリスマスイブの日に、桃子は友達とクリスマスを過ごした。その帰り道に、
「桃子。」
と、うしろからよびとめられた。振り返ると雅人だった。
桃子と雅人は帰り道が同じで二人はならんで歩いた。その日は北風が強くふいていてとても寒い日だった。ふと、雅人がポツンとある自販機の前で立ち止まって、あったかいミルクティーを買って桃子に渡した。受け取ると桃子は、
「あったかい。」
と、はにかんで言った。もらったミルクティーを桃子は両手で包み込んだ。冷え切った桃子の手が少しあたたかくなる。雅人は自分の分は買わずに歩きだした。
「雅人は買わないの?」
「もう、金ないし。桃子寒そうにしてたから。」
雅人はそう言って歩く。ふと桃子は雅人を見た。いつのまにか背はずいぶん高くなっていて、肩幅も広い。声はしっかり低くて今まで気が付かなかったけど、すっかり男らしくなっていた。別れ際に雅人が言った。
「来年のクリスマスイブ、二人で過ごさないか?」
「え、もう来年の話?」
「予約しとく。」
雅人はそう言って帰って行った。その言葉が告白だったのかは、知らない。あれからも、雅人は今までと変わらない態度で桃子と接していた。ただ、桃子のほうは雅人を意識してドキドキする日々が続いた。
高校は雅人とはちがう学校だった。時々会うことはあったけど、他にも友達がいて二人きりで会うことはなかった。高校生になってスマホを持つようになっても、雅人とは特別なラインのやりとりをしてこなかった。
クリスマスイブが近づいてくると、メディアはイルミネーションのきれいなスポットを紹介する。行ってみたいなと桃子は思った。
雅人からの連絡はないまま、クリスマスイブになった。桃子はその日、何も予定がないまま家で時間をもてあましていた。もしかして、去年の雅人のあの言葉はただの気まぐれだったのかなと思った時、桃子のスマホが鳴った。雅人からのラインだった。
「夕方六時あの自販機で待ってる。」
その文字を読んで桃子はその自販機がどこかすぐにわかった。去年雅人からミルクティーを買ってもらったあの自販機のことだ。時計を見るとまだ四時半だった。けれど、桃子はコートを着てマフラーを巻いて家を出てそこへ走った。
自販機の前にはすでに雅人がいて、桃子を見ておどろいている。
「まだ時間じゃないのに、もう来たのか?」
雅人が言った。桃子は息を整えて雅人の前に立った。
「あの約束、もう忘れてるのかと思った。」
桃子が言うと、
「俺が言ったんだ。忘れるかよ。」
と雅人は言って、コートのポケットから何か取り出して桃子にくれた。桃子が見るとそれは、おもちゃの指輪だった。
「指輪のサイズわからなかったから。だから今度二人で、指輪選びに行かないか?」
桃子はもらった指輪を右手の薬指にはめてみた。
「わぁ、ぴったり。」
桃子がそう言って右手を雅人に見せた。
「ありがとう。私この指輪で充分だよ。」
桃子はそう言ってから自分のマフラーをほどいて雅人の首にマフラーを巻いてあげた。
「俺はいいから。桃子が寒いだろ。」
「私、何もプレゼントもってきてないから。」
すると雅人は、
「ありがとう。」
と言ってから真剣な顔をした。そして、
「俺とつきあってほしい。」
と桃子の目を見て言った。
「はい。」
桃子がそう返事をすると、
「あー、やっと言えた。ずっと言えなかったんだ。」
と言ってから自販機であったかいミルクティーを一つ買った。そしてそれを桃子に渡した。
「中学のころ、桃子がミルクティー好きだって友達と話してるの聞いたから。」
雅人はてれくさそうに言ってから自分の分のミルクティーを買った。
イルミネーションもクリスマスツリーもない田舎。デートスポットなんてない。でも大好きな人と一緒なら、イルミネーションがなくても、クリスマスツリーがなくても、キラキラ輝くクリスマスイブになる。桃子と雅人はあったかいミルクティーで、乾杯した。