今日のショートショートストーリーは、ありがとうという言葉は、感謝していても言葉にしないと伝わらないというメッセージを書こうと思います。タイトルは、「いろんな世界」です。どうぞお楽しみください。
「いろんな世界」
羽根が、あったらいいのにな。窓の外を見ながら、私はそう思った。
ここは、病院で私は、ベッドの上。医師から、
「今の医学では、治療法がありません。」
と言われたのは、一か月ほど前の事だった。それから、ずっとこうして私はベッドの上にいる。
今日は、平日だっけ?休日だっけ?どっちでも、いいか。どうせ私はベッドの上にいることしか、できないんだから。みんなは何をしているのかな。友達と、出かけたりしているのかな。いいなぁ。私も外に出たい。出かけたい。羽根があったらいいのにな。本気でそんな事を考えた。でも、羽根のある人間なんているわけない。そう思ってため息をついた。その時、
「トントン。」
と病室の戸がノックされて、
「元気か?」
と言いながら、となりの家に住む二つ年上の幼なじみが入ってきた。彼は、ベッドのわきにある丸井椅子に座って、
「おい、元気か?」
と言いながら私の顔をのぞきこんだ。
「元気だったら、こんな所にいないよ。」
私は、すねた感じでそう言った。
「なんだ、元気じゃん。」
彼はそう言って、からっと笑った。私にとって彼は、本当のお兄ちゃんみたいな存在だ。入院生活が長引いて
そのイライラを、彼にやつあたりしたことも、わがままを言ったこともしょっちゅうある。
「おい、いいもの持ってきたぞ。」
彼はそう言って一冊の本を私に手渡した。
「鏡の孤城」というタイトルが書かれていた。
「どうせ暇なら、本でも読め。」
「私、読書なんて趣味じゃない。」
私がそういうと彼は言った。
「俺も同じ本を買ったんだ。だからどっちが、先に読み終わるか競争しないか?」
「競争?」
「そうだ。ゲームだと思って、ためしに本を読んでみろよ。」
「こんな厚い本、最後まで読めないよ。」
「最初から、あきらめるのかよ。」
私は負けたくないという気持ちになってつい言った。
「わかった。この本、読むよ。私の方が先に読み終わってみせるから。」
私はその日から、本を少しづつ読み始めた。本なんて普段読まないから、読むのに時間がかかった。でも、読んでみたらおもしろくてどんどん読みすすめられた。
一週間後彼が病室にやって来た。
「私、この本、読み終わったよ。」
「え、マジか?俺の負けだな。俺はまだ途中。」
「やった、勝った。」
「今度はもっとちがう本を持ってきてやるからな。」
「え、また?」
「本はいろんな世界につれて行ってくれるんだってさ。テレビで言ってた。」
「え。」
「だから、いろんな本を読んで、好きな世界に行ってみろよ。世の中には自分の知らない世界が、きっとまだまだあるからな。」私はその時気が付いた。彼が、私を元気づけようとしてくれていると。ベッドの上でどこにも行くことのできない私に、彼はせめて本の世界を味わわせてやろうとしてくれている。なんだかうれしくなって、目頭が熱くなった。
「お、泣くのか?」
彼がふざけた感じで言った。
「泣かないよ。」
私は、ぷいっと顔をそらした。でも、やっぱりこんなに元気づけようとしてくれているのがうれしくて、私は彼の顔を見て小さな声で言った。
「ありがとう。」
はにかんで言ったその言葉は小さかった。
「え、何?聞こえないぞ。」
あいかわらずふざけている彼に素直になれなくて、私は布団をかぶった。そして、しばらくだまっていた。でも、やっぱりちゃんと伝えた方がいいのかなと思い直して、ふとんから顔を出して彼を見て言った。
「ありがとう。」
彼がいい笑顔で笑った。
「入院生活いやなこともあるだろうけど、なんとか楽しめよな。時間をむだにするなよ。」
「うん。」
私は返事をした。そうだ、どこにも行けないわけじゃないんだ。本の世界はたくさんある。もっといろんな本を読んで、私は私の羽根でいろんな世界を旅してみよう。なんだか少し希望がもてた。
オレンジ色の夕日が病室をてらした。どんな世界に行こうかな。どんな世界がまっているのかな。私はそう思ったら、少しわくわくした。