「反撃のパンチ パート3」
「ごめん。」
彼が土下座をして言った。浮気したからだ。私と彼は同じ会社で働いていてつきあってもう四年になる。お互い一人暮らしだけど、つきあって二年ほどたってからは、私のアパートに彼が泊まりにくることが多くなった。
この前「友達と飲みに行く。」と言っていたけれど、それは友達ではなくて、同じ会社にいる二十代前半の女の子だった。私は、その女の子にずいぶん優しくしてきた。つまり私は、彼からも後輩からも裏切られたのだ。
その夜、となりでねむる彼を見て考えた。どうして、私はこの人と四年もつきあってきたのだろうかと。最初はたしかに好きだった。けれど、私のアパートに泊まることが多くなってからは、自分勝手な彼の性格が本当はいやだった。ご飯を作っても彼は、食費を払わない。彼の洗濯物を洗濯しても彼はお礼を言わない。私は、静かに起きてとなりの部屋に行った。
冷静に考えてみると、私はもうとっくに彼への愛情がなくなっていた。最近、まわりの友達が次々に結婚したから、あせって私も彼との結婚を考えた。でも、こんなダラダラしてつきあっていてもきっと私は幸せになれないだろう。本当は、ずっと前から気がついていた。けれど、彼と別れて一人になるのが怖かった。彼と別れて一人になるのがさみしかった。けれど、このままでいいわけがない。私は彼に手紙を書いた。それを通勤バックにいれてから、明日の計画をたてた。
次の朝、私は彼と一緒にアパートを出た。でも、途中で、
「忘れ物したから、先に行ってて。」
と伝えると、私はアパートに引き返した。アパートにつく前にコンビニによって、切手を買い、昨日かいた手紙の入っている封筒に切手を貼りポストにいれた。そして、アパートにつくと、会社に「体調不良で欠席する。」と電話をした。
さぁ、ここからが勝負だ。私は自分の荷物で必要な物だけをてきぱきと段ボールにいれて、それを宅急便で実家に送った。そして、中古買取業者にアパートまで来てもらい、家具や家電食器を、安くてもいいから全部買い取ってもらった。残った荷物は全部まとめて、ごみとして処分した。からっぽになった部屋を見てから、大家さんのところに行き、部屋のかぎを返した。「急に引っ越すことになりました。」と伝えて、アパートを解約した。
それから、いそいで駅にむかった。たった一日でアパートをかたづけたので、時刻はもう夕方の六時半を過ぎていた。私は歩きながら実家に電話をした。
「しばらく、実家に帰る。」
それだけ伝えて電話を切り、駅へといそいだ。電車に乗り、東京駅まで行き、新幹線で実家に帰る。彼に会わないまま、帰りたい。
駅につくと、帰宅途中のサラリーマンやオーエルで混雑していた。
「先輩。」
聞き覚えのある女の子の声によびとめられた。みると、彼と浮気した後輩だった。
「体調不良で欠席してたみたいだけど、大丈夫ですか。」
彼女は小首をかしげて聞いてきた。浮気がバレていないと思っているのだろう。
「私、会社やめるの。」
私が言うと、
「どうしてですか。」
と彼女はかわいらしい声で聴いてきた。
「海外に行くの。」
私はうそをついた。
「え、じゃあ、つきあっている彼氏さんは、どうなるんですか。」
彼女はうわめづかいで聞いてきた。そんな彼女に私は、きっぱりと言った。
「あんな男、のしつけてあなたにさしあげるわ。」
彼女は、はっとした顔をした。そんな彼女のわきを通り過ぎ、私は改札を通過して電車に乗った。
会社には明日、退職の電話をしなければならない。「海外に留学する。」とうそをつくつもりだ。もともと、あんまり人間関係のよくない会社だったから未練はない。でも三十代で再就職するのは、きっとすごく大変だ。でも、もう引き返さない。
その夜、彼から電話がかかってきた。
「どうして、急にアパートを引き払ったんだ。」
彼はすごく怒っていた。
「明日、手紙が届くから、それ読んで。」
私はそれだけ言ってすぐに電話を切った。それから、スマホをオフにした。
次の日、彼が仕事から帰り、届いていた手紙を読んだ。そこに書かれていた文字は少なかった。
「よくよく考えたら、私はあなたを愛していませんでした。」
彼は手紙を読み終わり、汚い部屋で途方にくれた。今まで彼女がご飯を作ってくれていた。洗濯もしてくれていた。これからは全部自分でやらなければならない。彼は、彼女と別れたのだから浮気相手と正式につきあおうと浮気相手に電話をした。しかし、
「私、浮気っていうのが、スリルがあって、良かったの。好きじゃないし、つきあえないです。ごめんなさい。」
あっさりとふられてしまった。つまり彼は、私からも浮気相手からもふられてダブルパンチをくらったのだ。
私は、なんとか再就職をして、今、自分らしく毎日を生き生きと過ごしている。そう、何歳からだって、人生はやりなおせる。一人になって、改めてそう思った。すがすがしい青空を見て、私は静かに微笑んだ。