今日は神社まで来た。とりいをくぐって狛犬に見守られて歩いていると、参拝を終えた若い夫婦がこちらへ歩いて来た。私は立ち止ってその夫婦を見た。女の人は妊娠しているようで、ずいぶんお腹が大きい。二人は、私に気が付いて、こちらを見ながら歩いて来た。
「この猫、この前も神社に来てたよね。」
女の人が言った。
「そうそう。夕方のけっこう遅い時間に、まるで神様にお願いでもしてるみたいに、神社にむかってたよな。」
男の人が言った。二人は私の前で立ち止まると、
「この神社の猫かなぁ。」
と話た。そこへ、社務所からでて来た宮司さんがこちらにやって来た。私と宮司さんは顔見知りだ。
「こんにちは。」
宮司さんが二人に挨拶をした。二人も挨拶を返した。
「あの、この猫この神社の猫なんですか。」
女の人がたずねた。
「いいえ。でもタマはよくこの神社に来ますよ。」
宮司さんがおだやかな口調で言った。私は野良猫だから名前はない。でも宮司さんは私を「タマ」と呼ぶ。
「お腹がおおきいようですが、出産予定日はいつですか。」
宮司さんが聞いた。
「四月に入ってすぐです。でも、出産が怖くて。この前も二人でお参りに来たんですけど。」
女の人が不安そうに言った。
「そうですか。きっとご利益がありますよ。私も無事に生まれる事を祈っていますよ。」
「僕達にとっては、初めての子供なので、二人ともわからない事だらけで。でも、元気に生まれてくれたらいいなってここで、こうしてお参りしてるんです。」
男の人が言った。
「赤ちゃんが生まれたら、ぜひ見せてくださいね。」
「はい。赤ちゃんが生まれて、落ち着いたらここに連れてきます。」
二人は宮司さんに頭をさげて神社を出て行った。私は、宮司さんの足元まで歩いて行き、そこで座った。宮司さんはしゃがみこんで大きな手で私の頭をなでてくれた。
「家族が増えるというのは、とても嬉しいことなんだよ。」
私は野良猫だから、家族を知らない。家族ってどんなだろうと、考えていると、そんな私の考えを見抜いたように宮司さんが言った。
「家族とは、とてもあたたかくやすらげる存在なんだよ。」
私は考えた。もしかしたら、家族って宮司さんみたいな人のことだろうか。
「タマも寂しい時はいつでもここへ来なさい。」
宮司さんはそう言って庭仕事を始めた。私は、思う。あの若い夫婦に赤ちゃんが生まれたら、見てみたいと。そしてその時は、「ニャー。」と鳴いて、生まれてきた事を祝福してあげたい。家族が増える事が嬉しいのなら、私もぜひ祝ってあげたい。私は、そう思って神社の境内で宮司さんの仕事を眺めていた。